私は霊力が強い方ではないが
普通の人が見えないものが時々見える。
私の子供は2歳半からお化けが見えると
騒ぎ始めた。
毎日のようにアパートの階段の脇、天井、部屋の中
外の電柱の影、と言った具合に時々騒いでうるさいほどである。
わたしも騒ぐたび子供の指差す方向を見るが、見えないの常でだった。
娘が3歳になったころ、
今までより騒ぐ回数や夜中でも見る回数が増えた。
そんなある日。
私と子供と夕方アパートの前で遊んでいた。
すると突然子供が動きを止めて私にしがみ付いて来た。
私の太ももは子供がしがみついた手の力で痛いほどになった。
異常を知った私は周りを見渡した。
しかし何の異常もない。
太ももにしがみ付いている子供に聞きました。
「またお化けが見えるのか?」すると
「お化け」と小声でささやくと
しゃがみ込み動かなくなりました。
私は周りには何も無い事を確かめると、もう一度
子供に言い聞かせました。
「美咲お化けなどいない」と言うと子供は再び起き上がり
私の周りで遊び始めました。
5分ほど経ったでしょうか。私の前にヨレヨレの背広姿の
老人がいつの間にか立ってました。
私がお辞儀をすると近寄ってきて、
「佐々木さんの家はどちらでしょうか?」
私が答えようとすると、娘がまた騒ぎ出して悲鳴を上げました。
どうしてだか判らず私は娘の口を押さえて怒りました。
私は娘を抑えながら、平謝りして「其の家ならT字路を曲がった2軒目です」と
答えると、老人は帽子を取り頭を下げました。
そして「かわいい娘さんですね」と言うとポケットからあめを
2つほど取り出して娘に上げようとあめを握った手を娘に近寄らせると、
娘は活きよいよく老人の手を払いあめは道路にこぼれて落ちた。
私が「どうして投げた」と怒ると娘はその場で泣き出してしまった。
老人は「いいですよ。先を急ぐので」と言うと道を渡り
2軒目の家の前に立ち止まった。
私は老人が家に入るのを確かめると、先ほど老人の手から落ちた
あめを拾おうとしたとき
また娘が私の足にしがみ着き行く手を阻んだ。
娘の目を見ると、悲しげな目で見ていた。
私はもう一度娘を振りほどこうとした時
勢いよくバイクが角から飛び出してきて
拾おうとしたあめを踏みつけて立ち去っていった。
「私がもしあめを拾っていたら、あのバイクに跳ね飛ばされていただろう。」
そう思うと思わず娘を抱きしめた。
娘はうれしそうに、私の周りで笑い遊び始めた。
10分ほど経ったころ、角から2軒目の佐々木さんの
旦那さんが家から飛び出してきた。
「救急車を呼んでくれ」と叫ぶとまた家の中に入っていった。
私は携帯電話で消防署に電話をしながら、
佐々木さんの家に入っていった。
佐々木さんの奥さんが玄関先で倒れていて
それを旦那さんが抱きかかえていた。
私は「どうしたのですか?」と近寄ると
「急にかみさんが苦しみだし倒れた」と言うと泣き崩れてしまった。
私は「今救急車を呼びましたから」もうじき来ますよと励ましました。
その5分後奥さんは静かに息を引き取りました。
泣き崩れる旦那さんを見ていると、私の後ろには何時の間にか
人垣が出来てました。
その中に先ほどの老人が野次馬の肩越しに眺めていました。
顔は二ヤッと笑っていたように見えました。
救急隊員が来ると私の視界からあの老人は消えてました。
娘はかみさんに手を引かれ私を心配そうに眺めてました。
私が娘に近づくとまた私に抱きついてきました。
娘の顔は安堵した表情でした。
葬式の夜。
私は佐々木さんを慰めに行きました。
その折に老人の事を話しました。
すると佐々木さんは「そのような人は一度も見た事が無い。」と
言いました。「風が入り込んで、いきなりかみさんを
突き飛ばすようにかみさんがよろよろとよろめいた時に
胸の痛みでしゃがみ込んでそれっきり起き上がれなかった。」
と言った。
私と娘は確かに「老人がお宅の敷居をくぐって行った」と
言おうとしたが悲しみにあふれた佐々木さんの顔を見ると言葉を失った。
あの老人は誰だったのか?私と娘にしか見えなかったのか?
あの老人が去った後にバイクに引かれそうになった事、
佐々木さんの奥さんが死んだ事。
偶然だったのだろうか?
あの老人はもしかすると死神だったのか?
娘にあの老人の事を聞いても笑うだけだった.
作者退会会員
また娘の霊力についてです。
親ばかですね。