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短編2
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『夕暮れの壺』

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おやじは鑑定士の仕事もしていて、

依頼の品が大きな物の場合はお客の家まで出かけるため、喜一じいちゃんはその間店番をさせられた。

店番と言っても目利きが出来るわけでは無いので、売りに来たお客は明日にしてもらい、買いに来た客の相手だけ。

しかし、田舎の質屋に客なんてほとんど来ない…

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ところが珍しく客が大きな荷物でやって来た。

こりゃ売りか鑑定の客だ、と思い帰ってもらおうとすると、

ふろしきをドンっと置き、出て来たのは立派な朱い壷だった。

ボコボコしていて荒々しく、模様かと思えば木々の絵が黒い上薬で描かれていた。

おやじは居ないと言うと、太った客は語りだした。

客は趣味で骨董を集めている方で、

この壷は無名の作家の作品で価値のある物では無いのだけれど、

人によっては全財産を投げ打ってもいいと言い出す人がいれば、ゴミ同然と言う人もいるので、

どう言った物なのか詳しく知りたい。

もし良く無い物なら、どうすれば良いか聞きに来たそうだ。

フーンとまったく壷に興味の無い喜一は、話を聞きながら壷の模様を目で追っていた…

すると、壷から何かが聞こえて来た…。

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客はペラペラ語りだし止まらない。

「…それでね、私は後者側でこの壷の価値が解らないんだけど、前者の間で勝手に呼ばれている名前があってね…」

喜一が「ヒグラシ!?」と言うと、客はビックリしていた。

「そうなんだ。ヒグラシと呼ばれているんだ!何で判ったんだい?」

客に聞かれたが、喜一にはハッキリと聞こえた。

壷をジーっと見つめるとヒグラシの鳴声が聞こえ、まさに夏の夕暮れそのものだった。

「お客さんコレ駄目だよ!!良く無い物だ。人の魂を吸い取る壷だ。お払いしなくちゃいけない。

 危険だからうちで引き取るよ」

喜一は思わず嘘をついてしまった。

喜一もこの壷に魅せられてしまった。何としても手に入れたくなったのだった。

慌てた客は壷を置いて行ってくれた。

喜一は壷を眺めながらとても良い事をしたと思った。

あんな価値が解らない奴が持っているより、ウチにあった方がよっぽどいい。

それに、タダでこんないい物を手に入れられたんだから、おやじも喜ぶだろう…とほくそ笑んでいた。

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ところが、帰って来たおやじに喜んで壷の事を説明すると、大目玉を食らった。

「バカやろう。ウチは鑑定屋だぞ。信用が第一なんだ。

 そんな事して商品手に入れてたんじゃ、誰が買うってんだ!!

 物の価値を決めるのが商売。客の価値なんて誰がつけろって言った!!」

と怒鳴られ、結局壷は持ち主に帰されてしまった。

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じいちゃんは、もう一度ヒグラシに出会えたなら全財産投げ打ってもいい、と言っていたが、

戦争になって行方は分らなくなってしまったそうだ。

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