姉の頭がとうとうイかれた。元より、そういう病気だったらしいのだけど。僕も両親から詳細は聞いていなかった。ただ、度々、おかしな行動をする。
僕の部屋のクローゼットの中に入っていたり、包丁を持ち出してずっと眺めていたり、意味不明な言語を叫んでみたり――度々なので、正常なときは正常なのだ。
でも、その度々が今の姉には正常になってしまった。
けど、いい。僕は姉が消えてくれればいいのである。僕の部屋のクローゼットの中に入っていたときなんか寒気がした。いつから入っていたんだ、と――そんなことを問い質しても姉は、矢張り意味不明なことを言う――というより叫ぶだけで、話にならないのだ。
前なんて僕の机に排便をした。全部綺麗にして貰ったけど、まだ異臭が残っている気がする。
そんな姉がとても厭だった。小さい頃なんかは僕の面倒を沢山、見てくれて、大好きだった。僕も満面の笑みでお姉ちゃん、と呼んでいた。今じゃ、姉なんて余所余所しい呼び方になってしまった。
ガチャリと扉の開く音。
瞬間、厭な予感がして、後ろが向けない。金縛りにあったみたいに。
どうするどうする。どうする。どうするどうする。
ギィ、クローゼットの開く音。どうする。
また。またか。また、姉は――。
「きゃあああ! お母さん! また入ってる」
姉はボクをミタ瞬間、怯えたかおをシタ。どうする。
「包丁持ってるよ! 包丁!」
またイミのワカラないコト言ってるよ。
――お前は今、病院にいるはずだろ?
ボクがキくと、
「何を言っ――がぎゅばら」
またイミのワカラナイ事を。
「こりゅらしたりあん!」
意味の解らない言語。どうする。
――こっちへ来るな。
姉はムシロ逃げているのだけど。
僕の手にはいつの間にか、包丁が握られていた。そうか。これで殺せということか。
このクズを。僕とお母さんとお父さんに迷惑をかけるバカ姉にトドメをさせということか。
「ぴゅあああああ! がすげ、がすげで。ばらさりゃる」
最後までお前はナオラナイんだな。
死ねよ。
シんで。
氏で償い。
僕にワビロ。
作者なりそこない