今は携帯の普及がいちじるしく進み
日本では公衆電話は絶滅に近い。
しかしタイでは、まだ地方に行くと
公衆電話は存在して、使う住民も多い。
私はある日。
都会を外れタイ郊外の
カンチャナブリンと言う、戦場にかける橋の舞台
になったところに出かけた。
そこは、橋と鉄道が有名で後は回りに
タイには珍しい滝が点在するところでも
有名でした。
その鉄道に乗り往復した時の話です。
その日は曇っていて、前の日は大雨が降り
鉄橋の下の川は増水して水の勢いが強かった。
私と彼女はその鉄道の往復を楽しんでいた。
滝も増水して近づく事ができなかったが
二人で居られる時間が楽しく問題では無かった。
帰宅の駅に到着した時である。
先ほどまで曇っていた空から大粒の雨が降り出した。
駅の待合所はその雨を避けるために電車に乗らない
客までが押しかけて、足の踏み場も無いほど
ごった返していた。
その人ごみを避けるために私たち二人は
駅の向かいの屋台の軒に足を運んだ。
しかし、そこも例外では無かった。
雨は二人に降り注いだ。
私は濡れないようにと思い彼女をかばい
周りを見渡すと、ポツンとひとつ公衆電話のボックスが
目に入った。
「あそこなら、この雨を避けられる」そう思うと
彼女に「あのボックスまで走るぞ」と言うと
二人して一目散に走った。
そしてボックスに入ると狭いが雨や風は入ってこなかった。
二人は雨露をタオルで拭きあった。
30分ぐらい経っただろうか、一向に雨脚が収まらない
私は少し狭いボックスの中、イライラし始めた。
彼女は真っ黒な空を遠目に眺めていた。
40分が過ぎただろうか?
私は外に出て車を公衆電話の近くまで持ってくる
事を提案した。しかし彼女は「もう少しで止むから
居よう」と言われ思いとどまった。
電話ボックスの中は、外の温度と遮断され、
だんだん周りのガラスが曇ってきた。
そして、周りは黒雲の影響で暗くなってきた。
とうとう周りが見えなくなってしまった。
ガラスには相変わらず雨の雫が無数に当たり
雨が激しくなってきているそう思った矢先
落雷が近くに落ちた。
それとほぼ同時に
電話がけたたましく鳴った。
私と彼女は驚き、電話を見据えた。
私は鳴り止まぬ受話器を取った。
すると受話器から「ククククク」と言う
笑い声が彼女の耳にも聞こえるほど
大きな声で聞こえてきた。
「何だこの笑い声は?」と思い彼女を見ると
彼女は、震える指で曇りガラスをの隙間を指差した。
私は指差す方を見ると、大雨の中下から目が2つ覗いていた。
顔は無く明らかに目だけが私たちを覗いている。
私は彼女の耳元で「早く逃げようと」とつぶやいた。
彼女は金縛りになっているのか、首ではなく腕を上下に動かし
合図した。
電話ボックスのドアを足と手で同時に開けると
彼女の手を引き雨の中車の置いてある駐車場に
一目散に駆け出した。
振り返ると私たちが抜けたので、軽くなり
電話ボックスは雨の勢いで
横方向にずれ始めていた。
ビショビショの状態で車の中に入ると、
先ほど居たボックスが流されてゆくのがわかった。
左右に下のダイが動き、電話コードが切れると
出店の脇の川に流されて行った
私と彼女が脱出しなければ、川に流され死んでいたかもしれない。
しかし「ククク」と笑い覗いた目は何だったのか?
私たちを助ける為に覗いてどく様に危険を知らせたのか?
それともおびえたまま、河に落ちる事を願っていたのか?
それは誰にもわからない
作者退会会員