甲州街道は今は舗装され道路を行き来する車であふれてます。
その一角街道を外れて1kmほど行くと、身延山に続く旧道に当たります。
私の家はその旧道に面しており、車はほとんど来ないのでジョギングコースに
市が指定してました。
わたしも家に帰ると時々、身延山に向かいジョギングを楽しみました。
そんなある日、私は家を6時に出てジョギングを始めて
1時間ほど旧道の奥に足を運んだ時です。
朝だというのに私の周りには、生暖かい風が吹き始め
空には黒い雲がかかり始めました。
私がジョギングを始めてから
天候の変更がこんなに早いのは初めてです。
私は走る足を速めて、家路を急ぎました。
そして100mほど全力で走ったときです。
私の横を黒い影が横切りました。それが何かわからず、
私は足を止めて私の周りの状況を確認しました。
すると左に細い道があるのを見つけました。
何回もこのコースや道を行き来していて、気がつきませんでした。
私はその道が上に伸びていて、どこまで行くか気にかかりました。
まだ帰宅するには、雨も降り出す気配もないので
その道を登ってゆく時間は十分あると判断しました。
私はその道を登り始めました。
獣道のようですが、人が行き来したけいせきがあります。
私は細く山に続く道を登ってゆきました。
すると20mほどさきにお堂が見えてきました。
そのお堂に近づくにつれ耳鳴りと頭の痛みが起きました。
耳鳴りと頭痛の現因がわからないまま、
お堂に10mぐらいまで来たときです。
私の左足のアキレス腱のあたりが痛み出しました。
私は立ち止まり足を見ると10cmほど、
鋭い刃物で斬ったような傷が出来てました。
傷は浅く何かに擦ったような痕でした。
血は出てませんが妙に痛みがありました。
傷を気にしましたが目の前のお堂で休めば良いと思い、
気にも留めず進んだ時です。
同じ左足の傷の上にもうひとつ、
鋭利な刃物で切られたような傷が出来ました。
傷は深くものすごい痛みがありましたが血が出ません。
私は痛みをこらえて私の周りを見渡しました。
誰もいません。
時々風になびく雑草だけでした。
傷は前の傷の上10cmほどのところに、深さ1cmはあるような傷です。
どうして傷が出来たのかわからず、これ以上は持たないと思い
傷にタオルを巻いて帰宅しました。
母親に傷を見せると「すぐ外科に行きなさい」と言われ近くの
外科医院に行きました。
若先生が対応してくれることになり、
傷を見せるとすぐ手術の準備をするように
看護士に言うと私はタンカに寝かされ手術室に運ばれました。
傷は20針ほど縫う大きな傷でした。
みんなが驚いたのは痛みが少なく出血が少なかったことです。
傷は刀やナタのような刃物による傷であることがわかり
「どうして出来たのか」と聞かれましたが
私は答えることが出来ませんでした。
先生は冗談で「射合い切りの達人からでも切られたか?」と言ってました。
足の傷は2週間ほどで治りました。
そのことがあってからあの道やお堂の事を忘れてました。
そして傷の糸を抜くときです。
院長先生が来てカルテを見て
私にどこでこの傷がついたかしつこく聞かれました。
私が正直に答えると「あそこは以前にも近寄った人が傷を追った場所だ」
と告げられました。
その日の夜
私は寝つく事が出来ず1時ごろまで、ごろごろ、
寝返りを打って寝そびれてました。
電気を消せばと思い電気を消して小玉の電気に変へたとき、
部屋に異変を感じました。
部屋の中に誰か人の気配を感じました。
部屋は4畳半しかなく
その範囲は一目で目が行き届きました。
しかし目には映らない何かが
私を「ジー」と見てるように感じました。
気のせいだと思い電気を全て消そうとした時、
戸の右端に人が立ってるのがわかりました。
親父かと思いましたが背格好がぜんぜん違います。
私はその影の方をじっと目をこらして見てました。
すると影が私のすぐそばに来てささやきました。
「お前がもしあの場所に今度近づいたら今度は首を切り落とす。」とささやき
ギロっと私を見つめました。
私はその顔を見ると体が硬直して身動きひとつ出来なくなりました。
残バラ髪を後ろで結わえ、右ほほには5cmはある
大きな切り傷がついた顔でした。
目は据わり、首から下は無い様でボンやり揺れて映ってました。
私は震える手を合わせて、拝んでました。
その時代劇に出てくるような顔や容姿は1分ほどでしたが、
私には10分ほどの長い時間に感じられその間、私の顔の周りを
じろじろ眺めて、消えました。
その夜は、一睡も出来ないで朝を迎えました。
怖くて次の日も、その次の日も男の余韻が残るまま、
眠れない夜を送りました。
その事が父の耳に入り父が心配して
私の部屋にやってきました。
私がわけを話すと、父の顔が変わり
「あの場所には絶対近づいてはいけない」と言い出しました。
父はあの場所のことを、前から知っていたようです。
その男の霊は「父のところにも何度か現れていると父が話しました。」
そして父も同じように20年ほど前にあのお堂に近づき、
傷を追ってたことを私に告げました。
父の右足のアキレス腱の上15cmぐらいのところには
私と同じ手術跡が残ってました。
「以前傷を負った男は父だったのです。」これは偶然では絶対無いと
私や父はささやきました。
何か、過去に私たち親子それと先祖に恨みがあるものだと確信しました。
それからはあのお堂のところには、2度と近寄りませんでした。
作者退会会員
甲州街道の奥に出る武者に霊の話です。
私と父は武者にとんでもない目に合わせられました。