私は今祈っています…
主人の回復と、家族の幸せ。
亡くなっていった人達の冥福を…
そして…呪縛からの解放を…
毎日手を合わせ祈っています。
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◇◇◇◇
何時間くらい思いにふけっていたでしょう…
ふと、我に返るとかなりの時間が経っていました。
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色々考えていました…
色々あったんです。
あり過ぎて今でも時々頭が混乱してしまいます。
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主人は病に倒れ。
友人が自殺し、生活が一変してしまいました。
そしてその原因の一つを作ってしまったのが、自分自身かもしれないなんて…
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今でも後悔しています。
あんなこと言わなければ…
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そのことに気が付いたのは、あの日記を読んだ後、全てが起こってしまった後でした。
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日記は友人から突然私の元へ送られてきました。
詳しい住所を教えてもいないのに、ある日突然…
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確かあれは、先々月…
7月24日のことです。
私が仕事から帰ってくると、ポストの中に宅配便の不在通知が入っていました。
直ぐにその宅配業者へ連絡し、荷物を持ってきてもらったのです。
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差出人は村瀬朱美、私の高校の時からの友人でした。
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荷物はやや大きめのダンボールの中に、彼女の日記や昔のスケジュール帳、あと一通の手紙…
そして見ず知らずの女性の日記が入っていました。
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そしてまず手紙を読もうとした時、私の携帯が鳴ったのです。
でてみると友人の優花でした。
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「あ…絵理子、知ってた?
朱美が自殺したみたいだよ。
私ビックリしちゃって」
「え?ウソ……」
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ショックでした。
最近の朱美の生活を知っていた私からすると、自殺をするなんて思いもしなかったからです。
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「ちょっと聞いてる?
絵理子仲良かったからさ、知ってると思ったんだけど。
もしかして知らなかった?」
「うん」
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「なんか焼身自殺みたいだよ。
一週間前だって」
「一週間前?
今その朱美から荷物が届いてるんだけど」
「荷物?」
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荷物の差し出し日を見ると10日前になっていました。
どうやら指定日配達で送ったようで、伝票には7月24日指定と書いてあります。
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「荷物の中に何が入ってたの?」
「日記?とかかな…」
「何それ?なんで日記なんて送ってきたの?」
「今開けたばかりだからわからないよ」
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「そっか…絵理子は何で朱美が自殺したか心当たりとかある?」
「イヤ…全然わからない…」
「そう…何があったんだろうね?
もしかして日記に何か書いてあるんでない?読んでみてよ」
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「今はちょっと忙しいし、気持ちの整理がついてないから、今度にするよ…」
「そう…じゃあ今度さ日記の内容教えてよ。
イヤ、今度見に行くわ」
「え?…うん、わかったよ」
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◇◇◇◇
焼身自殺…
焼身自殺というのは自殺の中でも、とても苦しい部類に入るらしく、普通、自殺を考える人はこの方法は選ばないといいます。
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朱美は何を思い焼身自殺を選んだのでしょうか?
焼身自殺には意味があり、メッセージが隠されてると言う人もいるみたいです。
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最初、彼女が自殺する理由がサッパリわかりませんでした。ですが関係あるかどうかはわかりませんが、彼女は学生の時からある宗教に入信していたことを思い出しました。
この宗教は普通とは違っていたのです。
そう…この宗教は狂人の集まり。
狂人が支配する宗教…
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自殺の本当の理由はわかりません。
その宗教のせいだったのか、それとも誰かに対する抗議だったのか…
それともただの気の迷いだったのか…
何故焼身自殺する必要があったのか…
今では何も知ることはできません。
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ただ一つ気になることもあります。
それは彼女の日記です。
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日記には彼女の人生が綴ってありました。
毎日欠かさず書いていたようで、彼女の几帳面さが窺い知ることができます。
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しかし、その内容は彼女のイメージからかけ離れたものでした。
私の知ってる彼女ではなく、本当の彼女の姿が日記に記されていたのです。
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信じられませんでした。
イヤ…信じたくありませんでした。
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彼女はある親子の死に深く関わっていることが書かれていたのです。
その親子というのは、井上陽子とその娘の井上夏美。
井上陽子は朱美の旦那、村瀬信治の妹です。
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朱美は義理の妹と姪を、死に追いやったと日記に記していました。
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そしてその親子の死の直前から、彼女の日記には不思議な詩のようなものが書かれていたのです。
その詩はまるで呪いのように書かれていて、恨みや憎しみが込められた叫びのようでした。
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筆跡も朱美のものと違っていて、日記の中でも朱美は、自分が書いたものではないと記しています。
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―村瀬朱美の日記―
『何を信じればいい…
何を恨めばいい…
声が届かない闇が広がり また心を潰していく…
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一緒に過ごした日々を覚えておいてほしい…
時間が戻るなら心を抉り取ってあげる
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これは叫びの詩
あなたに聞こえるかしら…
涙を辿って見つけてほしい
私達の切望を…
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心が酷く空っぽで
錆びた身体を動かすことはもうできない
時を見失い私達は消えていく…
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全てが曖昧な現実に叩きのめされ 失望し 盲目の朝を迎える
これは滅びの詩
あなた達に聞こえるかしら…
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最も暗い夢が始まる時
私達はここで待っている
涙を辿って見つけてほしい
これは叫びの詩
逃げることはもうできないから…
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偽りの優しさが私に執着な憎悪と哀しみを生んだ…
だから
ずっと待っている夢から覚めるまで…
だから
ずっと待っている想いが枯れるまで…』
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平成23年10月15日(土)
これは何?
知らないうちに日記が書かれてる
旦那のイタズラ?かな…
しかもこんな悪趣味な詩みたいなもの…
勝手に日記に書くなんて
勝手に日記を見るなんて…
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平成23年10月16日(日)
信治に聞いても詩のことは分からないと言われた
じゃあ誰が書いたのか?
まさか知らないうちに自分で書いている?
そんな訳はないと思う…
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・・・・・・・・・・・・・・
外は今日も激しい雨が降っています…
ここ2、3日ずっと雨なんです。
天気予報では一週間くらい雨が続くと言っていました。
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確かあの日もこんな雨の日だったような気がします。
それは朱美を変えてしまった日。
全ての始まり…
今でもよく覚えています…
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朱美と私は高校からの友人です。
彼女は転校生でした。
2年生の2学期に市内でも有名な進学校から、私の通っていた平凡な市立の高校に移ってきたのです。
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何でわざわざ進学校から移ってきたのか、ハッキリしたことは教えてもらえませんでしたが、前の学校で色々あり、仕方なく転校してきたと当事は言っていました。
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朱美はどちらかというと暗い性格で、最初はなかなかクラスにも馴染めなかったように見えました。
ですが、まわりから話し掛けたりして徐々に友達も増えていったように思います。
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そして何がキッカケかは忘れましたが、いつの間にか私と朱美は仲の良い友達同士になっていたのです。
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学校帰りによくファストフード店やファミレス等に行き、恋愛話や好きな音楽の話、趣味やくだらない話等、よく飽きなかったと思うくらい一緒にいて、話をしてたように思います。
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そしていつ頃だったか忘れましたが。彼女はよく家庭内の話をするようになっていきました。
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彼女は一人っ子です。
両親はいたのですが、父親は定職に就いていないらしく、母親は看護師をしていて、ほとんどその母親の収入だけで生活していたようです。
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そしてその父親から朱美は頻繁に暴力を振るわれていたようでした。
体にはよく痣があり、「その痣どうしたの?」と聞くと、はじめの頃は転んだとか、ぶつけたと言って隠してましたが、そのうち痣も増えていき、酷い時には包帯をグルグル巻きにして学校に来るようにまでなっていったのです。
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さすがに心配になった先生達も、痣や怪我のことを聞いてみたのですが…
彼女はハッキリとした理由を言わなかったようでした。
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その頃からよく彼女は「普通の家庭に生まれたかった、早く家から出たい」とか…
「絵理子はいいよね、優しそうなお父さんとお母さんで」と人の家庭を羨むようなことを、言うようになってきていました。
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そしてあの日…
これが全ての始まりの日だと私は思っています…
その日は朝から雨が降っていました。
学校を終えると暇だった私達は、放課後いつも行くファミレスに向かうことにしたのです。
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放課後二人で傘をさし、他愛ない会話をしながらファミレスに向かいました。
学校を出て200メートルくらい歩いた時でしょうか…
突然中年の女性に声をかけられたのです。
何だろう?と思っていると、その女性は一冊の本を渡してきました。
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見てみると、本には『幸福への道』と書いていて、直ぐに宗教の勧誘だということがわかりました。
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私は適当にあしらってファミレスに向かおうとしたのですが、朱美がその女性につかまってしまい、立ち止まって話を聞いているのです。
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私は直ぐに朱美の腕をとり「行くよ」と言って無理矢理女性から引き離し、そのまま走り出しました。
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「ちょっと絵理子、痛いよ離して」
「あんなのに引っかかったらダメ」
「わかったから、もう離してよ」
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私は朱美の腕を掴んだまま、かなりの距離を走っていました。
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「ごめん…痛かった?」
「大丈夫だけど、ちょっとビックリした」
「ごめんね」
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そしてファミレスに着くといつものように適当に注文して、他愛ない会話を楽しんでいました。
すると突然朱美が変なことを言ってきたのです…
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「ねぇ…絵理子、さっきのオバサンなんだけどさ…」
「オバサン?」
「これのオバサン」
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と言って鞄からさっき渡された本を出してきました。
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「ああ~、宗教の勧誘」
「うん…あの人さ、ちょっと普通じゃなかったし、妙なこと言ってきたんだよね」
「な~に?うちの宗教に入信すれば絶対幸せになれるとか?」
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「違う…さっきのオバサン、私を見て、凄いビックリした顔しながら恐ろしいこと言ってきた」
「恐ろしいこと?」
「うん…私の顔見てね、あなた凄い力持ってるわねって…」
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「何それ?変な勧誘の仕方、でもそれのどこが恐ろしいの?」
「うん…それが真顔でね、それだけ凄い力があれば、人を殺すこともできるって言ってきたの…」
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私はそれを聞いた時一瞬固まってしまいました。
不思議な力で人を幸福にするという宗教は沢山聞いたことありますが、人を殺すことができると言った宗教は初めてだったからです。
しかもそれを聞いて興味を持ったのか、朱美はその本を読み始めていました。
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本を見ると表紙には、代表者らしき人が載っていて、水明源教、人道光照と書いてありました。
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多分人道光照というのは本名ではないのでしょう。
いかにも宗教家らしい名前で思わず失笑してしまいましたが、朱美はそんなのお構い無しにどんどん読み進めていました。
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「ねぇ…朱美ヤバイって、そんな本読んでたら頭おかしくなっちゃうよ」
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「絵理子…本一冊作るのにどのくらいのお金が必要か知ってる?」
「わからないけど…何で?」
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「私もね詳しくはわからないんだけどさ、本一冊作るのに結構なお金が必要らしいよ」
「そうなんだ。
でもその本無料で貰えたね…」
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「だからさ、多分この宗教は本物なんじゃないかな?
お金かけてまで、この宗教の素晴らしさを知ってもらいたいんだよ」
「そうなのかな?なんかちょっと違うような気がするけど…」
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彼女は注文した物がテーブルに運ばれてきても、それに手をつけずひたすら本を読んでいました。
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「ねぇ…そんなに宗教に興味をもったんなら、私も入ってるところに入りなよ」
「え?絵理子何か宗教に入ってたの?」
「うん…」
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私はある宗教に入っていました。
生まれた時から…
両親が熱心に信仰していて、物心ついた時から両親と一緒に仏壇に向かい、手を合わせていたように思います。
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「どう?やっぱり幸せになれるの?」
「幸せかどうかはわからないけど、大きな問題とか起きてないし、平々凡々とはやっていってるよ」
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「そうなんだぁ…平々凡々とねぇ。
いいなぁ…うちとは違って絵理子の両親、優しそうだもんね」
「そうかなぁ…普通だと思うけど」
「…普通ってさ、結構難しいんだよ…
うちなんて…」
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彼女はそう言いかけると黙って下を向いてしまいました。
「なんかごめん…」
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彼女の家庭内は、どうなってるのかは詳しくわかりませんでしたが、よく痣等をつくって学校に来ていたので、言われなくても大体のことは想像できました。
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「幸せになれるなら私もやってみようかなぁ…」
「幸せになれるかどうかはわからないけど、毎日手を合わせて一生懸命信心すれば、心にゆとりができてくると思うし、道が開けてくるような気がするよ」
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この時は軽い気持ちでした。
まさかこの言葉が彼女の人生を狂わしていくなんて思いもしなかったのです…
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「心にゆとりができて、道が開けるかぁ…
よし決めた、やってみる」
「本当?じゃあ今日帰ったらどうすれば入信できるか、お母さんに聞いてみるよ」
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「え?違う違う。入信するのはこっち、水明源教のほうだよ」
「ハ?マジで言ってるの?
人を殺すことができるとか言ってる怪しいところだよ」
「うん、だから信用できるの」
「どういうこと?」
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私は彼女の言ってる意味が全く理解できませんでした。
人を殺すことができると言ってくる宗教にどんな魅力を感じたのか…
ですがこれにはちゃんと彼女なりの理由があったのです。
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「私さ、転校してきたじゃん」
「うん…」
「前の学校でイジメにあってたんだ…」
「そうなんだ…だから転校してきたの?」
「違う…イジメが原因じゃないよ」
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彼女は読んでいた本をテーブルに置くと、注文したジュースに口をつけ、喉を潤し真剣な顔で信じられない話をしてきたのです。
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「原因は多分私が人を殺したから…」
「え?なにそれ?」
「ずっと陰湿なイジメに耐えてきたの…
本当に辛かった…
初めて人を殺してやりたいって思うほどに…」
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「それでまさか人を殺しちゃったの?」
「わからない…でも…」
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彼女は目に涙をうっすら浮かべ、プルプルと体を震わせていました。
その状況から、冗談ではなく、本当のことを言っているのがわかりました。
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「絵理子も知ってると思うけど、前の学校は市内でもトップクラスの進学校だったの…
みんな頭が良かったし、一生懸命勉強もしてた。
でも中には思い通りの成績をだせない人も沢山いた…
そして親からの期待もあったんだろうね…
成績が伸びないとどんどんストレスだけが溜まっていった。
他にも理由があったのかもしれないけど、いつの間にかストレスの捌け口としてイジメが行われるようになっていった…
いつもやるのは決まった奴等、クラスの中でもあまり成績の良くない連中だったわ」
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「イジメってどこの学校にもあるんだね…」
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「逆にイジメのないところってあるの?
イジメはダメって言ってる大人達だって職場や仲間同士でイジメ合ってるじゃない…
そんな奴らの言葉や姿を子供達はどう見ると思う?
イジメは本当にいけないものだと思う?
イジメはなくなると思う?」
「…確かにね…」
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「そしていつの間にかイジメの矛先は私になってた…
理由はわからない。
もしかしたら理由なんてなかったのかもしれない…
でも私には地獄だった、本当に地獄だった」
「…そうだったんだ…」
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「そして私はイジメをしてくる奴らに対して、強い殺意を持つようになっていったの…
でも行動には移してない…ただ強く思うだけ…
死ねばいいのにって…」
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いつの間にか泣き止み、無表情で淡々と語る彼女の姿に、私は寒気を感じていました。
普段とは違った彼女がそこにいたからです。
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「そして事件は起こった」
「事件?」
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「最初はイジメのリーダー格の夏希だった。
私が死ねばいいのにと一番強く思った奴。
彼女は突然失踪したの」
「行方不明になったってこと?」
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「そう…そして一週間後に西内海岸で水死体で発見された…
死因は溺死、自宅から30キロ以上離れた場所で発見されたのよ…」
「事故かもしんないじゃん」
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「私も最初はそう思った。
でも私にイジメをしていった奴らが次々に死んだり行方不明になっていったの…
死ねばいいのにって強く思った奴から…」
「偶然でしょ…」
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その時私は思い出したのです。
確か彼女が転校してくる前、彼女の学校の生徒が次々に3人、事故死したニュースをテレビで見たことがあったのです。
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知らないうちに体から変な汗が吹き出していました。
暑かった訳じゃありません。
逆に嫌な寒気があり、目の前にいる彼女に対して少しづつ恐怖を感じていったのです。
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「次は由美子だった。
彼女もイジメグループのリーダー格存在…
そして夏希とは仲の良い友人だったみたい…
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夏希が失踪してからも私へのイジメは終わらなかった…
それどころか逆に由美子を中心にして、イジメはエスカレートしていったの。
そして夏希の遺体が発見された日に由美子は失踪した」
「だから偶然だって」
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彼女に言ったつもりでした。
ですが、今思えば自分に言い聞かせていただけだったのかもしれません。
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「そして間をおかず残りのイジメグループも…
佐山彰、田村宏太、最後に担任の篠崎が失踪した」
「先生まで?」
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「一度イジメについて、篠崎に相談したことがあったの。
でもアイツは何もしてくれなかった…
イジメにあってる私を見ても無視したり、酷い時には由美子達と一緒に私をからかったりしてきた…
この時には皆一緒に見えたの…
皆死ねばいいのにって思うようになっていた…」
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「でも確かニュースでは事故死は3人だって…」
「だから言ったじゃない。
死んだり行方不明なっていったって…
由美子と担任の篠崎は行方不明のまま…」
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「…でもそれだけじゃ、朱美は関係あるかどうかわからないじゃない…」
「そうだね…
でも…私がやったの…5人とも…」
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「何で?何でそうだと言い切れるの?」
「…私なの…私がやったの…だから前の学校にいられなくなって転校してきたの」
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◇◇◇◇
その時、朱美はそれ以上何も言いませんでした。
ですが自分が原因だと思ってたみたいです。
何故そう思ったのかは、彼女から送られてきた、学生の時のスケジュール帳に記してありました。
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―長谷川朱美のスケジュール帳―
1997―6/4
篠崎に相談
相手にしてくれなかった
担任なんてこんなもん
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1997―6/10
篠崎に無視された
死ね
先生辞めろ
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1997―6/17
夏希失踪
そのまま死んで
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1997―6/24
夏希の遺体発見
西内海岸で発見
ざまぁ
由美子失踪
そのまま消えて
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1997―6/25
佐山、田村、失踪
死ね、消えろ
皆死ね
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1997―6/26
考えたらラッキー
誰も私をイジメる奴はいない
篠崎は私を疑ってきた?
死ね
私じゃない
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1997―6/27
意味わかんない
私は知らない
一緒にいない
わからない
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1997―6/28
篠崎失踪
死ね
田村の遺体発見
清の杜公園で発見
ざまぁ
田村が持ってたノートに私の名前?
犯人扱い?
意味わかんない
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1997―6/30
警察がきた
私じゃない
でも何か変
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1997―7/1
佐山が事故死
車に突っ込む
発狂してたらしい
長谷川ゴメンを連呼してたと目撃者の証言
私は何もやってない…
でも何故かうっすら記憶がある
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1997―7/3
警察がきた
私じゃない、いい加減にして
アイツら死んで当然
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1997―7/4
学校では変人扱い
イジメが無くなっても私の居場所はない…
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1997―7/7
お父さんまで私を変人扱い
終わってる
人生終わってる
学校も行きたくない
これならイジメられてた方がマシ
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1997―7/8
父…口きいてくれない
母…つめたくなった?
学校…皆無視する
私…死にたい
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1997―7/9
やってないのに記憶ある
私が犯人?
でも違う、私じゃない
私じゃないってば…
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・・・・・・・・・・・・・・
これが彼女の転校してきた理由みたいでした。
本当に何があったのでしょうか?…
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ハッキリしたことはわかりませんでしたが、このことが水明源教に興味をもった原因になったようです。
そして家族とうまくいかなくなったのもこれが原因の一つのようでした。
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彼女はあのファミレスの会話の数日後、本に書いてあった連絡先に電話をして、水明源教に入信したようです。
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それから私達はあまり遊ばなくなっていきました。仲が悪くなった訳じゃありません。
朱美が放課後、頻繁に水明源教の会合等に出席するようになったからです。
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でも彼女は、それから少しづつ明るくなっていったように思います。
「生きる希望が出てきたよ」
とよく言ってたのを覚えています。
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ですが…
朱美が入信して一ヶ月位経った頃でしょうか…
彼女の父、長谷川雄二が失踪したのです。
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このことについては彼女はあまり話たがりませんでした。
しかし、特別心配してる様子もなく、むしろ居なくなって清々してるようにさえ見えました。
そしてこの頃から彼女の雰囲気も変わっていったように思います。
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まず生活が派手になっていきました。
何処で手に入れたかは分かりませんが、常にサイフの中には数万円の現金が入っていて、顔には濃い化粧をし、登下校はいつも誰かに送り迎えをしてもらってるいるようでした。
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彼女はすっかりクラスの中でも浮いた存在になっていったのです。
私も学校内では彼女と普通に会話をしたりしていましたが、放課後は何をやっているのか全くわかりませんでした。
学校が終わると直ぐに一人で帰ってしまうからです。
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そんな彼女でしたが。学校だけは真面目に出席して、勉強をしていました。
彼女には夢があったからです。
それは彼女の母、長谷川涼子のような立派な看護師になること。
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働かない父親と違って、真面目に働き家族を養ってきた母に憧れをもっていたようです。
本当は医者になりたいと言っていましたが、転校してきた時点で諦めたと言っていました。
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そしてその頃のことも彼女はスケジュール帳に記しています。
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―長谷川朱美のスケジュール帳―
1997―10/14
水明源教の本をもらった
これで私も普通になれる
『絵理子も言ってた、祈れば願いは叶う』
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1997―10/16
水明源教に入信
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1997―10/20
人道光照先生に会う
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1997―10/22
私に凄い力がある?
人を殺せるほどの力?
まさか…
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1997―10/24
先生は優しい
この人がお父さんならいいのに…
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1997―10/26
先生とデート?
楽しかった
先生は私に楽しい時間をくれる
私は特別な存在なんだと言ってた
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1997―10/29
源教は楽しい
私は力があるから特別
先生の側にいる時間が一番楽しい
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1997―11/3
ぶたれた、思いっきり
死ねばいいのに
先生とは大違い
クソオヤジ
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1997―11/7
家に帰りたくない…
本当に死ねばいいのに
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1997―11/8
オヤジが狂って苦しんでた
私の力は本物…
強く念じれば人は狂う
先生の言った通りだった
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1997―11/9
オヤジが帰ってこない
何であんなクソオヤジを捜しに行かなきゃならないの?
お母さんも変だよ…
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1997―11/11
捜索願いをだした
ムダ
見つけても私が殺すから
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1997―11/12
先生の右腕になった気分
欲しい物があれば何でも買ってくれる
お金があれば何でも手に入る…
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・・・・・・・・・・・・・・
本当に朱美には不思議な力などあったのでしょうか?
私には分かりませんが、進学校での出来事、水明源教での立場、そして私の言葉…
まるでパズルのように組合わさり、彼女の人生を狂わせてしまった。
そう思えてなりません。
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それから彼女は無事高校を卒業して、看護学校の方に進学していきました。
私は高校を卒業するとバス会社の添乗員として就職。
仕事等が忙しくなかなか遊ぶ暇もなかった為、朱美とは疎遠になっていきました。
それでも電話でお互いに心境報告等はしていたのですが…
あまり会うことはありませんでした。
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でも去年の同窓会で久しぶりに会うことができました。
高校の同窓会は初めてで、卒業してからもう10年以上は経っています。
皆に会うのは本当に久しぶりで、同窓会の連絡を受けた時は妙にテンションが上がりました…
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◇◇◇◇
同窓会の日はあいにく仕事…
仕事を終わらせて急いで会場に向かったのですが、着いた時には開始予定時刻を30分以上過ぎていて、皆もう飲んだり食べたりして盛り上がっていました。
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「絵理子~」
会場に入るなり誰かが声をかけてきました。
見るとスッカリ綺麗になってしまった朱美がそこにはいたのです。
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お互い電話では連絡を取り合ってはいましたが、会うのは久しぶり、こんなにも彼女は変わっているとは思いませんでした。
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同じ年とは思えないくらい若く見え、同じ女性から見ても羨む程、綺麗になっていました。
会場では凄い目立っていたと思います。
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「朱美、凄い変わったね」
「そうかな?絵理子は変わらないね」
「それどういう意味?」
「アハハ、本当久しぶり」
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そこでお互いゆっくり話をしました。
お酒が入り、電話では話せなかったことも色々話しました。
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意外でした。
朱美が結婚したことは電話で知っていましたが、相手は17歳年上のサラリーマン、しかも自分より8歳年下の連れ子がいるなんて…
そんなに歳が離れてても上手くいくのかな?と思いましたが、彼女は「円満よ」と言ってニヤニヤ笑い、幸せそうに見えたのです。
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相変わらず宗教の方も続けてるようで、看護師の仕事もあるし、毎日忙しいと語っていました。
ただ宗教の名前は変わったと…
何故変わったのかまでは聞きませんでした。
別にその時は興味なかったし、そんな細かいことは気にせず、楽しい時間を過ごしたかったからです。
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本当に楽しい時間でした。
お互い何もかも忘れて、ただ騒いでいました。
朱美もこんなに笑ったのは久しぶりと言って、楽しんでいたと思います。
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ですが…本当は…
彼女には人に話せない闇の部分が沢山あったのです。
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◇◇◇◇
彼女の人生にいったい何があったのでしょうか?
わかりませんが時間を戻したい…
学生の時まで、いえせめて同窓会まででもいい…
そうすれば彼女を救えた、気持ちを変えれた、彼女を変えれた、私の人生も変えれた…
そう思います。
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外を見ると秋の雨が降りしきり、冷たい風はガタガタと窓を揺らしています…
まるで亡くなって人達の悲しみや怒りを表すように…
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彼女は何を思い死んでいったのでしょう?
見た目には華やかで幸せそうに映っていた姿。
だが決して彼女の人生は幸せではなかったようです。
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そのことは送られてきた日記にも綴られていました。
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―村瀬朱美の日記―
平成22年6月6日(日)
私は村瀬信治と結婚した
源教の為、先生の為
私の幸せを掴む為
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平成22年6月14日(月)
まずは一歩。被害者の会の連中は私の顔を知らなかった
私は源教の隠し球、先生の切り札
源教は私の全て
信治、あなた達には潰させない
あなたが私の幸せを奪おうとするなら、私がその前にあなたの幸せを奪ってあげる。
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平成22年6月23日(水)
流石、先生の力が入った薬
私の力よりも簡単だし、効き目も抜群
これなら予想より早く潰せるかなと思ったけど、甘くなかった…
代表の信治を思い通りにすれば、被害者の会を解散させれると思ったけど、そうもいかないみたい
もう少し内側からゆっくり潰していかないとダメね…
源教の隠し球が、まさか水明源教被害者の会代表の妻だとは誰も思わないでしょうね…
スパイみたいで楽しいけど、あまり時間をかけれない
早く解散させてやる
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信昭が家から出ていった。
ある意味好都合、息子も何とかしなきゃと思ってたけど、この家からいなくなってくれるなら助かったわ。
仕事がやりやすくなった。
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・・・・・・・・・・・・・・
どうやら朱美は信治さんを愛していなかったみたいです。
それどころか水明源教被害者の会を潰す為に結婚したなんて…
この宗教はどこかおかしい、先生と呼ばれる人がおかしいのかわからないけど、普通ではないと思います。
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朱美もすっかり宗教にハマって駒になってるようで、彼女の不思議な力もいいように使われてるようでした。
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これが彼女の裏の顔。
この頃の朱美は何を幸せだと感じていたのでしょうか?
日記を読み進めると次々に恐ろしいことが書かれていました。
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―村瀬朱美の日記―
平成22年7月2日(金)
信治と中心人物になってる人間を数名潰せば、自然と解散しそう
しかし私達のことを狂信者と言うわりには、あなた達のやってることも第三者から見たら、十分狂気じみてるじゃない
あなた達も同じ、同類よ
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平成22年7月19日(月)
今日は信治の妹、井上陽子の家に行ってきた
義理の妹が11歳年上ってなんか変な感じ
むこうも気を使ってるのが凄くわかる
でも可哀想だわ
旦那が交通事故で他界し、娘が難病なんて…
大変なんでしょうね
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平成22年7月29日(木)
久しぶりに源教に顔を出した
仕事と源教と被害者の会、全部こなすのは大変
でも幸せの為、源教の理想の為、頑張らなくては
先生は陽子を入信させるつもりらしい
陽子を入信させてどうするつもり?
被害者の会代表の妹なのに、入信する訳ないじゃない…
何が目的なんだろう?
金だろうか?
それとも信治を精神的に追い詰める為?
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平成22年8月15日(日)
川島さんと戸園さんが狂って入院した
信治も大分薬でおかしくなってきている
私の言うことは何でも聞く奴隷のよう
人ってこんなにも変わってしまうのね、笑える
被害者の会もあと少しね
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平成22年9月14日(火)
陽子の所に行ってきた
年上の妹、何回会っても変な気分
私のことをアーちゃんと呼んで慕ってくれるのは嬉しいけど
好きで信治と結婚した訳じゃないから、複雑な気持ち
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平成22年9月22日(水)
陽子も夏美もとってもいい人
夏美は難病で可哀想
でもそれが運命ってやつだと思う
誰も運命から逃れることはできないのよ
源教の為、あなた達にはさらに辛い人生を送ってもらうわ
運命と思ってあきらめて
これも先生と私の為
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・・・・・・・・・・・・・・
朱美は何を思い、何を考え、水明源教に身を置いていたのでしょうか?
彼女は先生と呼ばれる人に薬をもらい、それを使ったり、彼女の不思議な力で、信治さんや被害者の会の人達を洗脳し、狂わしていってるようでした。
いったい先生から渡される薬という物はどのような物だったのでしょうか?
しかも義理の妹の陽子さんや、姪にあたる夏美さんまで、源教の為に洗脳するつもりだったみたいです。
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日記には難病に苦しむ親子を、あの手この手で騙し、お金を巻き上げる様子が記されていました。
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そして朱美から送られてきた荷物の中には、陽子さんの日記も入っていたのです。
その内容は凄まじいもので、苦狂の人生が綴られていました。
日記は陽子さんの夫、雅次さんの死から書いているようで。娘さんの難病のこと、アーちゃんなる人物、これは朱美でしょう…
その朱美に騙されて、怪しい健康器具の体験会場に連れて行かされ、高額の物を買わされたり。
水明源教に難病が治ると言って入信させられ、妙な物を売り付けられたり、挙げ句の果てには薬物を使い、まともな思考を奪い、餓死に追い込まれたということが克明に記されてあったのです。
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そして陽子さんの日記に一つ不思議なものが記されていました。
それは詩です。
詩は時々書いていたようで、彼女の心理状態等を表していたのでしょう。
一見ただの詩なのですが、最後に記してあった詩に見覚えがありました。
それは朱美の日記にも書いてあったのです。
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詩は二人の日記の同じ日付に記されていました。
平成23年10月15日(土)です。
陽子さんが最後に書いた日記の一日前に書かれたものでした。
多分彼女は自分の死を予感して、書き残した詩なのでしょう。
陽子さんの恨みや、苦しみを表しているようでした。
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その詩が朱美の日記にも…
しかも同じ日付に書かれているのです…
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朱美は自分では詩など書いていないと、自分の日記に書いています。
よく見ると、二つの詩は筆跡もよく似ていて、まるで陽子さんが直接、朱美の日記に詩を書いた、そんな感じに見えるのです。
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しかしそれはどう考えても無理だということがわかりました。
その頃の陽子さんは、餓死する直前の状態で、家から出るどころか、自分の身の回りのこともまともにできない状態だったみたいだからです。
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じゃあどうやって、朱美の日記に陽子さんの書いた詩を記したか…
考えても解りませんでした。
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まるで陽子さんの恨みの強い念が、朱美の日記に呪いのように書き記した。
そんな風にしか思えてなりません。
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しかし陽子さんの行動にも一つ疑問がありました。
それは何故、水明源教に入信したかということです。
娘が難病に侵され、藁にもすがる気持ちだったというのはわかります。
ですが、実の兄が被害者の会代表をしてる宗教に入るでしょうか?
朱美の日記には、陽子親子を水明源教に入信させたと記してありました。
この親子が水明源教に入信したのは間違いないようです。
しかし、陽子さんの日記には、水明源教の文字は一文字も記されてはいませんでした。
代わりに記されていたのは真輪光教会という文字です。
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確か朱美は同窓会の時こう言ってました。
宗教の名前が変わったと…
もしかしたら陽子さんは、真輪光教会を元水明源教だと気付かずに入信したのではないでしょうか?
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何故宗教の名前を変えたのか…
その頃の事も朱美の日記に記されていました。
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―村瀬朱美の日記―
平成22年9月30日(木)
今日は記念日です
ついに水明源教被害者の会を解散させました
主要メンバーがほとんど狂ってしまったからね
なんぼ先生の力が入っているとはいえ、薬の効果って凄いね
自分で使ってて恐ろしくなる
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これで信治との結婚生活も終わりかな…
でももう少し楽しむのもいいかも…
陽子のこともあるしね
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平成22年10月11日(月)
先生が源教の名前を変えたいと言ってきた。
やはり被害者の会が解散したとはいえ、悪いイメージが残ってるからだろう
どんな名前になるんだろう?
私は水明源教って名前が、馴染みがあって好きなんだけどな
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平成22年10月17日(日)
新しい名前が決まった
名前は真輪光教会
やっぱり私は水明源教の方が好きだな
先生はこれで活動しやすくなると言ってたけど…
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平成22年11月18日(木)
陽子達の面倒を見るのがダルくなってきた
なんぼ源教や先生や私の為と言っても、さすがに疲れてくる
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平成22年12月22日(水)
いい加減にしてほしい
何でもかんでも私に頼ってくる
たまには自分達で何とかしようと思わないの?この親子は…
私だって忙しいし、私はあなた達の介護師じゃないのよ。
早く源教に入信させて、ケツの毛までむしり取ればいいのに…
先生は、もう少しまともな判断ができなくなってからって言ってるけど…
もう陽子は娘の為ならいくらでもお金を出すわよ
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・・・・・・・・・・・・・・
難病というものは本当に大変なんです。
私の夫も数年前に難病と診断されました。
それでも何年かは頑張って働いていましたが、去年あたりから色々な症状がでてきて、入退院を繰り返すようになってしまい、今ではほとんど寝たきりになってしまいました。
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夫を見てると本当に辛くなってきます。
今の日本の医療では治せないのです。
ただ毎日、症状を抑える薬を飲み、苦痛に耐えるだけ…
そんな夫を見てるとたまに涙が出てきます。
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藁にもすがりたい親子の気持ち、私には痛いほど解ります。
それを利用しようとする水明源教や朱美を許せません。
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しかし、昔はこんな人ではなかったはず…
朱美は人の痛みがわかる人でした。
何故こんなにも変わってしまったのでしょう?
水明源教で何があったのでしょう?
この頃の日記を見ると、朱美も水明源教はただのカルト宗教、信者からあの手この手で、金を巻き上げるだけの集団で、一生懸命信心しても何の御利益がないということは解っていたはずです。
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でも彼女は辞めなかった…
水明源教での立場、お金の力、それが朱美を狂わしていったのではないでしょうか?
この頃の朱美は狂人にしか見えません。
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そしてその、人とは思えない行動も、彼女は日記に細かく記してありました。
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―村瀬朱美の日記―
平成23年2月9日(水)
ようやく陽子達を源教に入信させた
陽子は完全に先生の言うことを信じきってるみたい…
アホね…これからもっと辛い人生が待ってることだとも知らずに…
恨むなら自分のバカさ加減を恨みなさい
騙される方が悪いのよ
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平成23年3月15日(火)
陽子達は熱心に信仰してる
娘の為ならいくらでもお金を出すし、真輪光教会が元水明源教だとは気付いてないみたい
娘の体のことでいっぱいっぱいで、そんなの気にならないって感じね…
でもこんなに大事にされてる夏美は、ある意味幸せなのかもね…
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平成23年4月20日(水)
先生が陽子にあの薬を売っていた
ついに仕留める気ね
あの薬を使ったらなかなか元には戻れない…
正確にはあの薬の快感を忘れられなくなる
先生の力は偉大なのよ…
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平成23年4月27日(水)
先生の洗脳が始まった
外出禁止命令
これで陽子親子も終わり…
あとは、様子を見に行くふりをして、少しずつ追い込むだけ…
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平成23年6月10日(金)
大分弱ってきてるみたい
ほとんど親子は寝たきりの状態
家の合鍵を預かった
そろそろお金をいただきましょうか
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平成23年7月22日(金)
意外と時間がかかった
でもようやく銀行のカードを預かったし、通帳がある場所も教えてもらった
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身の回りのことをやってあげると感謝してくる
笑える…
そんな動けない体にしたのは私と、あなたが一生懸命信仰してる真輪光教会だというのに…
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平成23年8月28日(日)
長かった…陽子親子を介護して数ヶ月
本当に大変だった
でもそれも今日で終わり
親子は薬ですっかり狂ってしまったし、まともな判断もできなくなってる
しかも寝たきりの状態、近所にも助けを求めに行けないでしょうね
あとは私がセミナーでしばらく来れないと言って放置し、死ぬのを待つだけ…
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平成23年9月13日(火)
陽子親子から開放されて、大分気が楽になったけど、信治のことをどうしていいかわからなくなってきた…
陽子達が死んだら離婚してサヨナラするのもいいんだけど…
信治に保険をかけてどうにかしてしまうのが一番安全かもね。
とりあえずは生かさず殺さずね…
その前に陽子達が死んだら、自殺に見せかける為にもうひと頑張りしないと…
三ヶ月位放置したら、死んでるかしら?
たまに見に行かないとね。
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・・・・・・・・・・・・・・
人を殺したり、人を死に追い込むとは、どのような気持ちなのでしょうか?
どう考えても、普通の人間の行動とは思えません。
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そんなにお金って大事でしょうか?
お金で幸せは買えないと言います。
しかし、お金があれば幸せを逃さないとも…
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私にはお金より大事なものはいっぱいあると思います。お金の為に人生を狂わせたくはないのです。
お金というものは、麻薬よりも強いドラッグなのではないでしょうか?
お金にトリップしてる人は沢山います…
お金の魔力、快感に取り憑かれたらなかなか抜け出せません。
その中毒性は恐ろしいものです。
人を殺すことにも、何の躊躇もないのですから…
しかも自殺に見せかけてまで…
恐ろしいことです。
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自殺に見せかける方法も日記に記されてありました。
そしてこの頃から、陽子さんの詩と思われるものが、朱美の日記にも書かれるようになっていったのです。
最初に詩が書かれたのは、10月15日のあの詩です。
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―村瀬朱美の日記―
平成23年10月3日(月)
放置してからもう少しで一ヶ月、そろそろ様子を見に行こうかな…
何回か陽子から電話がきてたけど、確か8月から電話料払ってないから、もうとっくに電話は停まってるはず
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平成23年10月4日(火)
まだ生きてた
夏美は生きてるかわからないけど…
陽子の助けを求める声がかすかに聞こえた
多分もう少しね
あとはあの家に人が近づかなければいいけど
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平成23年10月15日(土)
これは何?
知らないうちに日記が書かれてる
信治のイタズラ?かな…
しかもこんな悪趣味な詩みたいなもの…
勝手に日記に書くなんて
勝手に日記を見るなんて…
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平成23年10月29日(金)
親子は死んでいた
家に入ると変な臭いがした
人間の身体というのは意外と早く腐るのね
とりあえずホームセンターで、ビニールシートとビニールテープを買って目張りしたけど、あれで大丈夫かしら?
直ぐに遺体が発見されると面倒なことになる
臭いが服につきそうで最悪だったけど、臭い遺体を引きずって首に電気コードを巻き付けドアノブにかけた
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あと、夏美はほとんど寝たきりだったので、あのまま放置してても大丈夫だろう
夏美に処方されてた睡眠薬も、二人の枕元に置いてきたし…
多分大丈夫だろう…
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自殺に見せかける為に遺書を書こうとしてたら、陽子の日記を見つけた
こんなもの警察に発見されたら冗談じゃない
私や源教のことがしっかり書かれてる
中を見ると遺書に使えそうな部分があったから、切って置いてきた
とりあえず日記は持って帰ってきたが、この日記も早く処分した方がよさそうね
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平成23年10月31日(月)
日記は近くの山へ行って燃やしてきた
考えたら遺体が発見されて、餓死として調べられたら面倒
明日ある程度の食料と現金を置いてこようと思う
これで誰も餓死とは思わないだろう
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平成23年11月8日(火)
処分したはずの日記が玄関先に置いてあった
どういうこと?ちゃんと燃やして無くなるのを、この目で確認したというのに…
しかもあの10月15日に書かれていた詩…
陽子の日記の同じ日付にも書いてあった
意味がわからない
陽子が私の日記に書いたとでもいうの?
陽子の呪いとでもいうの?
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平成23年11月14日(月)
また処分した陽子の日記が戻ってきた
シュレッダーで細かく切り刻んで、念入りに燃やしたというのに…
また綺麗な形になって玄関先に置いてあった
私頭おかしくなったのかしら?
薬なんてやってないのに…
それとも本当に陽子の呪いだというの?
処分しても戻ってくるなら、押入れの奥にでも隠しとくわ
私は念で人を殺せるのよ
こんな呪いなんかに負けないわ
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・・・・・・・・・・・・・・
人間って恐ろしい生き物ですね。
自分の欲望を満たす為なら何だってできるのでしょうか?
しかも人前では平気な顔で生活してる。
バレなければ罪にはならない。
本当にそう思ってる人は沢山いるんでしょうね。
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でも日記を処分しても戻ってくるというのは、なんなのでしょうか?
本当に陽子さんの呪いなのでしょうか?
人を呪わば穴二つ…
結果二人とも亡くなってる訳ですから、これが呪いだとしたら成功したのでしょう。
でも本当に強い念や呪いで人を殺すことなど可能なのでしょうか?
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昔から五寸釘を藁人形に打ち付ける呪いの方法が有名ですが…
あれはどういう意味で藁人形になったのでしょうか?
そして何故五寸釘なのでしょうか?
私はよくわかりませんが、いずれにしろ強い恨みの念が呪いには必用なのでしょう…
呪いって人の念そのものかもしれませんね。
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そして呪いってやる方も苦しいからやるんだろうし、その姿はもう狂人そのものなのでしょう…
呪いって苦しくて、狂しいものなんでしょうね…
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陽子さんの念は凄い強いものだったのかもしれません。
時折、朱美の日記に呪いのように書かれた詩がありました。
そして、朱美はこれが原因か判りませんが、苦しみ狂っていったのです…
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―村瀬朱美の日記―
『哀れな心…
時の流れは早く簡単に忘れ去られる
もがきあがいてもとどかない…
歪んだ時間は黒い灰に紛れ人々を盲目に誘う
誇りを被った人々の心
払っても直ぐに汚れてしまう愚かな常識
どれだけ血が流れれば…
どれだけ涙を流せば
振り向いてくれますか?
望むなら夢を棄てましょうか?
それとも太陽でも掴んでみせましょうか?
人々は自分を暗号化し
時代に浸透させ生きていく
そのまま消えて無くなるというのに…
敷かれたレールの上で洗脳され
叫び声も聞こえなくなる
そんな時代は楽しいですか?
本当の自分でいられますか?
それでも時は暗号化を望んでいるというのですか?
何も変わらない
心を失っても…
自分を失っても…』
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平成23年12月17日(土)
また勝手に詩のようなものが書かれていた
しかも今回は意味がわからない
これが陽子の詩だとするなら、世間への訴え?
アホらしい…
陽子は時代の流れについていけなかったのよ
ただの世間知らずの敗者
どんなに泣こうが、叫ぼうがあなたの声はもう届かないわ…
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平成24年2月10日(金)
最近先生の様子がおかしい…
私を避けてる?
まさかね…
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平成24年3月20日(火)
最近本当に源教の様子がおかしい…
先生もあまり会ってくれなくなった
気のせい?かな…
多分気のせい
私は先生の切り札
源教の隠し球
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・・・・・・・・・・・・・・
人を殺しておいて、平然と生活を送ることって可能なのでしょうか?
日記や、一緒に過ごした時間から朱美の人生の全ては知ることはできませんが、育ってきた環境、不思議な力、そしてその力を利用しようとした人達のせいで、彼女は変わっていったのではないでしょうか?
もし一つでも欠けていたなら別の人生があったのかもしれません。
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これが彼女の運命だったのでしょうか?
日記には彼女が利用され、恐れられ、最後には誰からも救いの手が差し伸べられなくなる姿が綴られていました。
それはとても悲しく、辛く、寂しいものだったと思います。
自業自得だったのかもしれません。
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彼女の日記には、誰にも相談などできない辛さが書き記されていました。
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―村瀬朱美の日記―
『私は今十字架にかけられ裁きの時を待っている
ねぇ……私は何か悪いことをしたかしら?
貴女は虚構と偽りの仮面を被り
人に寄生する
もう戻れないと解っていながらも…
でもそれは貴女が望んだこと
見て今の自分を…
醜悪なその素顔は満足感に満たされ
足元には骸が転がっているの
まだ楽しむつもり?
仮面を脱いでみなさいよ
脱げないなら私が脱がせてあげる
素顔で見る世界は素敵で残酷なもの
遠慮なんていらないわ
思いっきり苦しみの時間を楽しみなさい』
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平成24年6月3日(日)
また不気味な詩が…
今度は私を呪うつもり?
冗談じゃないわ
あなたが世間知らずだから、あなたがバカだから騙されたんじゃない…
呪うなら自分のバカさ加減を呪いなさいよ
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平成24年6月21日(木)
最近、陽子の存在を感じる
突然アーちゃんと呼ぶ声が聞こえたり、日記を書いていると日記帳の上に、黒い長い髪が落ちてくる
払ってもまた落ちてくる
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私の髪は茶色く染めてあるし、長さも違う…
しかもアーちゃんなんて呼ぶのは、あの親子以外いなかった…
近くに陽子達がいるとでもいうの?
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平成24年7月3日(火)
今日、先生からある老人夫婦を紹介された
今度はこの夫婦から金を取るつもりらしい…
いつも実行するのは私
先生は源教の顔、手を汚すのは私達裏方の人間
最近、先生の傍らに女がいる
あれは誰?
最近よそよそしいのはその為?
私には飽きたってこと?
いいわ…
誰であろうと私の幸せを邪魔するなら、潰してあげる
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平成24年7月30日(月)
最近疲れてる?
たまに幻覚を見る
これは陽子の呪い?
どっちにしろ最近ハードな毎日だったから、どこかで少し休暇をとろうかな…
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平成24年8月14日(火)
久しぶりに日記を書く
入院してた
私が倒れて入院なんてね…
結局、過労と診断されたけど、医者もハッキリした原因はわからないみたい
確かに色々あって疲れてた
入院中、お母さんがお見舞いに来てくれたのは嬉しかった
考えたら、私のことを本気で心配してくれたのは、お母さんと絵理子くらいしかいなかったような気がする…
しばらく仕事は休もうと思う
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平成24年9月20日(木)
考えたらもう、後戻りできないところまで来てしまってるのね…
陽子達を死に追いやり、沢山の人を騙し、幸せを奪ってきた
神になったつもりだったのかしら?
どちらかと言えば悪魔の方かもね…
でももう後戻りはできない
私の幸せの為
もう誰にも相談なんてできない
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・・・・・・・・・・・・・・
彼女の幸せとは何だったのでしょうか?
お金でしょうか?
それとも別のものでしょうか?
誰にも相談できないことを抱えて、いつも何かに怯えて生きる。
これが彼女の求めた幸せなのでしょうか?
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私には理解できませんが、彼女には彼女の考えがあったのでしょう。
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私は普通の生活で充分幸せだと思います。
特に主人が難病に侵され、ほとんど寝たきりの状態になってしまった今、本当にそう思います。
普通って幸せなんです。
普通に生きられることが…
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朱美も学生の時はそう思ってたかもしれません。
よく、普通っていいなぁ……
普通の家庭に産まれたかった、と言っていましたから……
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普通って難しいものなのかもしれませんね。
普通を保つ大変さ……
私には解るような気がします。
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人は欲望の塊…
弱い生き物です。
普通を簡単に壊してしまう…
そして後悔する。
戻らない普通に…
戻らない時間に…
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平凡な生活を求めていた朱美は、どこにいってしまったのでしょうか?
日記の中の彼女は、普通とはかけ離れた生活を送っています。
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―村瀬朱美の日記―
『その目 その顔 その心 その存在
全てが憎い
涙を流して喜ぶでしょうね…
丁寧にじっくりと汚した私は憐れでしょう
平凡という名の小さな夢が、叶うと勘違いしてた私は無様でしょう
今直ぐその心臓を喰い千切って私を浄化したいわ
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貴女の心から生まれた私の意志は
餓鬼そのもの
恐怖を喰らっても喰らっても
満足できないの
どこから殺してやろうかしら?
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不快な痛みを奏でる様を
心ゆくまで味わってあげる
狂気の深い海に落ちていく様を
心ゆくまで味わってあげる
それでも満足できないわ
貴女の心が餓鬼そのものだから……』
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平成24年10月20日(土)
また詩…いい加減にして
あなたが死んでもう一年くらい経つのよ
もう諦めて、あなたが敗者で、私が勝者
弱肉強食って言うでしょ
あなたは人生の敗者なのよ
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最近本当に幻覚と幻聴がする
疲れてる訳じゃないのに…
しかも先生はあの女にべったり
私はどうでもいいの?
イライラする…
私は先生の為、源教に尽くしてきたじゃない
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平成24年11月30日(金)
ついに陽子達の遺体が発見されてしまった
自殺で処理されたから良かったけど、さすがにドキドキした
自分が殺した人達の葬儀に出席するって不思議な気分
葬儀の最中、陽子達を何度も見たような気がする
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平成24年12月3日(月)
先生に遺体が発見されたことを報告したら、興味がない返事をされた
その件は全部お前に任せたはずだ、だって…
金さえ手に入れば後は人任せ?
あの女は今日も先生の近くにいた…
でもあの女…
何処かで見たことがある…
誰だっけ?思い出せない…
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平成24年12月31日(月)
今年ももう終わり
色々あった一年、結構大変だった
最近、幻覚と幻聴に加え、頭痛と目眩がしてきた…
人がいないのに、家の中に人の気配を感じる
悪夢に魘されることも多くなった
首を絞められる夢、自分の体が腐っていく夢、八つ裂きにされる夢
どれも怖くて不気味
陽子達の呪いが私を侵食してきたのかしら?
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平成25年2月1日(金)
老人夫婦から、かなりのお金を奪った
また殺せと言ってきた…
口で言うのは簡単
殺す方の身にもなってほしいわ
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平成25年2月10日(日)
先生が薬をくれた
栄養剤みたいな物だと言っていた
最近の私を見て、心配してくれたみたい
やっぱり私のことを思ってくれていたんだ
少し元気がでた
やっぱり先生の薬は効く
今なら何でもできそうな気がする…
幻覚も幻聴もない
頭痛も目眩もなくなった
久しぶりに体調が良好だ
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平成25年3月1日(木)
家を建てることにした
私のマイホーム…
お金はある、豪邸を建ててやる
新しい家で優雅な暮らし
信治に保険をかけて殺し、家の支払いに回そうかな(笑)
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平成25年3月19日(火)
押入れの中にあった、陽子の日記の位置がずれていた
信治に聞くと、息子の信昭じゃないのか?と言っていた
どうやら、新築の家を建てる前に、家に残ってる信昭の私物を自分のアパートに持っていけと言ったらしい…
もし、信昭が陽子の日記を見ていたら大変なことになる…
なんとかしなければ…
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平成25年3月22日(金)
信昭のアパートに行ってきた
信昭は私の顔を見た途端、挙動不審になった
やはり怪しい
陽子の日記を見た可能性がある
もし見ていたとしたら…
警察に出される前になんとかしなければ…
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平成25年3月28日(木)
久しぶりに力を使った
意識を集中し、強い念を信昭の所に送った
やはり信昭が陽子の日記を見ていたことが分かった
しかもデジカメでその内容を写したことも分かった
なんとかしなければ…
次に念を飛ばす時
一気にやってしまわなければ…
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平成25年4月2日(火)
日記のデータが入ってた信昭のPCと、デジカメを意識を飛ばし、念の力で壊さしてもらった
これで信昭の方は大丈夫だろうか?
意識を飛ばした時、見慣れない男が信昭と一緒に日記を見ていた
信昭の友人か?
こいつも調べてなんとかしなければ…
こんなことになるなら、信昭がまだこっちの家に居る時に、洗脳しておくべきだった
日記のデータがなくなったからといって安心はできない
やはり信昭をだまらせるか…
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平成25年4月4日(木)
信昭に薬を栄養剤と言って飲ました
何の変哲もないネックレスをパワーのある御守りと言って渡した
後は狂っていくのを待つだけ…
問題は信昭と一緒にPCを見ていたあの男…
今度信昭に会った時、それとなく聞いてみるか
あと一応、信昭をセミナーに出席させよう
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平成25年4月6日(土)
今日、高校の時の同窓会があった
皆、オジサンとオバサンになってた…
絵理子に久しぶりに会えた
絵理子は何も変わってない…
逆に私が変わり過ぎたのか…
楽しかった
久しぶりに笑った
あともう一つわかったことがあった
あの女…優花だった…
まさか高校の同級生が、先生の新しい女だったとはね…
どうりで何処かで見たと思った訳ね
すっかり変わってしまっていたから判らなかったわ…
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・・・・・・・・・・・・・・
朱美は自分の邪魔になる人間は、誰彼構わず薬物を使ったり、不思議な力で次々に排除していったようです。
もう自分のことしか考えられなかったのでしょう。
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そして意外でした。
高校の同級生の優花が朱美と同じ宗教に入っていたなんて…
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学生の時の優花はクラスの中でも目立つ存在でした。
勉強も運動もできて、その上美人。
男子からもかなり人気があったように思います。
そんな彼女が何故あんな宗教に入ったのでしょう……
解りませんが、彼女は朱美の死について何か知っていたんだと思います。
というのも、朱美の死を一番最初に教えてくれたのは優花からのあの電話でした。
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今考えると、彼女が朱美の死を知っていたというのが不思議なんです。
朱美から優花の話など一度も聞いたことがありません。
高校の時も仲が良かったようには見えませんでした。
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しかもあの電話の後、優花からしつこいくらい、日記について聞いてきたのです。
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私は聞かれても適当なことを言ってごまかしました。
朱美の日記には、優花のことが色々書かれていて、その内容が信じられないものだったからです。
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優花の表の顔は薬剤師だったようです。
薬の知識は豊富。教団で使われていた薬のほとんどが優花の指示で仕入れられ、それを先生のパワーが入ってると言って信者達を騙し、売ったり、与えていたということだったようです。
その薬の中には法律で禁止されてる物も沢山あったようでした。
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朱美も先生から薬を渡され、飲まされています。
もしかしたら朱美は自殺ではなくて、殺されたのかもしれません。
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薬物でまともな判断をできなくし、精神的に追い込んで自殺させた。
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そしてそのことについて、仲の良かった私が、何か知っているかもしれないと思い、探りをいれてきた。
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そうとは知らずに、私は優花に朱美から日記が送られてきたことを喋ってしまいました。
その日記に朱美の死や、教団内の優花について、何か書いてあると思ったのでしょうね。
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彼女は何度も電話で聞いてきたり、自宅にまで来て、日記を見せてと言ってきました。
あまりにもしつこいので、井上陽子さんの日記の教団とは関係ない部分を見せ、全然知らない人の日記が入っていたと言って誤魔化したこともありました。
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それからはあまり聞いてこなくなりましたが、その代わり真輪光教会の人間を使って、私をストーキングし、見張るようになったのです。
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そこまでしてくるということは、やはり送られてきた物が気になったのでしょう。
朱美の死や優花の正体が解ることが日記に綴られてると思ったのでしょうね。
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そしてその送られてきた日記の中には、私にとって、かなりショックなことも書かれていました。
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―村瀬朱美の日記―
平成25年4月12日(金)
信昭からあの一緒にいた男の話が聞けた
名前は古田貴則、絵理子の旦那と同姓同名…
しかも年齢も同じだし、住所も絵理子の家の辺り…
まさかね……
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平成25年4月13日(土)
信昭に教えられた住所に行くと、マンションがあり、そこの駐車場には絵理子の車があった。
世間って狭いかもね…本当にあの男……
絵理子の旦那の可能性が高くなった…
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平成25年4月15日(月)
古田貴則のマンションに意識を飛ばした
そこには絵理子がいた
やはり古田貴則は絵理子の旦那だった
でも、旦那の姿はなかった
念を送り、日記のデータが入っていそうなPCを壊させてもらった
旦那の方もなんとかしないといけないが、今はこれ以上何もできない…
また今度にしようと思う
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平成25年4月23日(火)
信昭はもうダメね
完全に頭がイカれてしまった
薬強かったかな?
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それよりも最近、私の身体の調子がおかしい…
先生の薬のせい?
まさかね……
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平成25年4月30日(火)
信昭をとりあえずアパートに戻した
会社も辞めさせた
しばらくはアパートで様子を見て、ヤバそうなら源教の施設にぶち込むか……
あとは、古田貴則をなんとかしなければ…
優花の存在も気になる…
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平成25年5月28日(火)
信昭を源教の施設にぶち込み、アパートも引き払った
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最近本当に身体が辛い
幻覚や幻聴も前より酷くなってきてる
本当に大丈夫だろうか?
先生の薬も効かなくなってきた…
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平成25年6月6日(木)
久しぶりに絵理子から電話があった
どうやら古田貴則が夜中に痙攣を起こし、救急車で病院に運ばれ、そのまま入院したらしい…
原因は不明
毎日、念を送った効果がやっとでてきたか…
なかなか精神的に強い男だったかもね
殺すことも可能だが、絵理子の旦那だ…
それは勘弁しておいてあげる……
それよりも今は自分の身体が心配だ…
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・・・・・・・・・・・・・・
まさか主人の原因不明の痙攣が、朱美の不思議な力によるものかもしれないなんて、微塵も思いませんでした。
というか、本当に朱美の不思議な力で、主人はこんな身体になってしまったのでしょうか?
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確かに朱美の日記に記されてる通り、家の中で誰もいないのに、人の気配を感じ、触れてもいないのに音を立ててPCが壊れることがありました。
それも朱美の仕業だったなんて…
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しかもこの件に、主人が関わっていたなんて思いもしませんでした。
主人はあまり余計なことは言わない性格です。
主人から陽子さんの日記について、一度も聞いたことはありません。
信昭さんも同じ会社の後輩っていうことは知ってましたが、それ以上は知りませんでしたし、まさか朱美と関係があるなんて全然わかりませんでした。
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私に余計な心配をかけたくないと思ったのでしょうか?
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痙攣が起きる前までは、真面目に働き、仕事もほとんど休んだことはありません。
難病を患って、痛みのない日はなく、辛く大変な毎日だったというのに…
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大変でしたが、幸せだったように思います。
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そんな主人が今ではほとんど寝たきりの状態です。
無理をしていたのかもしれません。
でも普通に働き、普通に生活をする。
当たり前のことかもしれませんが、幸せだったんです。
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痙攣の原因が、本当に朱美の力によるものだったならば、私は朱美を許しません。
ですが、そんな朱美の性格を、歪ましてしまった原因の一つが私にあるならば、とても複雑な気持ちなのです。
主人には何の罪もないだけに、本当に悔やまれます。
まさかこんな形で私に返ってくるなんて……
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私には宗教というものが解らなくなってきました。
私が信じるものは正しいのでしょうか?
祈り続ければ幸せに近づくのでしょうか?
ですが、今の私には祈ることしかできません。
少しでも幸せに近づくように……
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朱美も最初は幸せになる為に宗教に入信したはずです。
ですが、日記の中の彼女からは幸せを感じられません。
毎日何かに怯え、日に日に窶れていく姿が日記には記されています。
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そして最後には、焼身自殺……
彼女は人生の中で、幸せを感じる時間はあったのでしょうか?
いったい彼女は、何を考えて生きてきたのでしょうか?
真輪光教会という宗教に何を求めたのでしょうか?
未だに何も解りません……
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優花もそうです。
彼女も真輪光教会に何を求めたのでしょう…
私から見ればこの宗教は狂人の集まりでしかないように見えるのです。
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先生と呼ばれる教祖、人道光照。
彼は何者なのでしょう?
セミナーや会合を開き、薬や奇妙な儀式で信者達を洗脳していったといいます。
金と人を集め、何をしようとしていたのでしょう?
自分の欲の為?
それとも人の支配でしょうか?
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そんな宗教に狂わされていった人達……
その人生は皆、壮絶なものだったのかもしれません。
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朱美のように、辛く悲しい人生があったのかもしれません。
日記の中の朱美のように……
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―村瀬朱美の日記―
『身体が腐っていく
心が腐っていく
涙が滲み
強い苦しみが思いの中で木霊する
冷たい感情の中を歩き
記憶を引き摺るのはもうたくさん
貴女の恐怖を見ているだけで 破壊に狂える今の私は
夢を見ることさえくだらなく感じるの…
さぁ 教えて
貴方の時間は意味があるの?
貴方の命に意義はあるの?
果てることのない歪みの叫びは私を救えるの?
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違うと言って
違うと言ってよ
こんな淀んだ血の流れに自分を止められないなんて…
心を剥ぎ 痛みを毟ることの快感
怯え震える眼は
鏡を見ているだけと気付いたわ
込み上げる悲しみに揺さぶられる度 反吐が出るの
現実と幻を彷徨い 滅びの時を歩くのも悪くないでしょう?
さぁ 教えて
貴女に意味はあるの?
私に意味はあったの?』
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平成25年7月11日(木)
まただ…また詩……
消しても、ページを破いても、気付いたら新しい詩が次々に書かれていく
気が狂いそう…
これが陽子、あなたの呪いの力なの?
それとも私が狂っているの?
わからない…
何もわからない…
私はどうしてしまったの?
全てあなたの呪い?
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まともに過ごせる時間が少なくなってきた
頭痛に目眩、吐き気に震えが止まらない…
幻覚に幻聴もひどい
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平成25年8月9日(金)
仕事も家事もできなくなってきた
信治のことも面倒になり、薬の量を増やし、源教の施設にぶち込んできた
金はあるし、しばらく一人でゆっくり暮らそう
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平成25年8月19日(月)
先生が様子を見に来てくれた
やはり心配してくれていたんだ
さりげなく優花のことを聞いてみた
優花は薬剤師の資格を持っているみたいで、薬を作るのに助けられていると言っていた
それ以上の関係はないとも…
やはり頼りにしてるのは私だとも言ってくれた
私の力が必要だと、源教には私が必要だと…
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先生は帰り際、薬を置いていって、しばらくは家にいなさいと言っていた
この薬…まさかね……
私を狂わしても何のメリットもないものね……
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平成25年8月21日(水)
家が炎に包まれる幻覚を見た
喉が苦しく、身体は焼けるように熱い
なんとか家から脱出すると、炎はウソのように消えていた…
本当に私…どうしてしまったのだろう?
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平成25年9月13日(金)
幻覚が止まらない…
今日は腕の中に虫が蠢いていた…
気持ち悪い
自分の行動もおかしい…
気が付いたら自分の頭髪を毟っていた
鏡を見るとすっかり変わってしまった私がいた
このままではまずい
なんとかしなければ…
まだまともな意識があるうちに……
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平成25年9月15日(日)
先生の薬を少し多めに飲んだ
凄い気分が良い
これなら大丈夫そうだ
源教に久しぶりに顔を出した
先生は心配してくれていた
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平成25年10月22日(火)
先生の薬がないと正気を保てなくなってきた
24時間、頭の中に陽子の詩が聞こえる
ずっと詩がループしてる
頭がおかしくなりそう……
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平成25年12月18日(水)
今日、源教で先生と優花の話を聞いてしまった
私が怖いらしい…
私はお払い箱らしい…
何で?こんなに尽くしてきたじゃない…
余計なことを知り過ぎた?
私の力がそんなに恐怖?
全部先生の言う通りにしてきたじゃない
こんなの嘘よ…
私より優花をとるの?
何で?
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平成25年12月20日(金)
やはり私はお払い箱のようだ…
先生は私を利用したにすぎなかった…
私を心配したのは嘘…
私を大事にしたのは自分の為だったみたい
散々利用して、少しでも危険要因がある者は消すって訳ね…
私は何の為にこの力を使ってきたの?
この力は何の為に私にあたえられたの?
こんな思いをするのなら、力なんていらない……
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・・・・・・・・・・・・・・
朱美も人道光照に利用されてるだけだったようです。
多分渡された薬も、洗脳の為に使用してたやつか、それ以上の効果のある薬物だったと思います。
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朱美は人道光照を信用してたのでしょう、薬を飲み続け、狂っていった様子が日記に記されていました。
そしてこれも薬の効果なのか、常に陽子さんの存在を感じ、怯えて生活してたようです。
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教団の施設に入れられた信治さんと信昭さんはどうなったのでしょうか?
日記には施設に入れられた後の二人のことは何も記されていませんでした。
二人が生存してるかどうかも不明です。
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この宗教は…
いえ、人道光照は恐ろしい人間です。
自分の為なら何でもするのでしょう。
もしかしたら朱美以外にも騙され、薬漬けにされ、捨てられた人がいたのかもしれません……
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そしてそんな恐ろしい男の側にいた優花は、何を考えていたのでしょうか?
彼女は真輪光教会の実態を知っているはずです。
そして朱美の死の真相も…
だから日記を持っている私まで監視していたのでしょう。
確かにこのことを警察等に知られたら、教団もヤバイだろうし、彼女も多分逮捕されるでしょう。
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私はこの日記を読んで、教団の実態、朱美の人生、優花の正体を知ることができました。
そして、それと同時に身の危険も感じています。
多分この日記が真輪光教会の人に見つかれば…
私も無事ではいられないでしょう。
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恐ろしいことばかりが記されてる日記…
朱美は何を考え、この日記を書き続けたのでしょうか?
彼女は気が狂い、まともに字が書けなくなってきても書くのを辞めず、自分の死が迫ってきても書き続けていったのです。
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―村瀬朱美の日記―
平成26年2月6日(木)
天井が…壁が…動く……
ウネウネ、グネグネうごく……
壁に詩が浮き出る
おかしい…
私がおかしい…
もうダメ、薬がないと生きていけない……
なんとかしなきゃ
このままだと私は消える……
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平成26年3月17日(月)
家の周りに源教の人間がいる
私を監視?
そう……私はもう源教にとって危険人物って訳ね…
私を敵に回して無事でいられると思うの?
私の力をなめないで
殺してあげるわ
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平成26年4月20日(土)
苦しい、痛い、気持ち悪い
薬が欲しい、でも今、源教に行ったら私はどうなるか……
監視も続いてる…
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源教を潰してやろうとしたけど
意識が集中できない…
念を飛ばせない
薬がないと何もできない
動けない……
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平成26年5月7日(水)
一か八か、陽子達に渡してた薬が残っていたので飲んでみた
大分楽になった
やはり私が飲み続けた薬も、この薬に近い物だったのだろう……
許さない
私を始末するつもりだろうけど
ただでは死なないわ
見てなさい、絶対潰してやるから
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平成26年6月2日(月)
ダメ、本当にダメ
日記を書くのも辛くなってきた
助けて、誰か助けて……
詩が浮き出る
天井に、壁に、テレビに
そして私の身体に……
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平成26年7月3日(木)
外に出るのも辛い
出られない
痒い、体が痒い…
気が付いたら自分の左手首に噛みついていた
血が止まらない
正気を保つのが難しい…
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平成26年7月5日(土)
死ぬってどんな感じだろう
どうせ生きてても正気じゃいられない
これも陽子の呪いだろうか?
ただの薬のせいだろうか?
どっちにしろ、もう元には戻れない……
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平成26年7月6日(日)
もう一度、お母さんに会いたい
ごめんなさい、バカな娘で
絵理子に話を聞いてもらいたい
でも、もう無理
何もかも遅すぎる…
私の身体に刻まれた詩は
少しずつ、私を狂わし苦しめる
皮膚を毟っても
肉を削いでも
詩は消えないの…
たとえ見えなくても、聞こえてくるから…
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平成26年7月8日(火)
今の私は化物ね
人間の姿には見えない
鏡を見てぞっとした…
これが私…
これが今の私……
憐れで醜い化物
これも全て…
源教に全てを捧げた結果…
憎い
憎い…
本当に憎い
殺してやる
全てを消してやる…
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平成26年7月10日(木)
苦しい…
生きるのが辛い
私の人生なんてこんなもの…
私はバカだった
ずっと特別な存在だと思ってた
でも凡人以下だったのかもしれない…
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最後に世間に訴え死んでやる
こんな身体は見られたくない
呪いの詩が刻まれた身体なんて…
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自分を燃やし、全てを燃やし尽くそう
世間はどう見るかしら?
警察が動いたら、源教も優花も終わりだわ
ざまぁ
もし警察が動かなかったら、私が呪い殺してやる
それを考えると、楽しくなってくるわ
笑える…
心の底から笑える……
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・・・・・・・・・・・・・・
本当に身体に詩なんて浮かびでるのでしょうか?
私にはただの幻覚にに思えるのですが…
それとも本当に陽子さんの呪いだったのでしょうか?
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そして焼身自殺で何を訴えたかったのでしょうか?
焼身自殺することで、警察が調べてくれると思ったのでしょうか?
しかし、彼女の願いはむなしく、結局ただの自殺で処理されたようでした。
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この日記を自分で警察に出せば、話は変わったかもしれませんが…
彼女はそれをしませんでした。
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そして日記の最後には、陽子さんの詩のようなものが書かれていました。
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―村瀬朱美の日記―
『少しずつ失っていくのはどんな感じ?
潰され 壊され 蝕み 侵食していく…
まだ足りない
まだ足りないの
聞こえるでしょ?
滅びの詩が……
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心を引き裂き どこまでも堕ちるがいい
最高の快楽を逃すほど 私は愚かじゃないの…
連れていってあげる
常世の闇へ
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滅びの詩を歌う時
世界は淘汰され 貴女は忘れ去られていく
四悪趣の迷宮で狂いなさい
ここは苦狂の淵
貴女にはお似合いよ
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地獄の業火に焼かれ
永遠の絶望を味わう時
私の願いは報われる
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深みに落ちるほど 心は歓喜に満たされる
人の運命は醜いもの
死んで罪に縋り泣くがいい
希望を砕き 絶念に震えるがいい
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夢を捨てるほど 私は優しくないの
招いてあげる 虚ろの病みへ
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滅びの詩を歌う時
世界は淘汰され 私は忘れ去られていく
道心を抉り 狂気に破滅なさい
ここは忘却の淵
貴女は寂滅したのよ
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明けない夜はもうこない
これでゆっくり夢を見られそうなの
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もう日の光を忘れていたのかもしれない
闇が長くて
僅かな光でも眩しく感じるの
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今なら
ようやくゆっくりと
木漏れ日の詩が聞こえてきそうなの
あの眩しく 暖かい詩が…
こんなにも暖かい詩が…』
7月17日 井上陽子
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・・・・・・・・・・・・・・
これが最後の日記になっていました。
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そしてこの詩が書かれた日付の日に朱美は自殺しています。
もしこの詩が本当に陽子さんが書いたものならば、呪いは成功したのでしょう…
この詩が書かれたと思われる日には、もう朱美は日記を私に送っているのです。
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でも本当にこんなことができるのでしょうか?
陽子さんはこの日記が書かれるずっと前に亡くなっています。
彼女の強い念が、日記の中に詩を書き綴っていったというのでしょうか?
もしそうなら、人の念とは恐ろしいものです。
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そして朱美が最後に日記を書いたと思われる日は7月10日です。
その4日後、7月14日に私に日記を送っています。
そして更に3日後に彼女は自殺しているのです。
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この一週間、彼女は何を考え、最後の時間を過ごしたのでしょう?
何故10日後に私に届くように日記を送ったのでしょう?
自殺するまでの間に何かやりたいことでもあったのでしょうか?
私の所にすぐ届いては、自殺するのを止められると思ったからでしょうか?
この空白の一週間の行動が未だにわからないのです。
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私には今回の件、理解できないことが多過ぎるのです。
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朱美の不思議な力、欲望に駆り立てれた人生、そして自殺。
優花の思惑、真輪光教会と人道光照。
人はこんなにも無情に、鬼畜のような者になれるのでしょうか?
これがお金や欲にまみれた人間の姿なのでしょうか?
そして本当に不思議な力や呪いといったものがあるのでしょうか?
私の主人は本当に朱美の力で、あんな身体になってしまったのでしょうか……
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本当に一つも理解できません。
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そして朱美が書いた日記の最後には、警察が動かなかったら私が呪い殺してやると書いてありましたが…
これも現実になったようです。
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一週間前でした。
真輪光教会の教団施設等が火災で消失したのです。
ニュースで見てビックリしました。
警察の調べによると、集団自殺か、何かの儀式ではないかとのことでした。
何故ならば、この教団施設の人間誰一人、逃げる様子もなく炎に焼かれ死んでいったといいます。
そして、外に出れば化物に殺されるから外に出てはいけない、と叫んでる声を聞いた近所の住人もいたそうです。
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その後、この教団施設にいなかった信者達も次々に自殺していったみたいでした。
あの優花も施設消失の二日後に焼身自殺で亡くなっています。
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何故彼女は自殺したのでしょう?
そして何故朱美と同じ死に方を選んだのでしょう?
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これも朱美の呪いなのでしょうか?
もしそうなら朱美はこれで成仏できるのでしょうか?
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私は真輪光教会が消滅した今、この日記を警察に渡そうと思いましたが、思いとどまりました。
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それは朱美の手紙。
日記と一緒に送られてきた手紙に彼女の最後の思いがあったからです。
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そしてまだ、呪いは全て終わっていません。
まだ、主人の病は続いているのです……
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―村瀬朱美の手紙―
絵理子へ
突然こんな物を送ってしまってごめんなさい。
ビックリしたでしょう?
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これには訳があるの。
私は数えきれないくらい罪を犯してきました。
自分を見失い、鬼の心を持つようになるまで……
一緒に送った私と井上陽子さんの日記を読んでくれたら、私の罪の深さを理解できると思う。
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そして絵理子…
あなたにもとんでもないことをした。
正確には旦那さんの方にね。
本当にごめんなさい。
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今なら辛く苦しんでる人の気持ちが痛いほど解るの。
日に日に弱り狂う自分が恨めしい。
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何故こんな自分になってしまったか自分でもわからない…
思い起こせば、絵理子…あなたと一緒にいた僅かな時間が楽しかったし幸せだった。
母親と一緒にいた時間が温かく、幸せだった。
何故気付かなかったんだろう…
何故忘れてしまったんだろう…
ごめんなさい…
本当にごめんなさい。
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私は死ぬでしょう…
自分を追い込んだのは自分自身。
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本当は警察に出頭すれば、別の道があるのかもしれない。
でも井上陽子は生きることを許してくれないと思う。
私はどっちみち死ぬ運命なの。
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日記を警察に送ろうともしたわ。
でも、お母さんのことが心配。
私を最後まで心配してくれたお母さんを犯罪者の母親にしたくないの…
お母さんはずっと苦労してきた。
これから一生、犯罪者の母親として生きていくのは可哀想。
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自分勝手なのは解ってる。
都合のいいことばかりやってるのは解ってる。
こんなこと、頼めるの絵理子しかいないの…
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日記を全部処分しようとも思ったわ…
でも呪いがあるの、陽子の呪いが…
日記を処分しても、またきっと元の形で戻ってくる。
だから絵理子お願い。
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あなたの力で…
あなたの祈りで成仏させてあげて、私が憧れたあなたの祈りの力で…
お願い、救ってあげて…
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私も最初から絵理子と同じ宗教に入信すればよかった…
そうすれば、もっと違った人生を歩めたと思う。
本当にごめんなさい……
朱美
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・・・・・・・・・・・・・・
宗教っていったい何なのでしょうか?
人を幸せにするもの?
心を豊かにするもの?
それとも不幸にするだけのものなのでしょうか?
私にはわかりません……
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朱美が言う力など私にはありません。
でも、強い念で人を殺すことができるなら…
強い念で人を救うこともできるはずだと思います。
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だから…
私は今祈っています。
主人の回復と家族の幸せ。
亡くなっていった人達の冥福を……
そして…
呪縛からの解放を……
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私はあなた達を見て、自分の存在する意義を必死に見出だしています。
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大切な人が笑ってくれない…
大切な友達が一緒に笑ってくれない。
一人ってこんなに恐い…
一人ってこんなに寒い。
私は誰かを不幸にする為に生まれてきたのでしょうか?
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少し疲れてきました…
私もあなた達の所で羽を休ませたい……
例え最悪の選択だとしても…
でも、進まなきゃいけないのは解っています。
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まだ滅びの詩が聞こえないから…
苦狂を背負う勇気が欲しい。
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楽しいことなんてなくてもいい…
辛いことの積み重ねでもいい…
あなた達は私の全て…
人生の欠片であり、生きる喜び。
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だから祈るの…
あなた達に光が届くまで。
木漏れ日の詩が聞こえるまで……
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これから苦狂が待っていようとも……
祈り続ける。
滅びの詩が聞こえるまで……
私が滅びゆくまで…………………
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苦狂日記 滅びの詩 終
そして…
木漏れ日へと続く……
作者退会会員
苦狂日記 叫びの詩の続きです。
今回もなるべく、実体験や本当にあった出来事や事件等を参考に書いてみました。
上手くまとめられず、グダグダになってしまった感じがありますが、読んでくれたら嬉しいです。
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