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中編3
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『修理中のラジオ』

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家は昔質屋だったと言っても、じいちゃんが17歳の頃までだから、私は話でしか知らないのだけど、

結構面白い話を聞けた。

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修理が終われば購入を考えているのだろうか、

その客は毎日の様に店に現れ、『修理中』の紙が貼られたラジオをいつも眺めていた。

茶の間から店を覗くと、時折彼と目が合う。するとにこりと笑いかけてくれる、愛想の良い客だった。

そんな客とは正反対に、彼がお金にならない客と判断してか、

全く接客をしないで黙々と帳簿を付ける無愛想な親父をみて、喜一はあきれたのをよく覚えている。

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『修理中のラジオ』

「喜一、ちょっくら出てくる店頼むぞ」

親父は喜一の返事も聞かずにさっさと出かけて行き、喜一は否応無しに店へとかり出された。

大きなあくびをしながら店へと出ると、思わずあくびが止まる。『彼』がいたのだ。

喜一に気づき「やぁ…こんにちは」と、彼の方から挨拶してきた。痩せた優しそうなおじさんだ。

喜一も軽く挨拶をすると、彼はまた骨董を眺め出した。

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特別する事も話す事も無い喜一は、ボケっと人間観察をしていた。

すると喜一の視線に気づいたのか、彼の方から話しかけてきた。

「ここはいいね。いい骨董屋だ。品もキレイに監理されている」

そう言われると、骨董屋と言う職に誇りなんて持ってはいなかったが、悪い気はしない。

喜一は気恥ずかしくも礼を言うと、何だか彼と親しくなれた気がした。

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そんな彼が、いつからか「あれは何だろう…?」と店の外を指さす様になった。

「あれ?」

店の外は、ただの寂れた商店街通り。この時間は人も歩いていないのに、彼は何に反応したのだろう?

首をひねらすと彼は、

「いや、いいんだ。田舎町は初めてだからかな。すぐ何でも珍しがってしまうんだ」と言うだけだった。

喜一もその時は気にもしなかったが、

「また、あれが来ているね」

「あれはずっとあの形なのかな?」

「あれはどうして少しづつ近づくのだろう」などと、

彼の発言は、日に日に喜一の好奇心をふくらませて行った。

喜一が「どこどこ?」と店を飛び出すたびにアレは消えてしまうらしく、

喜一は一度も目にする事は出来なかった。

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彼を見る様になって1ヶ月ほど経とうとする頃、久々に店番をしていた喜一の前に彼が現れた。

所が様子が変だ。

番台にいる喜一の前に立ち、下を向いたまま動かない…

何事か?と思った喜一も、緊迫した空気に飲まれ動けずにいると、ゆっくり顔を上げた彼が、

「ねぇ…あれが見えるかい?」

喜一の顔をじっと見て、冷や汗をかき、必死な顔で言うのだ。いつもの様に外を指さすわけではなく。

その瞬間、喜一は急に恐ろしくなった。アレが解らないし見えない。

喜一は正直に頭を横に振ると、逃げるように去って行った。

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彼はその日を最後に、謎を残したまま現れなくなった。

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それから数日後。

はたきがけを手伝わされた喜一は、あのラジオの埃を取り払うと、ふと彼を思いだし店の外を眺めた。

外は何でもない商店街の風景…小さな子どもが縄跳びをしている……

「アレは何だったんだろう…」

独り言の様にぽつりと言うと、親父が帳簿に視線を落としたまま答えた。

「あぁ……迎えか?」

親父はアレを知っていた。

「迎え?何の?」

驚いた喜一を見て、今度は親父が驚いた顔をした。

「四十九日だよ。…おめぇ、あいつが人間に見えたのか?」

そう言うと親父はラジオの前に立ち、

「迎えが来て助かった。あのまま憑き物にでもなられたら、祓い代もバカにならんからな」と言うと、

ラジオに貼ってあった『修理中』の紙をビッと剥がし、クシャクシャと丸めて捨ててしまった。

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修理中のラジオの『修理』の意味と、客では無かった『彼』と、

四十九日かけて迎えに来る『アレ』の正体がようやくわかった喜一は、ふと思う。

「あのとき自分は、何に恐ろしくなったのだろう?」と。

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「あれ」の正体を絶対知りたくない。

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