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ああ、今日も綺麗だ。
僕はいつしか毎日夜中に電車から降りてくる女性を眺めるのが日課になっていた。
彼女は毎日終電の一本前の電車に乗ってやってくる。
朝は混みすぎていて彼女を見つけられたことは一度もない。
こんなんじゃまるでストーカーじゃないか。
そう思っていても目の前の彼女が美しすぎて目が離せなくなってしまう。
せめて名前だけでも知りたいなあ…なんて思ってしまう。
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そんなことを考えながらぼーっと彼女を見つめていると、もう50代にもなろうかという冴えないおっさんが目の前に立ち、ペットボトルのお茶を買おうと僕にお金を渡す。
……くそっお前がそこにいると彼女が見えないじゃないか。
そう思ってはいるがもちろん口に出すことなんて出来ないし、むしろお客さんにはしっかり対応しなくてはならない。
「…ありがとうございましたー。」
おっさんはお茶だけ持ってさっさと改札へ向かい、
もう誰もいない駅のホームに僕の声が虚しく響く。
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……今日は1分くらいしか見れなかったじゃないか。
僕は人の居ない寂しいホームで一人そんなことを考えながらずっと立ち尽くしていた。
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それからも僕は毎日夜のホームに立っては彼女がこの駅に来るのを待った。
時には彼女が紅茶を買いに来てくれることもあった。
「ありがとうございましたー。」
自然と僕も上機嫌になり決まりきったセリフも心を込めて言うようになる。
……最近疲れてるみたいだけど大丈夫かなぁ
………今日も名前、聞けなかったなあ…。
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それからも毎日僕は駅のホームに立って彼女が来るのを待っていた。
…けれど彼女は日に日にやつれて、疲れた顔になって、彼女の美しさも少しずつ霞んでいってしまった。
僕には「大丈夫?」と声をかけることもできない。
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そんな疲れ果てた彼女が誰かに少しぶつかるだけで相手は彼女に向かって舌打ちをする。
ああ、もう……。
僕が彼女を励ましてあげられたら……
僕は何回も、何回も心の中で悔やみながら彼女の寂しそうな背中を見送った…。
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彼女、今日は大丈夫だろうか。
疲れていないだろうか。
何か悩みがあるんじゃないのか。
昼間から心配していた僕の思いを裏切るように現れた彼女はいつにも増して美しかった。
うわぁ…今日は一段と綺麗だ……
いいことでもあったのかな…。
すると彼女は僕に歩み寄ってきた。
僕はドキドキしながら彼女が求めている紅茶を出す。
「ありがとうございましたー。」
彼女は少し微笑みながらそれを受け取るとキョロキョロとあたりを見回し、誰もいない事がわかると僕に向かってその可愛らしい口を開いた。
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「…今までありがとう。今日でここの紅茶を飲むのも最後なんだ。」
なんだって。最後だなんて。
そんなの、寂しすぎるじゃないか。
何故?と聞く事もできない。
声が、出ない。
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「私ね、あなたが言ってくれるその『ありがとうございましたー。』っていうセリフに何回も励まされていたのよ。
あなたは知る由もないだろうけどね…。」
それを言うなら僕だって、君のその美貌に何度見惚れ何度励まされたか分からない。
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「私ね、死ぬ時は好きなものを飲んだり食べたりしてから今までで一番美しい姿で死ぬって決めていたの。
私の好きなものはあなたの紅茶だったわ。他所にはないんだもの。
あなたのところでしか手に入らないの。」
死ぬだって?そんなの僕が許さない。
君が死ぬなんて想像もできない。
死ぬつもりならどうか、その考えを捨ててほしい。
そう思ってもやはり声は出ない。
…駅のホームに響くアナウンスが最終電車が来る事を告げる。
待ってくれという声にならない叫びが僕の中をぐるぐると駆け巡って離れない。
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「さて、もう電車が来るわね。
本当に今までありがとう。
もう会えないとは思うけど、もしもどこかで会えるのならまたあなたの紅茶を飲みたいな。」
待って。どうか死なないで。
そんなホームの淵なんかに立たないで。
そう言おうとしても、声を出す事は出来ない。
僕には彼女を止める事は出来ない。
ホームの淵ギリギリに立つ彼女を見た。
電車の運転手が必死に鳴らした警笛も虚しく響き渡るだけ。
それでも彼女は皮肉にもいつもより一層増して美しく、堂々と立っている。
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shake
彼女は僕の目の前で線路の中に飛び込んでしまった。
僕が止められていたら。
僕が彼女の考えを変えられていたら。
僕がちゃんと声に出して「死ぬな」と言えていたら。
名前も知らぬ彼女は毎日終電の一本前の電車でここへ来ていたのだろうか。
僕が…僕が……………
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僕が。僕が人間だったなら。
僕がこんな駅のホームに立つ自動販売機なんかじゃなかったなら。
彼女はまた僕のいる駅に来てくれていたのだろうか。
作者山葵
初めまして。初投稿となります。
猫待山葵(ねこまちわさび)と申します。
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今回のお話いかがだったでしょうか。
読みにくく文章も下手くそでお前なんで
投稿したんだよ勇気あるな…と思う方が
大半だと思います。後なんか怖くないですね。これは私が生意気な小学生だったころに怖い話として考えていたストーリーでいつかはどこかに投稿したいと思っていました。
怖くなくなっちゃいましたね。
「最終電車の一本前」自販機の彼は自販機であるが故にいつもの彼女を救えなかった…
といった感じのお話ですね。
まぁ小学生が考えそうなクソみたいなストーリーで投稿するだけで申し訳ないです。
この話にはアナザーストーリーとその後の話があるので自分の成長のためにもまたいつか投稿させていただこうと思います。
迷惑でしょうけどね!(`;ω;´)
それではまたいつかお会いしましょう。