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短編2
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『赤子火鉢』

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喜一じいちゃんが学校から帰ると、店にうす汚い火鉢が置いてあった。(客が売りに置いて行ったのかな?)

マジマジ見ていると、「そいつは価値のある物なんださわんじゃねーぞ」。

おやじが奥から出て来た。

「えっ!?コレがぁ?」と眉をひそめると、

おやじは「イワク付きなんだよ」と得意げに言うと、喜一は慌てて火鉢から離れた。

イワク付きの物はウチは確かに多いが、いったい誰がそんな物を買うのかと聞くと、

「世の中、変わった物を欲しがる悪趣味金持ちがいっぺぇいるんだよ。そういった顧客は大事にしねぇとな…」と笑っていた。

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イワクと言うのは、こんな話だった。

早くに事故で夫や家族を亡くした老婆は、息子を異常に溺愛していた。

そんな家へ嫁が入り、嫁姑戦争が始まった。

息子も頭を抱えていたが、1年もすると姑が病で倒れ、また1年後には嫁の看病空しく亡くなってしまった。

悲しみに暮れた息子は、母を溺愛していたがため奇行走り、妻に3食毎日、母のお骨を盛ったのだ。

息子は、お骨を食べた人が妊娠するとお骨の主が宿る、との言い伝えを信じていた。

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何も知らない妻は、子に恵まれ喜び、元気な女の子を産んだ。

息子と嫁は大事に育てたが奇病に掛り、日に日に赤子は痩せて萎れていった。

嫁の看病空しく、赤子は1年でまるで小さな老婆の様な姿になった。

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ある日突然、赤子は「この女があたしを殺したんだよ」と声を上げた。

嫁は大声で叫び、人殺しと罵る我が子を火鉢へ突っ込んだ。

ところが、赤子は嫁の袖をしっかりと掴んで離さず、嫁にまで火が回って来たのだ。

嫁は助けてと叫んだが、嫁を信じれなかった夫は、家から走り去ってしまった。

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気がつけばすべてが燃えてしまった後、残ったのはこの火鉢だけだった…。

毋が大事にしていた火鉢なので、形見にと思ったのですが、

毎夜毎夜、火鉢からあの赤子がひょっこり顔を出すんです。

私の名を呼びながら…と男は言った。

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寺では無くウチへ持って来たのは、火事の後で少しでも金が要るのだろう。

足下を見ておやじは安値で買った。

「でもそんな呪われた火鉢なんか売って、客が呪われちゃったらどーすんだよ」と喜一が聞くと、

「俺だってプロだ。何か憑いてりゃ払って売るさ。客が死んじまったら食ってけねぇからな!

 それにこの火鉢は呪われてなんかいねーよ。見た所タダの火鉢だ。

 化けて出て来るなんて、男の後悔と罪悪感がで紡いだ幻だろうよ。呪われてるとすりゃぁ…」

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それから数日後の新聞に、『奇声を上げ火事の中へ男が飛込み死亡』という記事が載った…

おやじはパラパラと店の帳簿(売買いした客の名前、住所を記した物)を見るとニヤっと笑い、

「店番頼む」と言うと、新聞と火鉢を片手に、上等な下駄に履き替え出かけて行った。

きっと今日はごちそうだ。

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喜一が初めて複雑な気持ちを味わった話。

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