俺はパチンコが好きで負けても、勝っても「チンジャラ」を聞かないと
駄目なくらいのパチンコ依存症だ。
家に居るときも、パチンコの音が耳から離れない。
だから、仕事に着いても長続きしない。何時もあの音が付きまとう。
こんな俺でも心配してくれる両親が居て何時も気にかけてくれて
結婚をすればとお見合いも何回か行った。その成果ようやく結婚できた。
今は子供も2歳と言うことで、まじめに働くべく運送屋に就職した。
運送屋では、中距離トラックの運ちゃんをしてもう1年働き、ベテランの
仲間入りをして、一人で配送も任されていた。しかし、パチンコ屋の前を
通ると癖が出て、何時も1時間、2時間負けても勝っても、張り付いていた。
そんな暑い夏の日の事である。
俺は何時ものように、会社に帰る前に、2時間ほど時間を作りパチンコに打ち
生じて居た。時間を守る為に携帯を2時間にセットして,時間通り辞められる
ようにしていた。
その日は、大勝ちして2時間で5万ほど儲けて、ホクホクとパチンコ屋を後に
駐車場に置いて有るトラックに向かった。
これから会社に戻りその足で、儲けた金で久しぶりに子供におもちゃでも
かって帰ろうと考えて車のドアを開けると、駐車場のどこからか泣き声が聞こえる。最初は空耳だろうと思ったが泣き声が俺の耳から離れない。
「エーン、エーン、エーン」俺は事もあろうに自分の子供を思い出し
泣き声のする方を探し始めた。車は俺の周りに100台いやもっと停まっている。
泣き声を探すのは容易な事ではなかった。
泣き声のする方を片っ端から車のフロントやサイドのガラスを覗いた。
しかし、見つからなかった。
俺は、最後にはあきらめて、俺の勘違いと自分に言い聞かせて会社に戻り
子供のお土産を買い家に戻った。
2ヶ月が過ぎた。
今日は実家に嫁が子供と一緒に帰り、一人でまたパチンコ屋に向かった。
何時か儲けた事を思い出し、あのパチンコ屋に向かった.
あの子供の泣き声の事は、すっかり忘れていた。
今日は平日で、パチンコ屋も空いていた。しかし50台は車が停まっていた。
昼までパチンコをするとまた勝って来たので、昼の休憩の札を出して、1時間ほど
食事に出かけた。
外に出ると午前中とは打って変わって暑い日ざしが射していた。
車の中も30度以上になっていて、俺は窓を全開にすると少し乗るのを待った。
その時だ。またこないだの泣き声が俺の耳に刺さってきた。
「エーン、エーン、暑いよ母ちゃん」どこから聞こえてくるのかその声は
弱弱しく俺の耳に響いた。「大変だ、窓を閉めたまま車に子供を残しパチンコしてる。」そう思うと俺はパチンコ屋に駆け込んだ。
店員にその事を話すと、場内アナウンスが流れた。
「子供を車に残して来ているお客さん。子供が社内で泣いてますので早く出してあげて下さい。」2回ほど繰り返した。
その間、俺は各パチンコ、パチスロレーンを探したが、立ち上がる客は居なかった。
俺は子供が危ないと思うと外に飛び出し、大きな駐車場にバラバラに停めている
車を一台、一台探し始めた。
どの車も子供らしき人は乗っていなかった。
50台以上の車を全て確かめると、どの車にも子供の気配が無かった。
俺は汗をかいて、、パチンコ屋の玄関に戻ると、店長らしき人が話しかけてきた。
「お客さんですか?子供が車内に閉じ込められていると言ったのは。?」
俺は迷わず「そうです。」と答えた。
すると店長は、「一年ほど前にこの駐車場で、子供を車内に置いて遊戯に夢中になり、子供が熱中症で亡くなったのです。その霊が今日のような暑い日に現れて騒ぐのです。」と言うと店の中に引き上げていった。
俺は汗をたらたら流しながら呆然と立ち尽くしていた。ふしぎな事に自分の息子が
浮かんできた。自分の息子がいとおしくなった。
我に返ると俺はパチンコ玉を全て交換して、嫁の実家に向かい車を飛ばした。
家に着くとヨチヨチ歩いて俺の息子が車に寄って来た。
俺は車から落ちると子供を抱えて安どした。
それから、パチンコは行かなくなった。
作者退会会員