・・・・・・・・・。
ゆっくりと道を進んでいると、ピザポが唐突に話を始めた。
「中学・・・三年生の頃の話何だけどさ。」
僕が顔を向けると、何処か恥ずかしそうに笑う。
「あんま見んなよ。自分語りなんて、慣れてないんだから。」
そして、右手を伸ばし、僕の頭をぐるりと前へ向ける。コキリ、と首から変な音がした。
「痛い。」
「ごめんな。」
ピザポが僕の頭から手を離す。
僕は今度は前を向いたまま、彼が話し始めるのを待った。
軈て、ぽつぽつとした声が、雨に混じり、頭上から降って来る。
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・・・・・・・・・。
俺が此方に越してきた理由って、話したっけ。
・・・・・・ああ。だよな。あの時はどうも。お世話になりました。
・・・。
あのな、中学三年生のギリギリまで、俺、どうすれば良いのか迷ってたんだ。
地元に残るべきか、此方に来るか。
ユキちゃんからゴーサインは出てたし、家族からも了承は得てたんだけど、何か其れでも決められなくてさ。
いや、此方に来るのが嫌だったんじゃない。
ただ、家族を残して一人逃げる・・・みたいのが、少し怖かったんだよな。
・・・・・・ほら、先の震災もあるだろ。実家は海辺の町だからさ、もしものことを考えると・・・何か、な。
いや、家族に何かって言うよりは《もし、自分が居なかった所為で何か起こったら》って感じの不安で・・・。
ただでさえ面倒な思いさせてんのに、俺のことでまた迷惑掛けたらって考えると、どうしても思い切れなくてな。
もういっそ全部止めて、グレてバイクとか乗り回してやろうか、とも考えたよ。
自棄になってたんだろうな。多分。
・・・・・・そんな時だった。
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ちょっと助けてもらった人が居たんだ。
・・・いや。助けてもらったって言うか、背中を押してもらったって言うか・・・。
其の人、言葉が不自由で、何も喋れなかったんだけどな。それでも、俺の話をちゃんと聞いててくれてて。あと、飴。飴をいっつも持ち歩いてたんだ。
俺が言いたいこと全部言い終えると、一日一本、安っぽい棒付き飴・・・イチゴアメって、コンちゃん知ってる?そんな感じ。其れを、ヒョイッてくれるんだ。小さな子供にするみたいに。
それで、俺は随分・・・・・・。
・・・・・・何て言うべきなのかな。
強いて言うなら・・・救われたよ。
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・・・・・・・・・。
ピザポは其処で言葉を切り、不意に立ち止まった。
何時の間にか女の横は通り過ぎていた。
其れでも、僕達の数歩後ろに居る。
ズリズリという音は無い。どうやら近付いて来てはいないようだ。
然し、どうしてまたこんな所で立ち止まったのだろうか。
不思議に思い、ピザポの方を見る。
彼は雨に濡れぬよう傘を肩に挟み、荷物の中をゴソゴソとまさぐってた。
鞄の横ポケットの中に手を入れ、ピザポが何か取り出す。
そして、其れをそのまま僕の方へ差し出す。
「はい、コンちゃん。これあげる。」
彼が持っていたのは、三角錐に似た青い飴がプラスチックの棒に付いている、棒付き飴だった。
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・・・・・・・・・。
「え、ああ、ありがとう・・・。」
何が何だか分からないまま、飴を受け取った。
その時だった。突然、後ろから声が聞こえた。
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「ワダシハミニグイカ…………。」
酷く聞き取り難く、一瞬何を言われたのか分からなかった。
後ろを振り返ると、女がボロボロと涙を流しながら、此方を見ていた。
「・・・・・・え?」
「ワダシハミニグイカ、ワダジハミニクイガ、ワダジハミニクイカ、ワタシハミニグイガ、ワタシハ、ワタジハ、ワダジハ、ワダシハ…………」
女が一際声高く咆哮する。
「私ハ、醜イカァァァァァァ??!!!」
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・・・・・・・・・。
「出た!ズリズリさんだ!!ほら、コンちゃん、逃げるよ!!!」
ピザポの口調が、元に戻っていた。
僕の左手首を掴み、勢い良く駆け出す。
転ばぬよう、僕も慌てて足を動かした。
走りながらピザポの顔を見ると、真底楽しそうに笑っていた。
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・・・・・・・・・。
ズリ、ズリ、ズリ
背後から聞こえて来る音は、きっと彼女の袋が地面に擦れている音。
「何時まで逃げるんだよ。」
「んーと、取り敢えず神社まで。もうちょいスピード上げて走れる?」
「・・・・・・ああ!」
僕達は神社を目指し、更に足を加速させながら、走って行った。
作者紺野-2
どうも。紺野です。
兄がのり姉に「何だかお爺ちゃんに似ている」と言われ凹んでいます。マリアナ海峡並みに凹んでいます。
お爺ちゃんと言っても、恐らく、彼女がはまっているゲームキャラの愛称なのでしょうが・・・・・・。
面白いので、兄敢えて教えません。
さて、次の回でズリズリさんはおしまいです。
宜しければ、最後までお付き合いください。