ちょうちん
今振り返ると私も50を過ぎて、風情と言うものを考える年になりました。
今は懐中電気も明るいものが出てきてハロゲンやLED等に押しやられて
しまい、昔のフェライトの電気が懐かしく感じられます。
その昔私のおじいさんはちょうちんを集める趣味があり
自分でもオリジナルのちょうちんを作ってました。
おじいさんの部屋の中はいたるところ「ちょうちん」だらけでした。
おばあさんは、時々ちょうちん屋になればよかったのにと
ぼやくぐらいおじいさんはチョウチンが好きでした。
そのちょうちんの中でも、ボタン灯篭の中に出てくるちょうちんや、
四谷怪談に出てくるちょうちんが自慢の種でした。
どこで手に入れてきたのかおじさんは誰にも言いませんでした。
夜になるとひとりでちょうちんに火をともし
ぶら下げてユラユラ揺れる火の明かりを見て目を細めてました。
私もお祭りの日や夜出かける時に,ちょうちんをおじいさんが貸してくれました。
そんなおじいさんも88歳でこの世を去りました。
おじいさんの葬式が終わるとおばあさんはそのちょうちんの山に火をつけて
燃やそうと言い出しました。
しかし両親は反対して、大きな家だし部屋ひとつコレクションルームにしても大丈夫と言うことで、その部屋はおじいさんが居たときと同じ状態に
残されました。
2年何事もなく時がたち、
その部屋のことも余り話題に出なくなりました。
ちょうどお盆の前の日、8月11日でした。
親戚が泊まりに着ていて、その部屋に明かりがついてると騒ぎました。
あの部屋には誰もいないはずだと言うことになり
ちょうちんが山ほどおいてあるので「もし火が点いたら火事になる。」と言うと
まず父がちょうちん部屋に行き確かめました。
部屋の隅々やちょうちんが掛けてある軒まで見渡しましたが
火の気や明かりになるものはありませんでした。
所狭しと並ぶちょうちんだけ。
私も父の後に続き見てましたがその気配がありませんでした。
お盆を迎えました。
親戚や私のいとこが泊まりに来て、にぎやかな日が過ぎました。
盆もちゅうばん私は夜中にトイレに行きたくなり
起きて廊下を歩いてる時です。
昔の家ですので廊下は板の間で、歩くと時々ぎしぎしと音が立ちました。
以前この音を聞いて、おじいさんが良くあのちょうちん部屋から
ふすまを半部開けて顔を出し、「トイレの後、部屋に寄れ、いいもの見せるから」
と言っていた事を思い出しました。
廊下を歩いてゆくと、ちょうちん部屋のふすまが30cmほど開き
薄暗い中、おじいさんらしき影が現れました。
おじいさんらしき影は、以前のように手招きして私を呼んでます。
私はおびえました。部屋のそばに来るとその影はなくなり
私は部屋に入り電気を点けました。
ちょうちんの中に動かした形跡があるものがありました。
それはおじいさんの自慢の牡丹とうろうのちょうちんと四谷怪談のちょうちんでした。
私はよっぽど、このちょうちんが好きだったのだなーと思うと
おじいさんに返してやりたいと思うようになりました。
おじいさんの霊は私に何か頼みたい用事があるから、私の前に現れたのだ
私は思い直しました。
そして次の朝、私はおばあさんに昨日のことを話すと「おじいさんが死んだときに、全て焼いてれば、おじいさんも成仏できたのに」と言うと
おばあさんは、どこかに出かけて行きました。
そして、お盆が終わるまで、ちょうちん部屋では、明かりが見えたり
おじいさんの影がいたり、廊下を出て歩いたりしてるのを
誰かが見てました。
おばあさんは、「よっぽど好きだったんだねー」と言うと仏壇で拝んでました。
そして、お盆も終わりの日でした。
今日でお盆も終わり、もうおじいさんに会えなくなると思うと
私はチョウチン部屋に、夜の8時ごろ行きました。
どうしてかおじいさんに会いたくなったのです。
おじいさんは、薄暗い部屋の中、片隅でチョウチンの骨にのりを着けてました。
のりを着ける姿は、何かをいとおしむように、骨組み一本一本に、丁寧にのりを着けてます。
今までは何気なく見逃していたのですが、亡くなってから見る姿は、
それは切なく、悲しいものに見えました。
おじいさんに話しかけようとすると、おじいさんは消えました。
翌朝、おばあさんと二人、送り火を炊く事にしました。
父や母も一緒に送り火を見ることにないました。
4人が集まると、おばあさんは大事にしていた、おじいさんのちょうちんの中からボタン灯篭と四谷怪談のちょうちんを持ってきました。
おまけに桜の花が満開のちょうちんも持ってきました。
おばあさんは送り火を炊くとその三つのちょうちんを燃やしてゆきました。
父と母はそれを見ながら拝みました。
わたしもおじいさんに返したのだと思い拝みました。
おばあさんは最後に桜満開のちょうちんを燃やしました。
私は「どうしてそのちょうちんも燃やすのか?おじいさんが好きだったのか」とおばあさんに聞くと
「わたしの一番好きなちょうちんだよ。」というと
おばあさんは「わたしが冥土に行く時に迎えに来てもらう時に
このちょうちんで、おじいさんに迎えに来てもらう為だよ」
というと深々と頭を下げて拝みました。
それから、3年おばあさんも亡くなりました。
私はお盆になり、お盆の空を見るたびに
あの桜満開のちょうちんを下げた
おばあさんとおじいさんが
寄り添い歩く姿が目に浮かび涙があふれて来ます。
作者退会会員
泣ける怪談載せます。
これは、本当に私の家族にあった話です。
私の外国に来て、ちょうちんの事など忘れてましたが
チャイナタウンに行った時に、真っ赤なちょうちんが
至る所に飾られていた事を見て、
昔を思い出して書きました。