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短編1
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ハート

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私が5歳の時、当時10歳の兄は、私の目の前で、車にひかれて死んだ。両親は兄の心臓を病気の子供のために提供することにした。

レシピエントは当時11歳の少年だということだけを知らされた。

移植のこと自体、私が知らされたのは16歳になったときだった。5歳の私には兄の葬儀の日程が遅いことなどわからなかった。

親は言った。兄は別の人の身体の中で生き続けるとかなんとか。

背筋が凍った。

さて時は流れ、神は信じられない運命を用意する。

私が23歳の時、父親は通り魔に殺された。

すぐに犯人は捕まった。

裁判で、30歳の被告人は、18年前に国内で心臓移植の手術を受けた事が判明する。その手術でのドナーの年齢も明かされた。

そして、あろうことか、被告人は自分の心臓に悪魔が住み着いているとの妄想にとりつかれ、悪魔に脅迫されたと思い込み犯行を、という心神耗弱の主張をしてきた。

間違いない。

明日の公判期日に、

私は包丁を持っていく。

今度こそ、殺す。

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解説は蛇足かなと言ってしまいましたが、公開してから時間も経ったので裏設定こみでくどくどと語ります。パキッとまとめてしまえば、これは「臓器にもわずかに記憶は残るのではないか」という移植医療業界の都市伝説をベースにした話です。

さてストーリーですが、まず、読めばお分かりの通り、「私」は何としてでも「兄」を殺そうとしています。公衆の面前で包丁を振り回し、自分が捕まることも一切顧みない態度で。これは、兄がきわめて危険な存在であることを示唆するものです。文面に顔を出さない設定としては、兄が私や両親を殺そうとしていたというのがありました(その辺は想像に任せたほうがショート・ショートとして怖さが出るかなと思い伏せましたが)。それで私は兄を道路に押して殺したわけです(ちなみに私の性別は特に女性を意識してはいません)。最後に「今度こそ」とあるのは、既に何度か殺害に失敗していたことの含みです。兄が私の殺意に気づいていたかはともかく、家族内で殺し合いの状況にあったわけです。両親が心臓移植を決めたのは、私が兄を殺したのではとの疑念含め、歪んだ罪滅ぼしの意図があってのこと(何故歪んでいるかといえば贖罪の対象がズレていますから)。

私は幽霊や何かは全く否定派ですし、どういう意味でも正気の人間以上に怖いものは無いと思っていますから、心臓に悪魔が取り憑いた、という風の表面的な筋書きにはしましたが、裏設定としては、移植された心臓の持ち主が気になって仕方なかった「被告人」が、10数年かけて私や両親のことを探し当てた、ということにしています。

被告人の殺人の動機ですが、警察やら移植協会のデータから殺人事件であると確信したから、というもの。殺人さえ無ければ自分は死んでいたのです。よほど酷い人生だったために彼(OR彼女)はそう思い込んだのですが、結果的に当たっていた、という話です。心神耗弱の主張は弁護人が独断ででっち上げたものです(争いようのない刑事事件では珍しくありません)。

一番の問題は、なぜ兄は危険な存在だったのか?という点で、もうご想像にお任せしたいと言いたいところなのですが(というか言いましたが)、感づいた方もいらっしゃったでしょう、5歳で明確な目的のある殺人に踏み切る「私」は、おそろしく聡明な子です。両親は私のことばかり大事にしたのでしょう。兄が虐待されたというようなことまでは考えていませんが、彼は悪い方向にばかり頭がはたらくようになったわけです。

ご周知の通り、殺害数が1人では判例法上死刑はありません。「私」が我が身を滅ぼしてでも兄を殺そうと思ってしまったのは、18年も経ってから殺しに来た兄なら、必ずや出所後にまた来るだろうとの確信と焦りから。父親を殺した時の状況からみて、向こうは捕まることを恐れていませんから、そういう人間を止めることはまず無理です。彼が生きている限り一生怯えなければならなくなります。

この話は、一見して憑依もののサイコホラーです。ただ、本当に怖いというべき存在は、兄の腐った心臓ではなく、悪霊にとり憑かれたような相手を殺そうと安易に決心している「私」の生のハートです。だからこそ、「私」が何者なのか一切を伏せたままにしているわけです。

最後になりましたが読んでくださった方、ありがとうございました。次回はフィクションを書こうと思います!

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>被告人は自分の心臓に悪魔が住み着いているとの妄想
『死んだ兄さんの意思ではなく勝手に心臓をドナー提供した事を恨んで
間接的に親に復讐した』って事なのでしょうか?

昔、2人の女の子が「もしどちらかが心臓病になって心臓移植をしなければならなくなった時
もしどちらかが交通事故にあって死んだとしたらその時は心臓をあげる」
と言う約束をしていて現実の話となった時、心臓を取られた女の子が惜しくなったのか
自分の心臓を移植された女の子を殺して自分の心臓を取り返すと言う漫画があった
事を思い出しました。

現実問題そんな事がありえるのか判りませんが怖い話ですよね・・・

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