遠雷
雨の日にその出来事は始まった。
遠雷が鳴りバス停には,雨を避ける人で一杯だった。
雨は次第に近づいてくる。
わたしもその中の一人で、バス停の中に居た。
バスがバス停に来るごとに、待ち客が減っていった。
わたしの向かう場所のバスは意外と遅く、雨が押し寄せてきた。
雨脚は多くバス停の中まで雨が入ってきた。
わたしともう一人の女性だけが、このバス停に取り残される格好になった。
女性とわたしは時々目が合いわたしは会釈をした。
わたしは外の雨空を眺めながら、早くやむこととバスが来ることを
考えていた。
女性はわたしが見る限り、30代半ばの品のある風貌でした。
わたしはあまり見るのは失礼と思い見ないふりを装った。
そんな中で時間が過ぎた。わたしの家の近くに行くバスがようやく
停車した。時間を見ると定刻より40分ほど遅れていた。
怒ることも出来ず早々にバスに乗り込み、バスの空いた席に着いた。
バス停に居た女性もわたしの後に続き乗り込んできた。
女性はわたしの行き先と同じ方向らしい。
バスの席は10以上空いていたが、その女性はわたしの前の席に座った。
その席は、彼女の指定席のようにためらわず、まっすぐその席に着いた。
わたしは外の雨脚が気になり窓を眺めていた。
バスの工程は5つ先の街が終点である。
わたしの家はその5つ目の街にある。
わたしは仕事の疲れと待ち時間で疲れが出て、転寝を始めていた。
4つ目の街が近づくと,けたたましい携帯電話の音で目が覚めました。
電話はわたしの前の席の彼女でした。
電話に出ると、なにやら話し急いで降りる仕度をしはじめた。
彼女の顔を何気なく覗き込むと彼女の顔は悲しみにあふれていた。
街の停留所に着くと急いで降りてバスの前の歩道を渡り始めました。
半分まで来ると、わたしの視界から彼女が消えていた。
というか居なくなっていた。
バスはいつの間にか、雨脚を通り越してきたようで、
バスの後ろの方で、また遠雷の響きが聞こえていた。
それから1ヶ月、
また同じ時間、同じ遠雷が鳴る中バス停で
わたしは何時かと同じようにバスを待っていた。
するとまた、わたしの脇の1mほど後ろにあの時の女性が立っていた。
女性の姿は以前わたしが見た時と、変わらない姿だった。
また、以前のように女性に軽く会釈をすると彼女はニッコリ微笑んで、
挨拶してくれました。
そして彼女は、バスが来て遠雷の中、以前と同じようにバスに乗り同じ席に
腰を降ろす姿が目に入った。
わたしは後ろの方の座席に座り、本を出し読み始めた。
そして時間は過ぎ4つ目の停留所に差し掛かった時、また彼女の携帯が
けたたましく鳴り彼女が出ると以前のようにそわそわと降りる仕度を始めた。
わたしは何気なく本を読むのを辞め彼女が出てゆくのを見ていた。
彼女が運転手の脇を通る時、運転手が彼女に向かい
かぶっていた帽子を外し頭を深々と下げた。
わたしは、「あの女性バス会社の偉い人か運転手の知り合いだったのか?」と思った。
そしてまた目で追うと、バスの前の歩道を横切り視線から消えた。
わたしがいつも降りるバス停に差し掛かると、乗客は私一人になっていた。
終点の駅前に着くと、運転手にそれとなく聞いた。
「ひとつ手前で降りた女性知り合いですか?帽子を外して挨拶してたから」
というと、
運転手はお客さんにも、あの女性が見えるのですか?
と言った。
「見えるとは、どういうことか?」とたずねると、
運転手は、「お客さん、彼方も霊力が強いようですね。」というと
「あの女性幽霊ですよ。」
運転手は「わたしや霊力の強い人にあの女性の姿が見えるのです。
あの女性は5ヶ月前に、歩道を渡るときに対向車線から来たトラックにはねられて即死したのです。」
そして、「はねられた時刻の雷と雨の時期になるとあーして、同じ事を何回も繰り返してるのです。」
「よほどつらい電話が掛かり、この世に未練を残したのか?」
とつぶやくと、運転手は回向した。
わたしは何も言えず、ただ立ち尽くしていた。
遠くではまた、遠雷が鳴っていた。
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