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中編6
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電話ボックスの怪

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暗闇に光る電話ボックスを見て、気味悪く感じたことはないですか?

特に理由もないのに気味が悪い。

それはその電話ボックスが、別の世界と文字通り繋がっているから…かも知れません。

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その日は小雨の降る、夏には少し涼しい夜だった。

私は職場の先輩2人に誘われ街にナンパに出掛けたが、まったく釣果は上がらず3人ともテンションは下がりきっていた。

そんな中、本日の立案者A先輩が口を開いた。

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「いや〜、今日は残念だったね。まだ時間も早いし気分転換に肝試しにでも行かない?」

ナンパに失敗したから肝試し…まったく意味が分からなかったが、もう1人のB先輩が

「イイね!そういうの待ってたよ!」

1人年下の私に拒否権があるはずもなく、渋々ながら肝試しに行くことになった。

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「なんと本日はぁ!このK県でも有名な心霊スポットゥT坂に向かいまぁすッ!」

ナンパの時にそれだけハキハキしてたら結果も違ったんじゃないか?と思わせるほどA先輩のテンションが高い。

それもそのはず、この男はそういう場所に行くのが大好きなのだ。

そして向かう場所がまた…

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T坂…自分達の地元では超のつく有名な心霊スポットで、戦争で出兵した人たちを埋葬してある軍事墓地というやつ。

兵士が歩く足音が聞こえた。軍服を着た人が何人も立ってこっちを見ていた等、この場所の体験談は数多く耳にする。

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正直帰りたかったが、先輩2人のテンションは上がる一方で、帰りたいと告げた所でとても引き返すようには見えない。

車は目的地を目指し快速で夜道を進むと、先ほどまでいた街中の景色が嘘のように、雑木林に面した人気の無い場所に到着…どうやら目的地らしい。

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駐車場に入ると、有名な心霊スポットにしては駐車場は綺麗に整備してあり、短い階段の上には手入れの行き届いた墓石が並んでいる。

もちろん墓地特有の不気味さはあるが、案外綺麗なんだなと思った。

車が夜中にも関わらず数台停まっており、私たち以外にもモノ好きがいるらしいことが分かった。

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「行ってみますか!」

A先輩が車から降りると、携帯のカメラのライトを頼りに墓地へと歩き出した。

B先輩と私も後ろを追い掛け墓地に入った。

…明らかに空気が重い。

小雨の降る音と風で木々の揺れる音が、人の話し声のように聞こえる。

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私たち3人しかいないはずなのに、横や後ろから視線を感じる…ような気がする。

1番奥まで歩くとA先輩が、

「気を付けィ!敬礼ィ!」

急に大声で叫ぶと、携帯のカメラで墓地を写し始めた。

10枚ほど撮ると満足したのか

「何も起きんね、帰るか」

来た道を戻り始めた。私は内心ホッとした。

(やっと帰れる…)

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車に乗り込むと恐怖心が和らいだのか、各々タバコに火を付けて今日の反省会になった。

Bの声の掛け方が悪い、Aの場所選びが悪い、私のノリが悪いだのしばらく話していると、B先輩が何かに気づき話を止めた。

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「おい、あの奥の電話ボックス誰か入ってね?」

B先輩が指差した方を見ると、駐車場の奥にポツンとある電話ボックスの中に白い人影らしきものが見える。

「確かに、誰かいますね」

今は夜中の1時半、こんな時間に電話ボックスに?妙な違和感は感じたが、無視して帰ろうと私が先輩に言いかけたその時、

「ナンパ再開!ラストチャンスだろ!」

A先輩が車を電話ボックスに進め始めた。

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電話ボックスまで20mほどの所まで近づくと、後ろ姿ではあるが、その人影は長い黒髪で白いワンピースを着ているのが分かる。

「間違いない、女ですなぁ」

隣でA先輩がニヤニヤしている。

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車は更に近づき、女までの距離は5mほどになった。

「なんか汚くね?」

後部座席からB先輩が言う。

確かにその女の着ているワンピースは遠目には白だが、この距離まで来ると裾の方は泥に塗れたかのように黒く汚れており、ボロボロになった箇所もある。

危ない…直感的に思った。

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しかし、ここは空気の読めない男A先輩、

「逆に顔見てみたくね?横まで行こうや」

逆にの意味がまったく分からない。何か事件にでも関係ある人物なら、被害者だろうが加害者だろうが関わりたくはないし、もし助けでも求められようモノなら迷惑極まりない…。

様々な考えが頭を巡る間にもジリジリと距離は縮まり、車は女の真横まで来た。

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恐る恐る見てみると…

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shake

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後ろからは泥に汚れたようにしか見えなかったが、ワンピースの前半分は血…血まみれだった。

それも尋常ではない量の血…。

顔は俯いており長い髪に隠れて見えないが、事の異常さを理解するには十分すぎる情報がワンピースに詰まっている。

3人同時に唾を飲んだ。

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「ヤバい、離れよう…」

A先輩が言ったのだが、車が走りだす気配はない。

「先輩!早く逃げましょう!」

「そうだよ!マジでヤバいって!」

私もB先輩も叫ぶように言った。が、やはり車は動かない。

「どうしたんすか!!早く!!」

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助手席にいた私は運転席にいたA先輩の方を振り向こうとして、ある事に気付いた。

身体が動かない…!!

「俺だって逃げてぇよ!けど、身体が動かねぇんだよ!どうなってんだよ!」

3人は電話ボックスの女を見つめた姿勢のままパニックの声を上げ続けた。

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そんな私たちを尻目に、女は全く動かない。ただ俯いて、電話ボックスの中に立っているだけだった。

しかし、数分が経過しようとしたその時、女がゆらっと動いた。

黒髪に隠れていた顔がチラリと見えた。

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shake

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ッッッッ!!!!

その女の顔は崩れていた。

血まみれなどという表現では到底追いつかない。

顔であるかすら分からないほどにグシャグシャなのだ。

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全身の血が引いていくと共に、下半身が濡れるのを感じたが恥じる余裕もない。

頭はいかにこの場所を離れるか、この恐ろしいモノから逃げるかだけを模索している。

無我夢中に身体を動かそうとすると、かろうじて右手が動く。

バタバタと動かした右手がクラクションを叩いた。

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静けさに包まれた墓地に甲高いクラクションが響き渡る。

その瞬間、金縛りが解け身体の自由が戻った私は運転席の方に振り向く。

A先輩は顎をカタカタ鳴らしながら、女を見つめたまま硬直している。

思い切り左の頬にビンタする。

「先輩!しっかりしろ!!」

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我に返ったA先輩はガタガタ震える手でギアをバックにすると、物凄い勢いでアクセルを踏み付けた。

ホイルスピンの音が聞こえた直後、車は後ろに急発進。

女との距離がどんどん離れる。

先輩は器用に車を反転させると、猛スピードのまま墓地を飛び出した。

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どれくらい走っただろう、無言のまま走り続けてずいぶんと街中まで戻ってきた。

街の灯りは徐々に3人の心に安堵感を与え一斉に口を開かせる。

「なんだったんでしょうね、アレ」

「まったく分からん」

「何のためにあんなとこに…」

軍事墓地とは一切関係のない白いワンピース姿で、墓地とは一切関係のない電話ボックスに現れたあの女。

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知る術はないし、知りたいとも思わない。

その後、私たち3人の誰かに不幸があったワケではないが、これ以上は関わらない方が良いのだろう。

アレは絶対に良い存在ではない。

それだけは間違いないと、今だにあの姿を思い出すだけで全身の細胞が私に教える。

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電話ボックスという閉塞された空間は、時に別の世界をこちらの世界と繋げて、私たちを引きずり込もうとしている。

そう思えてならない。

私はもう電話ボックスには近づかない。

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