父は第2次世界大戦で日本陸軍の将校をしていた。
そのせいか終戦後に多くの戦時品を隠し持ち
母の実家に持ち帰っていた。
その袋はいつか忘れられて蔵の奥に追いやられていた。
そして20年が過ぎた。
父や全ての人が戦時品の事など忘れていた。
そんなある日。
父の元上官と言う人が尋ねてきた。
はるばる広島から来たので
父は喜びできる限りのもてなしをした。
当時の話や今の話に混じり、戦時品の話が出て
父や母は、蔵の奥にしまってあることを
思い出したようだった。
上官はまたの再会を約束して引き上げていった。
父はその翌日から蔵の戦時品を捜す作業を行い始めた。
私にも父は「捜すのを手伝え」と命令して
二人で探し回った。
3時間蔵の中を片付けながら捜す作業を行い
要約大きな「大日本帝国」と書かれた
袋を見つけた。
父が持ち上げようとすると、ものすごく重く
二人掛りで外に持ち出した。
父は当時を振り返りその袋をこの家に一人で持ち帰った
事を思い出して私に話した。
当時より年老い体力がなくなってることの思いを私に告げた。
私はどのようなものが出てくるかワクワクして
父が袋を開けるのを見ていた。
袋を開けるとありとあらゆるものが出て来た。
真鍮製の水筒。サラ。フォークにスプーン。帽子。
ベルト。時計。短剣。寝袋。レーダー情報が載った書類。
およそ25点以上出てきた。
それをいつの間にか後ろに来ていた母も一緒に見ていた。
母も懐かしく色々触っていた。
父はおもむろに短剣を拾いサヤから抜いた。
すると短剣は塚の部分だけ外れて剣先は錆びてボロボロと
下にこぼれた。
それを見た父と母は大きな声で笑った。
袋を逆さにすると、油紙に包まれた25cmぐらいある
塊がでてきた。
父と母がその塊を見ると顔がけわしくなり始めた。
油紙を解くと中から拳銃が出てきた。
拳銃だけは
20年以上の歳月を経ったにもかかわらず、錆びひとつなく、
現役で使えることが判った。
母は「そんなもの捨てなさい」と父に言った。
父は拳銃を眺めて握ると顔の様子や目つきが変わった。
母はその顔を見ると「あなた何を考えているの?」と
言うと銃を取り上げようとした時。
「バ-ン」と言う乾いた音と共に母が倒れた。
私は母に駆け寄ると父が、今度は私に銃口を向けてきた。
shake
私は慌てて「お父さんお母さんをどうして撃った」と
大声で叫ぶと父は我に帰り「どうしたんだ」と
母に駆け寄った。
母は右腕を撃たれて出血がひどい状態だった。
私は「お父さんが撃ったのだよ」というと
父の右腕に握られていた銃を活き良いよく
払いのけた。
父は我に帰り「大丈夫か?ごめんな」と母に何度も
誤っていた。
私は母の腕を止血がわりに掴むと母を抱きかかえるように
母屋の方に連れて行った。
おばあさんを大声で呼び、血止めの処置をした。
父は呆然とその場から動こうとしなかった。
私の払いのけた銃は、父の後ろの方に落ちていた。
おばあさんは「文子」母の名前を呼ぶと、
「これから医者に行くが絶対お前の婿から撃たれた事はしゃべるな」
「しゃべれば婿は捕まる」と言うと私にも口止めをして、
主治医に駆けつけた。
おばあさんは院長先生を呼び出し
院長先生がでてきて右腕の股を消毒して貫通した腕の傷を
縫い合わせてくれた。
院長先生は「ご隠居。今度は拳銃さわぎですか?」と言うと
「拳銃は何処から持ってきました。」と質問した。
「この事が知れたら撃った本人はただでは済みませんよ」と言うと
神妙な顔で私や母やおばあさんを見据えた。
5分ほど沈黙の時間が流れて先生は
「ま、隠居が片付けるのでしたら黙ってますよ」
と言うとカルテに「包丁による刺し傷。」と書いて
「1週間通うように」という言葉だけを残して診察室を出て行った。
その後姿に向かい、おばあさんは手を合わせて頭を下げた。
母も同じように頭を下げた。
帰宅すると父は縁側で座り事の重大さを知ったのか
うなだれていた。
母は父に駆け寄り
「もう大丈夫。ごめんなさい。私が銃に触れなければ良かった。」と言うと
父に向かい頭を下げた。
父は「どうかしてたんだ。あの銃を握った途端、
何がなんだかわからない状態だった」と言うと
母の名前を呼び「ごめんなさい」と頭を下げた。
おばあさんは「婿殿。気の迷いは誰にでも在る。」と言うと
笑った。
私は銃の事を思い出し「あの銃は何処にやった」と
父に聞きました。
父は庭の奥を指差した。3時間ほど前の状態と同じように
銃は土の上に転げていた。
私が拾おうとするとおばあさんは
「手を着けちゃ行けない」
「今度はお前がたたられる」と言うと
おばあさんは自ら駆け寄り銃を見て拝み
その銃を拾うと私たち3人を置いて
どこかに行ってしまった。
夜遅く。
母や父は何時ものようにご飯の支度をして
おばあさんを待っていると、
「少し遠出したから、疲れた。」と
玄関先から声をかけた。
「歩くと腹が減る。さあご飯だ」と言うと
何事も無かったように食事をして寝た。
次の日。
袋のものを父と二人片付けていると
おばあさんが寄ってきて「婿殿、もうあの銃は忘れなさい。」
「あれは戦争の怨念が込められている。この短剣もこの水筒も
全てが悪いものだどこかに始末しなさい。
あの銃は私が冥土に持ってゆくからね」
と言うと笑いながらまた自分の部屋に戻っていった。
しかし、「父はどうして母を撃ち私まで撃とうとしたのか?」
戦争の悪魔が父に取り付いたのか?それは父さえも判らない。
今は私の思い出の中だけにあの銃は生きている。
作者退会会員