今日のおかずってトリ?
帰省して間もない私は、久方ぶりの実家で目を丸くしていた。キッチン隅、こげこげのコンロの脇に置かれたお皿。それに目を釘づけにされてしまった私は、心持ち顔だけ2階に向けて訊ねると、そうだよ〜、とぼやけた母の声がする。お昼はトリだよ〜。
でも、これが?
思わず口に出してしまう。なぜならお皿に乗せられたシロモノは、ただ首がはねてあるだけの羽もむしられてないトリの死体だったからだ。
一体どこでこんなものを、と訝しがらずにはいられなかった。私が物心ついてからずっとスーパーの惣菜やコンビニ食でお茶を濁し続けてきた母が、どうして。
腐臭はしないし、むしろ微かに鉄臭さが立っいるあたり、このトリは刎ねられて間もないようだった。あっ、今、ひくっ、てケイレンした。気色悪い。
トリは、皿の上でしばらくトリ足をひくつかせていたが、やがてひくひくがピクピクになるくらい小刻みになると、なんの兆候もなくひょいと立ち上がった。そしてそのままひょいひょい、ひょい、と、コンロを通過してシンクを乗り越え、壁をすり抜けて消えてしまった。
後に残ったのは、切断面から垂れたらしい血痕が数滴だけ。言葉も出ない私の元に母がやってきて一言、「もぅ〜娘の帰省中くらいじっとしててよ〜」、だって。
作者Toru Matsuoka
20年くらい前に母が祖母から聞いた話です。初めて聞いたときは、「首のない鶏が歩いて壁をすり抜け消える」というイメージにショックを受け、夜も眠れませんでした。鶏をどうやって調達したのかは祖母も最後まで分からなかったそうです。
追記:このお話のお母さんは私の曽祖母に当たる人です。曽祖母はこの手の体験談に事欠かない人だったそうなので、機会があればまた不思議な曽祖母について書きたいと思っています。