まったく幽霊だのは出てこないが、つまらない話をひとつ。
私は仕事柄、人の最後に立ち合う事がある。
まだ学生であった頃に、臨地実習で聞いた一言を噛み締める事もしばしばである。
「ここは人生の縮図よ」
その指導者は一人の患者の部屋に入る前にぽつりとそう言った。
「その人がどう生きてきたかが、とてもよく分かる。だから、人を大切にしなさい」
こないだ一人の患者が亡くなった。
早朝の事だ。お迎えが来たのは半日以上も後の事だった、と後に聞いた。
容態が変わった時、電話をしたのは私であるが死んでから連絡してください。返ってきたのはそんな言葉だけだった。
そういえば家族は遠方でもないのに一度も見舞いには来なかった。
死に面した人間がそんな言葉しか貰えない。
ともすればその人はどんな人生を送ってきたのだろうか?
怪異。幽霊。呪い。怖い話はこの世に溢れている。
しかし私は、人間の心や関わりもまた恐ろしいものではないかと思う。
皆さんは、人を大切に出来てはいるだろうか。
私は……、どうだろうか。
それは最期の時にきっと分かるのだろう。
作者ミトウ