私が小学3,4年生位の頃、母のお兄さんがクモ膜下で亡くなった。まだ30代後半だった。何故か母方の親族は男が短命で不審に思った母の姉が(母は3人兄弟の末っ子。亡くなったのは1番上)地元で有名な祈祷師に霊視を依頼した。
たしか4代前と言っていたと思う、婿入りした当主が迫害されていたらしい。家族と一緒に食事する事も許されず土間で1人で食べていた。事ある毎に理不尽な因縁をつけられ若くしてこの世を去った。亡くなってからも迫害は続きまともなお墓もなくただの石を積んだだけ。手入れも供養もされる事なく荒れ放題になっているとか。
当時はまだ土葬で雑草が生い茂り荒れ放題のその下に無念と憎しみのの思いを抱え埋まっている。
長年の風雨に晒され積んだだけの墓石が崩れ頭の部分に落ちてきている。早く直してきれいに手入れをしなさい。と、祈祷師に言われた。私の祖父に当たる当主も確か脳溢血で亡くなっていた。
亡くなってからも崩れた墓石に頭を潰され辛かっただろう。早速一族総出で様子を見に行くと祈祷師に言われた通り一族の敷地の隅の方で何個かの石が鬱蒼と生い茂った雑草に埋れ転がっていた。
雑草をきれいにむしり墓石も取り除き今度は崩れない様に大きめな石をとりあえず置いた。後日ちゃんとした墓石を設置したらしい。
その後、次の当主は今でも健在で孫もいる。安らかに眠っているのだろうか。どうかあの世では苦しんでない事を祈ります。
話は戻って亡くなった兄の通夜の事。
大人たちは酒盛りを始め子供の私はご遺体が安置された部屋に寝かされた。今思えばとても恐ろしく眠れる状況ではないのですが、そこはさすが子供、布団に入るとすぐにウトウト。少し眠ったのかどうか解らないが何やら誰か居る。酔った大人が部屋に入って来たのかと思い首だけを気配のする方に向けて眠い目を少しづつ開けてみる。焦点が合わずボヤけているがそこに見えたのは白く小さな足だった。
寝ぼけていて状況が解らない。しばらく見ていたらその足はゆっくりと私が寝ている布団の周りをグルグルと周り始めた。
赤い着物の裾が見えた、女の子かな?不思議と怖くなくボンヤリとその足を見つめたままいつの間にか寝てしまった。
朝起きて大人たちにその事を話してみた。みんな驚いていたけど怖がったりしてない様子で母が私の手をとりゆっくりと話してくれた。
母と母の姉の間にもう1人女の子がいた。その子は幼いうちに近所の川で溺れて亡くなってしまった。赤い浴衣を着てお祭りに行く予定であったと。
きっとお兄さんに会いに来たのねと少し震えた声で母は微笑んだ。
その日、お兄さんの火葬が済みお寺に行った時、墓石に刻まれた「きくこ5歳」の文字を見つけた。
数年が経ち例にもれず私の学校でもコックリさんが流行っていた。
言い出しっぺはやはりミズホ。
「ねぇねぇ守護霊と話してみたくない?」また何かやらかすとアラタに怒られると考えながら少し返事に困ってると珍しくアキが乗り気で「面白そう!」とミズホをあおる。
放課後に決行が決まりコッチを見てるアラタに気付いてたがそそくさと教室に入った。(アラタごめんね、少し興味あるし)
用意周到なミズホは既に用意していた。ご存知の通りのあいうえおが書かれた紙を机の上に置いて早く早くと待ちきれない様子。
十円玉に3人の人差し指を揃って置く。「コックリさんコックリさん、いましたらハイにお進み下さい」ミズホが少し早口で言うと十円玉はすぐに動きだしハイを指す。
当たり前の様に私たちは十円玉を見つめていた。誰かが動かしているとみんなが思っていた。
「コックリさんコックリさん、ユウの好きな人は誰ですか?」予想もしないアキの質問にビックリして指を離しそうになり、慌てて十円玉を見る。そうか、アキが乗り気だったのはこれか!しまったという表情の私をミズホとアキがニンマリと笑いチラリと見て直ぐに視線を十円玉に戻す。十円玉はゆっくりとアラタの文字を示す。
「やっぱり〜、ユウってば何かコソコソとアラタ君と会ってるよねぇ。一緒に帰ったりしてさぁ〜」「付き合ってるなら言ってよね、ジャマなんかしないよ。」2人とも勝手な事を言って盛り上がる。コックリさんもそっちのけだ。
確かにアラタとは帰る方向が同じなので一緒に帰るけど別に付き合ってはいない。変な噂でもたてられたらアラタが迷惑するかも、もし好きな子がいたら…好きな子?アラタに?急に不安な気持ちでいっぱいになった。何となく側にいて決して友人たちと一緒にいる私には干渉してこない。私の守護霊に頼まれて仕方なく?ホントは誰か好きな子と一緒に帰ったりしたい?
「アラタ君の好きな子は誰ですか?」ミズホの質問にドキリとした。知りたい、知りたくない、怖い⁉︎そんな私の気持ちを知ってか知らずか十円玉は教えられないと示す。ホッとため息が思わず出てしまったが2人は気付いていないみたいだった。
「な〜んだ、つまんない。」罰当たりなミズホの言葉に少しイラっとする。ミズホは少し空気が読めない無神経な所がある。
「じゃあ、あなたの名前を教えて下さい」アキが気を利かせ質問する。彼女は私とは小学生の頃からの付き合いで彼女の家族も(両親と一つ下の弟がいる)私を可愛がってくれている。
十円玉は「きくこ」と示した。聞いたことがある名前だと思ったけど先の動揺が私の記憶の糸を辿る事をジャマした。
「誰かについている守護霊ですか?」ミズホはたまに核心を突く。直ぐに十円玉は動きだし「ユウのハハに聞け」と示した。
2人は早速聞きに行こうと早口でコックリさんにお帰り頂き後始末を済ませた。
私の両親はミズホの家の近くで飲食店をやっている。錆びれた二階建ての小さな商店街で夕方になると買い物客がごった返す地元では有名な商店街だ。
買い物客を掻き分け目指す店はまだ夕食時前でヒマな様だった。母からアッサリした回答が返ってくる。そう、あの時私の布団の周りを周っていた母の姉だった人。
ミズホとアキは興奮気味でスゴイスゴイと盛り上がり母は少し早いけど、と夕食を勧めた。2人はラッキーとばかりにオムライスをペロリと平らげその日は解散した。
忙しくなる前に店を後にして2人と別れ複雑な気持ちで家路につく。私の守護霊はキクコさんだった。アラタは私の守護霊と相性が良いと言っていた。アラタの好きな人ってまさか⁉︎だからキクコさんは教えられないといったの?バカな考えだとは思ったけど頭から離れない。モヤモヤと嫌な感じ。トボトボと歩いていると風がフワリと頬をかすめた。優しく撫でる様な風に顔を上げるとアラタが立っていた。
「怒ってる?」またしても何もかも知ってる様なアラタに聞く。後ろめたい気持ちと自分の馬鹿らしい考えが真っ直ぐアラタを見る事が出来ず下を向いたまま。
ふっ、とため息の様な声をもらし私の頭を撫でる。さっきの風みたいに。
「今回はキクコさんが乗り気だったんだよ。」思いもよらない言葉にえっ?と顔を上げると少し呆れた様な顔で私の手を引いてアラタは歩きだした。
「キクコさんがユウと話したいって、知って欲しい事があるからってさ。」
「それってキクコさんが私の守護霊だって事?」
「そうじゃないの。俺は知らないけど。」それからアラタは黙ったままだった。
「ねぇ、アラタの好きな人って…」私が言いかけるとその先をさえぎるように立ち止まって言った。
「そのうち解るよ。」
日が沈み薄暗くなっててアラタの顔は良く見えなかったけど、きっとあの笑顔だったのだろう。そして思った(キクコさん、ありがとう)と。
作者伽羅
アラタシリーズですが今回は出番少ないです(笑)
今後の話を投稿するにあたり外せないエピソードと思い一気にまとめました。少しわかりづらい感じになってしまいましたがお許し下さい;^_^A
私の実体験を元にしています。ほぼノンフィクションです。
気に入って頂ければ幸いです。