夢の話をしよう。
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高校時代のある日、授業が終わり
地元の幼なじみと寄り道を楽しんだ。
田舎暮らしの僕にとって、電車通学中の
寄り道は大きな楽しみであり、時を忘れて
遅くまで出歩いたものだ。
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僕の地元は、工業地帯だ。
鈍色の工場は日夜問わず稼働し続けている。
夜になると電灯が光輝き、少ない街灯の
代わりを果たしつつ、工場はその存在感を
一層強めた。
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そんな景色を眺めつつ、少し遅めの帰宅を
済ませた僕は簡単な食事を取ると、風呂も
入らぬまま早々に二階の自室へと引き上げた。
布団に寝転がると同時に眠りに着いた。
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……
夢を見ていた。
祖父の家に家族で来ているようだ。
そこは、実際には祖父の家ではなかったが、
古めかしくも懐かしい、まるで住み慣れた
旧日本家屋のような佇まいだ。
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皆で食事をとっている。祖父の家に行くと、
いつも祖母が焼き魚を出してくれた。
その魚を食べていた時、祖父が口を開いた。
shake
「わしは奇病に感染した。もう長くはない。
この奇病は強い感染力を持ち、伝染する。
激しい痛みに苦しみながら吐血し、血便を
垂らし、絶命する。」
皆が泣いている。
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…気がつくと目が覚めていた。
嫌な夢を見た。トイレへ行くことに少し
抵抗を感じるが、生理現象には勝てない。
「じいちゃんはガンで死んだはずだ。
奇病な訳はない。おかしな夢だ。」
僕は怖くなると一人言を呟く癖がある。
用を済ませると早足で布団に入り、目を瞑る。
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…
祖父が亡くなった翌日から夢が再開していた。
皆の表情は暗い。祖母が口を開く。
「私も感染した。もう助からないよ。
もう、私に近寄ってはいけない。
あんたら迄、死に絶えるのはゴメンだよ。」
shake
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…さっきと同じ夢?ありえない。
初めての経験に違和感を覚えた。同時に、
背筋が冷たくなるのを感じた。
母の嗚咽が聞こえる。
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…2度目の目覚めだった。
草木も眠る丑三つ時。僕は目覚めたことに
安堵と後悔の入り交じった感情を抱いた。
怖い。未だ夜は明けない。
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眠れば夢が再開するだろうか。
次は誰が感染し、死ぬのだろうか。
別の夢を願いながら、眠りに落ちる。
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…
トイレから母の呻き声が聞こえる。
あの夢だ。
姉が泣きながらドアを叩いていた。
祖母が亡くなり、母にも感染した事を
僕は理解した。
「…開けたらダメよ。私で終わりにしよう。
近寄っては駄目。」
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扉の下、木製の床が赤く染まっていく。
やけに黒い赤色だ。そんな気がしたのは
床の経年の為だろうか。
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何故、継続するのか。
何故…何故…。
次は自分が感染するかも知れない。
この、嫌に生々しい空気は本当に夢の中か?
痛みを感じるのではないか。苦しいのか。
死にたくない…死にたくない…。
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恐怖に身を震わせながら、目を覚ます。
良かった…。自分の部屋だ。
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カーテンの隙間から窓を見上げる。
空が明るみ始めていた。工場の煙突からは
煙が立ち上っている。朝だ。
身体がベタつく。大量の汗をかいていた。
昨日風呂に入らなかったことを後悔する。
朝、シャワーを浴びて早めに学校にいこう。
ふと、壁に目をやる。
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容姿端麗な外国の女性歌手のポスター。
…昨日と表情が違う?
そう呟きながら、足早に階段を降りた。
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夏の寝苦しい夜の話でした。
作者退会会員
実話とフィクションを織り混ぜて。