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木葉に連れられて山道を歩くこと十数分、人工の杉林を抜けた所に、其れは居た。
「こんにちは。がきごぜさん。」
三味線を立て掛けられたミイラのような何かに、木葉がペコリと頭を下げた。
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死体だと思った。
黒く張り付いた肌、抜け落ちた髪、浮き出た肋骨に剥き出された歯、異様に膨らんだ下腹部。
そして、黒々とした穴だけの、目。何処もかしこも乾いて萎びて縮んでいるというのに、其処だけ主張することを止めていない其の眼窩。
やはり死体だ。厭わしい。
生理的嫌悪感で、思わず目を背けた。
幽霊だとは、思わなかった。 どうしてかと言うと表現が難しいが、何となく《実体感》が有ったのだ。犬猫や人と同じような、確かに此の世に存在している感じが。
「ほら、真白君。」
木葉が俺の腕を掴んだ。
「挨拶してください。がきごぜさんは目が見えないから、声を出して挨拶しないと駄目なんです。」
微動だにしないミイラ擬きの前に、否応なしに引き出された。
木葉を見ると、至って真面目な顔をしている。からかっている訳ではないらしい。
「ど、どうも。真白って言います。木葉の友達です。」
仕方無いので、渋々頭を下げた。
当然ながら反応は帰って来ない。当たり前だ。死体が喋る筈がない。
どんな反応をすれば良いのやら。どうにも困ってしまった。
「はい、此れどうぞ。お握りとゼリーは真白君がくれたんですよ。」
困ってしまっている俺にはお構いなしで、木葉はミイラ擬きの前に食べ物をどんどん置いていく。
其れ処か、目の無いミイラ擬きに目線を合わせるような仕草をし、時折、一言二言何かを言ってはニコニコと笑っている。
こう言ってはなんだが、正気と思えない。
俺は正直な所、恐ろし過ぎて今にもチビってしまいそうだった。
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木葉が食べ物を一通り並べ終え、此方に戻ってきた。ミイラ擬きに向かい、改めて礼をする。
「どうぞ、お召し上がりください。」
其の時だった。
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カタン、と軽い音が聞こえた。
逸らしていた目を、もう一度ミイラ擬きに向ける。
見ると、細い腕が、置かれたお握りへと伸ばされていた。
くるんであるアルミホイルごと、ミイラ擬きは其れを口の中に押し込んだ。
噛み砕いている様子は無く、ただ喉元が緩やかに動く。まるで、水か何かでも飲み下すように見えた。
ごくり、ごくり、ごくり、と三口で大きめのお握りを飲み、今度はお菓子類に手を出す。此れもまた、噛まずに飲み込まれる。飴の包み紙もプチゼリーのカップも、御構い無しだ。
最後に梨を、一つを二口程度で口の中に詰め込んでしまうと、ミイラ擬きの目の前は、またまっさらな地面に戻ってしまった。
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唖然としていた。
質問をしようと木葉の方を向くと、高く澄んだ音が耳を打った。前方からだった。
ミイラ擬きが、自身に 立て掛けられた三味線を持ち、其れを演奏していたのだった。
横で嬉しそうに手拍子を始める木葉。
俺は愈、何が何だか分からなくなった。
作者紺野-2
ごめんなさい眠いので詳しくは明日