その日も残業で遅くなり食事をすませると、
PM11時を過ぎてました。
お負けに雨も降り出し帰宅はますます遅くなる一方だった。
私は晩飯と一緒に酒を飲んでしまい運転できる状態ではなく
タクシーを使い帰宅せざるを得なかった。
タクシー乗り場に向かうと11時を過ぎたのに、長い客列ができていた。
その列に並んだが私の番になるまでは、深夜になりそうな気配だった。
私はタクシーをあきらめその客列から外れ自分のアパートの方向に歩き始めた。
10分ぐらい歩いたが、傘も無い私の服は「びしょびしょ」に濡れて
重く肩にのしかかってきていた。
ちょうど左側にビルのひさしが1mほど出ており
そこですこし雨宿りをしていた。
5分ぐらいすると空席の印を点灯したタクシーが近づいて来た。
私は歩道に飛び出しタクシーに手を振り停止を呼びかけた。
タクシーは私に気がつき止まった。
私はほっとしてタクシーのドアが開くか開かない内に
ドアノブに手を掛けました。
そると「ドアはヌル」とした感触で一瞬手を引きましたが、
雨の泥か何かと思い背広に擦り、車の中に体を投げるように押し入り
ドアを閉めるとホットして、次の行動を忘れていた。
運転手はルームミラー越しに私を眺め、「どちらまで、」と暗い
弱弱しい声で聞いてきました。
私は家の場所を言うとルームミラー越しにうなずくのが見え
車は走り出しました。
私は背もたれにもたれると「ホット」して時計を眺めました。
時計はもう12時を回ってました。
10分ほど歩いたはずなのに1時間が過ぎてます。
雨の中もあり何時もより歩くのが遅かったのだと
自分に言い聞かせました。
私は酒と疲れとでタクシーに乗った安堵感から居眠りを始めました。
車のエアコンからは程よい温かな風が当たり、
居眠りはいつの間にか睡眠へと導かれました。
何分寝たのかわかりませんが車が止まる振動とブレーキ音で目が覚めました。
先ほどまで降っていた雨は上がり霧が、
タクシーの周りを包み込むように降りていました。
お金を払おうとすると弱弱しい声で運転手はつぶやきました。
「まだ降りないでください。ここはお客さんの降りるところではありません。今止まったのは前に誰か飛び出して来たからです。」
「ここで降りるともうお客さんは帰宅できなくなりますよ。」と言うと
また自動車のギャーを入れて走り出しました。
時計を見ると乗ったときの時間から10分ほどしかたっていません。
「帰宅できなくなる、」私は一瞬どういう事か考えました。
ここは町の真ん中です。
私のアパートは町に面していて回りは住宅地です。
私は運転手の言葉が気にかかり外がやけに気になり、
真っ暗な外の景色をしばらく眺めていました。
すると車と平行して何か光るものが近寄ってきました。
その光はヨーク見ると人魂のように見えました。
私は驚き運転手に呼びかけました。
「運転手さん人魂が近づいてきますよ見えますか?」
運転手はミラー越しに私を見るとうなずきました。
落ち着いた様子で「お客さんにも見えるのですか?」
「お客さん霊力があるのですね。」運転手はミラー越しに笑いかけました。
「もうじきお客さんの指定したところに着きますよ」
と言うと車のスピードを上げた。
人魂と言い周りの景色といい、この世のものではないような錯覚を覚えた。
それから5分ほど車を走らせて街灯も何もないところで車は止まりました。
低い声で「お客さんここがお客さんの指定した場所ですよ。」
というと、自動ドアを開けました。
そこは両側に一面ススキが茂る場所で、私の普段の町からは
かけ離れていました。
私は慌てて「この場所じゃない」と否定しましたが、
タクシーは降りるか降りないうちにドアを閉めて金も取らず走り去りました。
周りはススキだらけ取り残された私は途方にくれました。
とにかく場所がわからない。動くと深みにハマルと判断して
私は道の脇にしゃがみ込みました。
しばらくすると周りが明るくなり現在居る場所がはっきり見えました。
私の周りのススキは無くなり見慣れた町並みが目に映りました。
私がしゃがみ込んでいた場所はちょうどアパートの前の駐車場でした。
私が起き上がり家に入ろうとすると、新聞配達が朝刊を手渡してくれました。
私は部屋に入ると疲れもあり、シャワーを浴び眠りました。
もちろん会社は休日です。昼過ぎに起きて服を洗濯機に入れるときでした。
ズボンのすそにススキの枝が着いてました。
あれは夢ではない事を確信しました。
昼にそば屋に行きそば屋のテレビのニュースを見て、愕然としました。
昨日乗ったタクシーの運転手が死亡した事が報道されてました。
その時間帯はちょうど私がタクシーを拾った時間帯でした。
化学肥料を満載したトレーラーが急ブレーキで、横向きになり
そこに運悪くあのタクシーが突っ込んだという事でした。
「ドアのヌルヌルもそのときの肥料だったのか?」とおもいました。
あの暗い感じ、周りを飛んでた人魂、ススキの原、
すべてが「あの世に向かうタクシーだった」という事でしょうか?
でも私はまだ生きている。あの運転手が言ってた
「ここで降りたらお客さんはもう帰れなくなりますよ」
そう、「今思えばもし本当にタクシーの運転手が私が降りるのを止めなければ
本当に今の私は無かったのかも知れない。」
そう思うと、あの世に向かう途中でも、業務を忘れなかった運転手の
テレビに映っていた写真に回向しました。
作者退会会員
マリカさんとは比べ物になりませんが
2年前に書いた作品です。
間、不思議系ですね。