高校時代バイク通学は禁止されていたが
私はそれを破りよくバイクで通学していた。
バイクは原付だったが私の収入から
買えるのはこれがやっとだった。
一年親から小遣いやバイトで貯めた
お金を払い購入した。
もちろん親や学校、親戚には内緒である。
当時は原付にはヘルメットは
義務付けがなく,かぶらなくても走る事ができた。
内緒で買った原付は近所の
空き地の隅のぼろ小屋に置いた。
朝バスや電車に乗り遅れるとバイクで
学校の近くの友達の下宿の前に置いて
通学した。
そんな日が何日か続いたある日。
夜7時過ぎの最終に乗り遅れ
しぶしぶ友達の下宿に戻りバイクで帰宅した。
道のりは23km先に私の街があり、
そこまではバイパスと旧道が交互に入れ替わり
夜はバイパスから旧道に交わる箇所で
バイクの衝突事故や人身事故が起きていた。
そこは事故を予測していつも警察が見張りを
3箇所ぐらい配備してバイクや原付を通るたび
停めて職務質問をしていた。
そこを通るか、遠回りをして坂道の多い山道を
通り帰るしか方法は無かった。
私は人気の少ない山道を選び
山沿いを30kmで走っていった。
しかし私の町が近づいてくると長い上り坂を
越えなくていけない為、バイクの運転はかなり遅く
原付だとさらに遅い10kmでローか2速でしか登れないほど急だった。
坂道の周りはススキ野原で街灯は中間のカーブのところしかなかった。
「もうじき着く」と私は心に言い聞かせて
スロットを絞り、15kmから20kmに速度を上げた。
登りきり周りに住宅街の明かりが見えてきて
「ホッ」としたとき、
左道路の側溝の脇に黒く光る丸いものに原付のライトが当たり
その物が光った。
バイクを止めてバイクのハンドルを傾け明かりを向けると
黒く光るものの正体が見えた。
当時としては珍しい「フルフェイスのヘルメット」だった。
私は側溝をまたぎ、そのヘルメットを拾いバイクの
明かりの近くに照らして見た。
まだ新しいようなヘルメットで、頭のところに少しぶつかって
はげたような傷がついていたが「マジックで塗り消せば新しくなる」
と思い拾ってバイクの後ろに着けて
家の近くの物置に置くとその日は家に帰り終わった。
明くる朝。
朝早く物置小屋に行き、昨日のヘルメットを持ち出すと
部屋に戻り綺麗に磨き始めた。
私は「買うと高いだろうなー」と思うと余計楽しくなり
1時間ほど磨いた。
ヘルメットには名前も目印も無かった。
昨日見たように頭の上と正面にはぶつけたであろう
へ込み傷と引っかいたようなカキ傷があり、黒マジックを塗ると
見えなくなり遠くから見ると新品のように見えるようになった。
「儲けた。儲けた。」とその時はうれしかった。
うるさい親の目を盗み、ヘルメットを物置小屋に
持ち込みさっそうとかぶり、
バイクのミラーで自分を写して自己満足にしたった。
次の日からヘルメットをかぶり乗ってみたくなり
遅れても居ないのに、バイクで学校に向かった。
20分が過ぎTVのヒーロー気取りでスピードを上げた。
制限時速30kmのところを倍の60kmで通過した。
すると気のせいか「両耳やあご、それにこねかみが」痛くなってきた。
速度を落とし道脇に寄せて止めるとヘルメットを外して
痛くなった現因を確かめるため中を確認した。
痛みを与えるものは何も無かった。
バイクの止めた周りを見ると
いつの間にか昨日ヘルメットを拾った場所の近くに来ていた。
おかしい。
学校に向かうために一番近い道、「県道を走っていたはずなのに?」
そう思ったが、学校に遅刻してしまうと思うのが先で
ヘルメットをバイクの後ろのカバンの上にくくりつけた。
そして元の県道に戻り学校に向かった。
それから5日間ヘルメットを荷台に着けたまま
バイクに乗るのを辞めて学校に通った。
土曜日。
明日は休みもあって、同級生のバイク仲間と一緒にバイクを乗る事にした。
朝起きるとバイクを磨き、親の目を盗みバイクで出かけた。
場所は近くの大きな公園でした。
公園に着くとお互いのバイクを自慢した。
その時初めて拾ったヘルメットを仲間に見せた。
仲間はフルフェイスのヘルメットなど、見たことも無く
まるで、TVで見るSF小説のように見えて私を讃えた。
私は得意になり、かぶりバイクにまたがり乗って見せた。
その時。
目の前が真っ暗になりバイクと一緒に倒れた。
友達が駆け寄り起こされて気を取り戻したが
ヘルメットを外そうとしたが
まるで中のラバーが顔に張り付いたようになり
外す事ができなくなっていた。
仲間の一人がヘルメットから覗く私の目を見て
「○○の目じゃ無い」と言い出しました。
私は驚き強引にヘルメットを外した。
すると仲間は
「そのヘルメットどこから買った」と言い出しました。
私は「拾った」とは言えないので
「街のバイク屋から安く譲ってもらった」と嘘を言いました。
友達の一人が「何かいやなものを感じる」と言うと
「早く返して別のものに交換した方が良いよ」と忠告してきた。
そうこうしてる間に時間が経ち、帰ることになった。
私はまたヘルメットをかぶり、バイクにまたがると
運転して帰宅した。
帰宅途中。
ひとりでにスピードが出したくなり
私は直線道路で制限時速の30kmを50kmオーバーする
スピードを出してました。
しかし私にはそのスピードを出している意識が無く、
気が着くと元の15kmから20kmになってました。
しかしその直線の道路にはTVカメラと自動測定器が備えてあった。
私は自宅に帰ると何食わぬ顔で親やおばあさんに接してました。
10日が過ぎたころ。
警察より出頭命令が私と親宛にはがきが届いた。
親も誰もが私がバイクを乗ってることは知りません。
父は「警察に電話して、内のやつはそんなことはしてない」と
かばってくれました。
しかしばれるのは時間の問題でした。
警察は免許を調べ、バイクの写真、運転する私の姿、
バイクのナンバープレートを親に見せました。
もう逃れる事が出来ません。
私は警察や親の前で手を突き嘘と免許を持ってることや
今までのことを正直に話しました。
父は下を向き何も言いませでした。
母は泣いて誤ってました。
警察に連行され事情聴取をされ、罰金を払い免許停止処分になりました。
しかし、警察は別の写真も撮ってました。
私の正面から運転している姿です。
事情聴取の時にその参考写真も見せられ、私は驚きました。
ヘルメットから覗いてる目や私の姿はまるで別人のような姿で
以前仲間が言っていた言葉を思い起こさせました。
おまけにTシャツにGパンではなく革ジャンに革のズボンを履いてました。
この写真には「私じゃないと」と反論しましたが
警察は「写真の角度を変えただけで、間違いなくお前だ」と主張しました。
それからバイクは親により取り上げられ、免許所持が警察より学校に通報され
私は「15日の停学処分」を言い渡されました。
私は部屋に引きこもり勉強するとき意外は部屋から出ないようにして居ました。
私の部屋にはあの忌まわしいヘルメットが残されました。
もうヘルメットを見る気も置きません。
しかし10日目の夜。
夜中に「返してくれ。返してくれ。」と言う声が部屋の中に響きました。
私は何を返すのか判らず夢でも見てるのかと無視していました。
次の日の夜中。
またあの声がしてあまりうるさいので起き上がると
部屋の声のするほうに近づくと
うずくまる人の影のような真っ黒な塊が見えました。
わたしは驚きのあまり布団を蹴飛ばして足をじたばたさせてました。
その間に、影は起き上がり私に向かい近づいてきました。
おびえる私に向かい、本棚の上に飾ってあるヘルメットを指差し
「返せ。返せ。」と言うと私の側に来て消えました。
恐怖で一睡も出来ないまま朝を向かえた
私はおばあさんや親にその事を話しました。
おばあさんは「かぶり物を持って私の部屋に着なさい」と
言いつけると茶の間を後にしました。
部屋にあるヘルメットをおばあさんの部屋に行き見せると
おばあさんはヘルメットを見るなり
「このカブリ物には何人もの怨念がやどっている。
早く捨てるか仏様に頼み成仏させるしかない。」と言うと
「今からお寺に持って行き、お寺に収めよう」と
言うか言わないうちに立ち上がり
私を連れてお寺に出向き和尚様に拝んでもらい
ヘルメットは奉納しました。
あの黒い影は、この日を境に私の目の前には
現れなくなりました。
私もバイクを売りもとのまじめな高校生に
戻りました。
作者退会会員