仕事が終わったある日の夕方
友人から電話がかかってきた。
その内容は暇なら家に泊まりに来ないかというものだった。その子は社会人になってすぐ彼氏を作り彼氏と同棲している子でなんだか泊まりに行くのは気が引けたが、今日は母も父も家にいない日で断る理由すらなく私は泊まりに行くことにした。
しかし家の場所を覚えていない事に気付き、友人に再度連絡をしたが何故か繋がらない。
仕方がないのでもう一人の友人…名前はBとしておく。
Bに連絡をして泊まりに行く子(Aとする)の家を聞くとBが
「私がつんでいくよ。帰りも迎えに行くから」
と言ってくれた。そして迎えに来てもらったBの車に乗りAの家に向かう。
Aの家は街の裏手にあり、そこは古びたアパートだった。
なんだか薄気味悪い場所で私の背筋は冷たくなった。するとBが私に小さな石がついたペンダントを渡してくれる。
「今日1日、肌身離さず持っていて」
「うん」
Bは真剣な顔をして私に伝える。だから私はうなづく。ペンダントに付いている石はパワーストーンらしく透明でとても綺麗だ。
Bはあまりこういうのに興味がないと思っていたのになぁとか思いながらAの部屋に向かう。
チャイムを押すと中からAが現れた。どうやら彼氏さんもいるようだ。
「同棲してるの?」
「うん」
「私、邪魔にならない?」
「ならないよ!それにCはバイトだから」
Aの彼氏さん(C)はどうやら夜間バイトをしているらしく暫くしたら出かけるようだ。
私とAと彼氏さん三人は他愛ない会話をする。
すると私の携帯にLINEが来た
Bが明日の朝、7時に迎えに来るというものだった。
えらく早く迎えに来るんだな〜〜
とか思いながらも私は了解と返信した。
そうして何事もなく夜は更け、私とAは寝る事にした。
Cさんはバイトに出かけ、私はAのベッドを使わせて貰うことになりベッドに入るとすぐに眠りについた。
しかしふと目が覚めた。
まだ夜らしく部屋は真っ暗だった。
そのままベッドで寝ているとペリペリという音がした。
目を開けて右を向くと、Aの部屋の壁紙が剥がれていた。壁紙の向こう側は空洞になっていてなんだか恐ろしく感じた。
すると背中側から声がする
「飲み込んじゃう?」
「そうだね。それが幸せだよね」
背筋が冷たくなり起きあがろうしたが体が動かなかった。
なにこれ…
そう思っていたら剥がれた壁紙の向こう側から手が伸びてきた。真っ黒な手が私に伸びてくる。
助けて!!
そう心の中で叫んだ瞬間、体が起き上がった。
息を整え辺りを見渡すと、そこはAの家ではなかった。
「え?」
小さく呟くと部屋の扉が開き入ってきたのはBだった。
「よかった。目が覚めたんだ」
「えっと…ここは…」
「ここは私の家だよ。あと少しで、君は夢に囚われたままになってたんだよ」
「夢に囚われたまま?」
意味がわからず、Bに尋ねるとBはうなづく。
「昨日、確かにAから君に連絡があったんだ。けどそこから君は夢に囚われた。いや、詳しく言えばあのアパートに囚われた」
「どういうこと??私は確かにAの家に行ったよ?Bがつんで行ってくれて…」
「そこが夢なんだ。昨日、君は私と居た。そう、私と居たんだ。私とご飯を食べて私の家に泊まりに来てた。けど私が目を離した隙に君はAからかかってきた電話に出た。そして私が戻ってきたら君は倒れてた」
そこまで言われて思い出した。
確かに私はBの家に泊まりに来ていた。そしてBが部屋から離れた時に電話がかかってきた。相手は遠縁になっていた友人のAで、久しぶりだなとか思い電話に出て意識がなくなり気がつくと仕事が終わった状態で街に立っていたのだ。
「思い出した?君は夢に囚われた。だから私は慌てて君にこれをつけた」
Bが出したのは夢の中でBからもらったパワーストーンだった。
「本当か嘘かわからないけど石には力があるからさ。とりあえずはなんとかなるかもと思ってつけたんだよ。そしたら戻ってこられたし、よかった」
「そうだったんだ。あ、で、質問なんだけど…なんで私は夢の中に囚われかけたの?」
「そうだね。全部話すよ」
Bはそう言って語り出した。全てを…
「私とAは幼馴染。私達は君が夢に見たアパートに暮らしてた。けど、何度か家に帰れない事があった」
「家に帰れない?」
「そう。たまに学校から帰るとアパートがその場所にないんだ。そして探して探してやっと見つけたりしてた。そんなことを繰り返しながら私達は中学生になった」
Bは顔を上げて私を見つめる。
「中学生になって君に出会った。そして君が誕生日にくれたパワーストーンのおかげで私はあのアパートの秘密を知った」
「アパートの秘密?」
「うん。君にパワーストーンを貰った日、アパートに戻るとアパートが無かった。何時ものように探して探して、けど見つからなくて、だから携帯でアパート名を探したら検索にも引っかからなかった。何故だと思ってアパートの場所までまた引き返した時、君から貰ったパワーストーンのストラップが壊れた。そしたら目の前にアパートが現れたんだ」
「え?」
「びっくりした。そして、調べた。すると、そのアパートは夢の世界と現実世界の狭間にあるという意味のわからない結果にたどり着いたのと、アパートが心霊スポットになっていたという事実に気づいた。たまにアパートが無くなるのは夢の世界にあるからで、パワーストーンには力があるみたいだから、その力のせいでアパートがみえなくなってたんだ。全てを知った私は高校になる前にアパートから出た。もちろんAにも言ったけどAは信じなかったんだ。けど高校でもAは元気そうだったから大丈夫なんだって思った」
だけど…とBは言葉をつなげる。
「高校卒業してAの家に…アパートに行ったんだ。そこで私は本当の真実を知った。あのアパートはAが全ての元凶だったんだ。Aは幼い頃、虐待されてた。それから逃げるために降霊術をしたんだ。その降霊術は失敗してアパート全体を呑み込んだ。それのせいでアパートは夢の世界と現実の世界を行き来する幽霊アパートになった」
「っ…」
「けどそれで終われば良かったんだ。ただ、行き来をするだけなら良かった。けどAは降霊術が成功したと思ってた。そしてAは嫌な事があるたびに降霊術をしてたみたい。自分には不思議な力があるなんて思い込んでね」
降霊術とかはわからないが、そういうものを素人がしたら危ないというのがわかる。
その降霊術を何度も使えばどうなるか…考えるだけでゾッとした。
「素人が降霊術をした。確かに成功はしたかもしれない。けどそんなの何度も続かない。けどあの子は何度も何度も降霊術をした。そしてあの子自身が怪異になってしまった」
「っ!?」
「人の精神だけを自分の世界に引きずり込むという怪異に…そしてアパートもあの子の怪異の力に共鳴して力は強くなっていつの間にかあのアパートの住人全てが別次元に引きずり込まれ現実世界からは消滅したって聞いた。私はあの子が降霊術にのめり込む前に逃げたから大丈夫だけど…」
「ならアパートもAも同じ力を持つ怪異なの?」
「そうなるね。Aが降霊術を繰り返してそれでアパートもAと同じ怪異になったって考えるのが得策だけど…君を呼んだのは友達が欲しかったからだとは思う。Aは君が大好きだったし」
「ならAの側にいた彼氏さんは…」
「多分Aに呑み込まれてしまったんだよ。ただAの側にいるということはAに呑み込まれたことは気づいてなくて夢の世界を現実世界と感違いしてるのかもね…」
そう言われて私はBの顔を見つめそして手を握りしめる。あまりにも怖いことを体験したのだと思い体が震えた。
「ねぇ、B…もしあのまま私も夢に囚われてたら…」
「肉体だけは生きてる状態だったし、多分夢の世界で暮らすことになっただろうね。戻って来られてよかった」
「助けてくれてありがとうね」
私はBにお礼をいう。
もしあのまま囚われてたら私はどうなっていただろう?精神だけの存在になってAといたのだろうか?または夢の世界にいたのだろうか…Aの彼氏さんのように…
私とBはそのまま抱き合う。生きているということを確認するために…
だから気づかなかった
ベッドに置いてあるスマホにメールが来ていることに…
後にそのメールをみた私とBは震え上がった。
差し出人
A
本文
あのままこっちに来たらよかったのに…邪魔しやがって…
ねぇ…こっちにおいでよ?Bなんか捨てて…
ね?Eちゃん…
そのメールを見て私たちは一度だけAの住むアパートに向かった。何故か行かないと行けない気がしたから…
しかしアパートがあった場所は空き地になっていた。
すると風が吹いた。風に乗って声がした。
早くこっちにおいでよ…早くこっちにおいでよ…
Eちゃん…
あははははははは!!早くこっちにおいでよ!
というAの声が風に乗って空き地に響き渡った。
END
作者ノア