中編3
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間違い

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残業をこなし、ギリギリ間に合ったバスに駆け込む。偶々空いていた席に腰を下ろす。

あぁ今日も終わった。少しだけでも寝ようかな…。明日も早いし…。

「ホントに出たの?女の幽霊。」

「出た。女の。スカートだったし。」

すぐ後ろの席から会話が聞こえる。

「やだよそんなの。見たくないよ。」

「大丈夫だよ。俺の家行く途中に通りすぎるだけだし。」

カップルか。いいなぁ楽しそうで。

俺にも幸せ分けてくれねぇかなぁ。

「でも怖いよ。あの茶色いマンションでしょ?」

「そうそう、そこの1階。ベランダにいて道路には来ない。来たことない。」

明日は6時出勤だから4時半には起きないとな。3時間位は寝れるか…。

「今日は何かされるかもよ?」

「いや、あの感じは絶対住んでる奴を恨んでるよ。だから俺達の方には来ないと思うよ。」

「何でわかるの?」

「初めて見た時、怖くて動けなくてさ。10分位見続けたの。」

「うん。」

「ベランダの窓にベッタリ顔つけて、凄い顔でずっと中に向かって何か言ってんの。ボソボソって。」

こいつらはこの後男の家でよろしくやるんだろうなぁ。学生に戻りたいわぁ…。

「うわぁやだやだ…。そこの部屋の人に殺されちゃったとかかな…?」

「そうかも知れないね。痴情のもつれとか。男に浮気されたんだよきっと。」

うるせぇなぁ…。注意しとこうかな…でもめんどくさいのやだし…。

「悪い男だね。それじゃあ化けて出る訳だ。」

「俺とは大違いだよな。」

「次は○○一丁目~○○一丁目~。バスが止まってからお降り下さい。」

なんだよ着いちゃったよ…。

足取り遅くバスを降りる。

「着いたね~。コンビニで酒買っていこう。」

「私梅酒がいいな。」

あいつらもここで降りるのか…。家近いのかな。

コンビニで立ち読みした後晩飯を買って出る。

カップルの後をふらふらとついていくように歩く。

・・・あと少しで家だ。飯食わないで寝ちゃおうかな・・・。

「着いたね。ほら、いるよ。」

「うわ・・・。私にも見える。どうしよう・・・。」

立ち止まったカップルが、10m程離れたマンションのベランダを指差す。

水色のスカート。べランダの掃き出し窓に顔をつける女。確かにいる。

「これ絶対住んでる人殺されるよ・・・。」

静かに呟くカップルの横を抜け、マンションの玄関に向かう。

・・・殺されねえよ。殺される理由がねえよ。

鍵を開け部屋に入る。電気をつけずにベランダの方に視線を移す。

街灯が女のシルエットをカーテン越しに浮かび上がらせる。

ぼそぼそと呟く声が聞こえる。

・・・誰だよマサトシって。毎日毎日うるせえんだよ。寝取った男のほうに出ろよ。

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簡単に裏切りやがって。家間違えてんじゃねえよ。どうせマサトシに殺されたんだろ。いい気味だ。消えろよ。

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すっかり食欲もなくなり、スーツを脱いでベッドに倒れこむ。

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・・・明日も早いなぁ。寝なきゃなぁ・・・。

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