俺のオカルト好きを知っている、某図書館で司書をしている知人からメールがあった。
地下倉庫を整理していたところ、赤で大きく廃棄予定と書かれたダンボールを見つけたそうだ。
「廃棄予定」って大きく書かれてるのに、見えにくい所においてあって、凄く埃をかぶってるの。不思議だと思わない?その位じゃ興味わかないかなぁ?
何が、入っているんだ?と返信。
暫くすると、気持ち悪い本とかラテン語やギリシャ語で書かれた意味不明な本が詰まっていたと着信。
何が気持ち悪いの?と返信。
日本語の本だとマハラジャが撮影させた、虎が女性を追い回し喰い殺すまでの、スナッフフィルムの話や人喰いの風習がある種族内でしか発生しない奇病の様な猟奇的な本。
魔女を自白させる方法と、その処刑方法だけが淡々と記された本。
そんな事が延々記載された本ばかり。
ラテン語の本はビッシリ図形で埋められてて、悪魔召喚方法の本がほとんどかな?
「Clavicula Salomonis」位は私も知っているけれど、それ以外はわからない。
一冊だけ、鍵が掛かった薄気味悪い本があって、掠れた表題が辛うじて、ギリシャ文字に見えるから、ギリシャ語の本かな?
日本語の本が、1950年頃の初版ばかりだから、その辺りに蒐集したオカルト本ばかり詰まっているのかしら?ねーねー興味無いかな?と着信。
このメールを見た瞬間、大いなるチャンスに感謝した。
君のいる図書館って児童用と大人用にフロア別れて無いから、そんな本は廃棄する他無いんじゃない?と返信。
そうよね、こんな本を子供が見てトラウマになった!とか言われても困るもん。でも量が結構あるし、この地下倉庫は階段しかなくって、スタッフが女性ばかりのここでは、お願いしにくいのよねー。と、着信。
じゃあ、俺手伝うから、明日の閉館後そっち行ってもいい?と返信。
来て貰えるの?じゃあ私にご馳走させて。あなたに気に行って貰えそうなBAR見つけたの。と、渡りに船の着信!
知人の方は、廃棄どうこうより、作業開始時間と飲みに行く方に興味があるらしく、後のやり取りはサクサク進む。
翌日、待ち合わせ場所にいた知人は、おおよそ、作業なんかに向かない服装で、わざわざハイヒールに履き変えていて、作業する気はナッシング。
勤務中には付けていないはずの、甘ったるい香水の香りが微妙にウザイ。
まあ、こちらにとっては好都合。
鞄の中へギリシャ語の本を忍び込ませるのは、簡単だったし、メールで相談を受けた時に、想像していた程の量でも無くて、作業自体はすぐ終わった。
メールで相談していた予定より、1時間以上も早く、BARに到着。
ここは、ブラック・ルシアンは球形の氷、ブラッディー・マリーは円柱の氷みたいに、氷の形変えてだしてくれるの!お洒落でしょ?と言いながら次々に注文する。まだ、夕方という程の時間でも無いうちから、テンション高いなヲイ。
その酒には、殆ど口を付けず、これからどうするか?を思案していた。知人は色々話しかけて来たが、当然会話など弾まない。
会話が弾まないのを気にしたのか、絶対美味しいお店があるからそこへ行こ?と言い出した。
早く試したい事があったので、早々に帰りたいが、試すにしても、まだ時間的に早いので、それに応じた。
かなり、飲んだらしくて千鳥足で寄りかかって来るのにイライラする。
太陽が、やっとその姿を消した頃に
この先に有る、隠れ家みたいなお店が本当に美味しいのよ!ディナーには早い時間で相談して、何とか予約取れたの!
と、知人が言い出した。都合の良い事に繁華街の裏道。人通りもなく暗い。
出来れば、全く無関係な相手に試したかったが、好奇心に勝てず、実験を開始する事にした。
なぁ、あのギリシャ語の本って何だか知っていた?と、眠そうに寄りかかったまま歩く、知人に尋ねる。
「鍵が付いてるのに、私が先に開いちゃうと悪い様な気がしたし、表題も辛うじてギリシャ語?で、すぐ置いちゃったから全然わかんない。あの本には興味持って貰えるかなぁと期待してたんだけど。。」
「じゃあ開いては見なかったんだ?」
「あれ?興味持って貰えてたんだ。珍しい本を発掘したから、喜んで来て貰えるかなぁってメールしたのに、あまり話ししてくれないし、機嫌損ねちゃったかなぁって心配してたの。予約の時間には、余裕があるし、お店で待ってて貰える?私、急いで取りに戻ってくるわ」
今迄、眠そうにもたれかかっていた知人がは!っと目を覚まし、嬉しそうな顔で言う。
予約を入れた店へ向かうと言う事は、想定外だったが、これが本物なら問題無いだろう。
「いや、それは持ち出しているから良いんだ。」
私は鞄から取り出した本を知人の方に向けて開いた。例えるならムンクの叫びの様な表情に変貌した知人は見えない何物かが、持ち上げた様に宙へ浮かび、貪り喰われるが如く、体が少しづつ消えて行く。
完全に消え去った後に、本の表紙を見ると
今まで消えかかっていた表題が
「Νεκρόςνόμοςεικών」
と禍々しい金色で輝いていた。
これこそが偽書とされている大魔導書の真本。鍵は、中を見た者の命。無闇に開くと、開いた本人が鍵にされてしまう。
まぁ、直前に会っていた知人が、突然失踪した上に、予約を取っていたと言う店に行っていなかった事もあり(予約を取るのが難しいので有名な店だったらしい)色々有ったが勿論、警察で理解可能な証拠なんて、出やしない。
尋問めいたインタビューや拘留を受けたのは人権侵害だ!と訴えてやったら、暫くは遊んで暮らせる和解金が即支払われるし、願ったりかなったりだ。
ここまでは、順風満帆だった。しかし、鍵の効力が、一年程度なのに、何度読み返しても全容たる道への解答を導き出せない。
次の鍵をどう、手に入れるか?
今の俺はその事で頭が一杯だ。
閉じた本の掠れ行く表題を眺めながら。
作者斬麗魔
かの有名な偽書「ネクロノミコン」を題材にしてみました。ラヴクラフト先生は、偽書として作者・作成〜禁書・焚書にいたる年表とそれを免れた写本がどこに所蔵されているか?等々肝心の内容は謎のままに、経歴のみを上手く設定されているので、今でも真本の存在を信じて探しているオカルトマニアが世界中にいるそうな。。。
一応、続編有りな予定。