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ある夜、ぼくとTさんで、とある廃墟に訪れた。
それは、ぼくがある奇妙な出来事に遭遇したことから始まった。
それはごく普通に睡眠をとっていた。その夢の中で誰かの産声と呼んでいるような気がした。夢はそこで終わったがどうも気になって仕方がない。
そんなときだった、Tが廃墟へ行こうと誘ってくれた。
なんでも、Tは先輩から今度行く廃墟めぐりの取材を前もって行ってほしいという内容だったらしく、Tいわく嫌だったが断るにも、飲み会代やバイト先で先輩にいろいろと助けてもらった恩もあり断れなかったらしい。
結果的に、奇妙な夢を見た僕とTとでその廃墟に行くことになった。
「うわ~なんか不気味ですね」
到着した廃墟は2メートルほどのフェンスに囲まれ、その奥に3階建ての建物が見えた。2階の部分までは四角っぽく、3階の部分には円を描く世にまるかった。フェンスには棘が何重にも折り重なるようにしていた。
時刻は17時を回っていた。まだ、日は明るく夜といった暗さや星・月のような明るさの者はまだ見えていなかった。
その時間帯に到着したのも訳がある。
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この廃墟には地元からでもヤクザの取引に行われているという噂が後を絶たないからだ。
「……行こうか」
「はい!」
Tの後を追うように僕らはその廃墟に進む。その途中で、ぼくは何か奇妙なことに気づいた。
このフェンスの作り、形、どこかで見たような気がした。
「……外から見ようか」
Tがなにやら表情が青い。何かを感じたようで、中身を確認するのはEさんと来た時に確認することにした。ぼくも、なんだか中の様子を見るなり嫌な感覚がして前に進めなかったこともあった。
廃墟の玄関の中に入り、ホームで立ち止ってしまった僕らは、仕方がなく外から1周して終わることにした。
外から見た様子だと、どうやら、ここはいくつかの店舗が一つになって造られたような形状だった。外見からはフェンスが邪魔でよく見えなかったこともあり、普通の廃墟だと思ってしまう。
しかし、裏へ進むたびにこの廃墟はいくつかの店舗を1・2階に分けていたことが分かった。
すべてがつぶれており、どこも営業はしていなかった。
「不気味ですね、なんでTさんは、ここを選んだんですか?」
さりげなく僕はTに尋ねた。
「いや、なんか呼ばれたような気がしてならんかったわ」
と、返した。なにかに呼ばわれた? それは、もしかして僕と同じなのか? その疑問を思い浮かべたとき突然と、何かに襲われた。
「な…なんや!!」
Tが突然驚いた様子で僕を押して、来た道とは別の逆の方向へ走って行った。
ぼくは後ろに何かいるかと思い、背後を見たがなにもいなかった。
前を向き直すと、Tさんの背後になにか黒い靄のようなものが足元に覆っているのが見えた。
嫌な予感がした。
ぼくは、Tさんに呼びかけるかのように後を追いかけた。
入り口付近に戻ってくると、Tの姿がない。ぼくはTを呼んだ。
「Tさん。どこですか」
そう呼んでいると、上空からTさんの「なんや」と、言う声が聞こえた。
そこには、3階に通じる梯子を上っているTさんの姿があった。なぜ、そこに上っているのか不思議だったが、Tさんの足元を見て、驚愕した。
足元に黒いなにかがつかんでいた。それはTさんの足元をつかみ、“こちら”側に引きずり込もうとしているのにも見えた。ぼくは、先ほどよりも大きな声で叫んだ。
「Tさん! 大丈夫ですか!?」
もちろん、返ってきた言葉は「大丈夫やないなろ」と、だった。当たり前だ。
見えない人からしたら、なに遊んでいるんだと思われる光景だ。けど、見える本人からしたら一大事で恐怖の状態に陥るかもしれない光景だ。
ぼくは、その影に怯えていた。けれど、このままだとTがどうなるのかもわからない。ぼくは意を決してTさんが昇っている梯まで近づいたそのとき、「 」と、誰かに耳元で支えられた後、地面に倒れこんだ。
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暗い闇の中、だれかの姿を見ていた。
廃墟となった喫茶店に一人の女性がため息をしていた。背景はまるで白黒写真やTVを見ているようだった。
女性は誰かを待っていたようだ。年齢は10代で服装からして学生服の上にコートを羽織っていた。
「 」
何を言っているのかわからないが、女性は悲しそうに机を見つめ、コートの懐にあった煙草を取り出すとライターで火をつけた。女性は一服する。
「 」
再び、何かをつぶやいていた。
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キ~と、車の急ブレーキ音が喫茶店の外で鳴り響いた。
女性はその音を聞くと同時に、腰を上げてその音に向かって走り出した。
「 」
女性はしばらくの間、戻ってこなかった。
数分したあと、女性がおびえた様子で喫茶店の奥にある扉の中へ走り去っていった。
そのあとを追うように、スーツ姿の男性数名が女性の後を追いかけていく。
「 」
絹を裂くような音がする。けれど、その音は女性の叫び声だと思った。
しばらくして、女性は変わり果てた状態でスーツの男たちに連れていかれていった。
その女性の姿はまさに、ぼくたちが出会った黒い靄の姿と似ていた。
「 」
女性は最後に、何かをつぶやいていた。唇を呼んでいくと女性は最後にこう残していた。
「ゆ・る・さ・な・い」
女性はそのままどこかへ連れていかれたのかと思いきや、喫茶店の床穴を掘りだす数人のスーツの男たちが見えた。だが、そのあとの光景は砂嵐のように消え失せた。
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再び誰かの呼ぶ声がした。その声はTだった。
僕はゆっくりと目を開くと、Tはぼくに心配そうな目つきで僕を抱きかかえていた。
そのまま車の中へ押し込まれると、その廃墟を後にした。
後で、見たことをTと僕はEに報告した。
すると、あの廃墟はいつからそこにあるかはEでもわからないが、あの廃墟で過去に起きた出来事に関しては話してくれた。
あの廃墟で一人の女性が殺されていたらしい。
僕が見たあの喫茶店の床下に埋められていたと、Eが話していた。
その女性の身元はよくわかっていないらしく、どこかの場所で家出していたところに誰かに誘われて連れていかれて殺されたのだと、話していた。
殺した相手はいまだにわかっていないらしく、その彼女はTいわく、いまだにそこで誰かを待っているようであると付け加えた。
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最後に、ぼくが聞き取れたのがある。それは女性にとって許しが得なく、悲願でもあった言葉なのかもしれないと思ったもの。
「ゆ・る・さ・な・い」
おそらく、誰かに誘われてその廃墟に残された。誘った人を待った。車の音からして誘った人が来てくれたのかと思い飛び出したが運悪くヤクザだったことを知り、逃げ惑うが捕まってしまったのだと僕なりの解釈をした。
あの女性は、今でも誘った人を待っているのかもしれない。
作者EXMXZ