お婆さんは良く願いがかなうとお礼参りをお寺や山の中の滝不動に
行っていた。その時は風呂敷に荷物(お供え)を山のように入れて参拝した。
私もよくお婆さんの後について出かけていた。私は荷物が重いので
時々、タクシーで行ったら楽になると思いお婆さんに言うと怒って
「楽をするのは簡単じゃ。重い荷物を汗をかき一歩、
一歩神様に運びお供えするのが神様にとっても、
すばらしいことなのじゃ。判るか進」そう言うと
汗を流し10kmから20kmを歩き運んだ。
私も言われる通りに一緒に歩いた。
そんなある日。お婆さんが「疲れた」というので荷物を
かわりに私が背負おうとした時だ。
道路の端に居た私たちの脇ギリギリに黒い外車が通った。
ものすごいスピードで通った為、私とおばあさんはあおられて、しりもちをついた。
お婆さんは遠ざかる車を見て「あの車、ただの車じゃない。牛頭(ゴズ)様が乗っておる。
何処に向かったのか、危ない、危ない。」そう言うと車の向かった方向に向かい
回向した。
私はすかさず聞いた。「お婆さん、ゴズ様ってなあーに。」そう言うと
「ゴズ様は偉い神様なのじゃ」そう言うとお寺に向かい歩き始めた。
お婆さんとお寺の前に来た時、私はもう一度聞いた。
「ゴズ様ってなあに。」するとお婆さんは「いいかい進。ゴズ様というのは、
悪の神様で何でも悪い事をする。守護に着くと怖い神様だよ。
しかし称え、祀り崇めると本当によい神様になるんだ。」
そう言うと笑いながらお寺に入って行った。
和尚様が境内の途中からお婆さんの荷物を抱え迎えてくれた。
和尚様に先ほどのゴズ様の話をすると怖い顔になりお婆さんに聞いた。
お婆さんは先ほど通り過ぎた、黒い外車の事を話すと
和尚様はホッとした顔になった。
和尚様は「ゴズと子供の口から聞いてびっくりしてしまいました。しかし街に向かったのなら、
街で悪さをしないと良いが。」そう言うと不安そうな顔で、街の方角を見ていた。
和尚様と本堂で拝んだ後、家に向かった。
家に着くと何か異様な奮息と人盛りが家の料理屋の玄関を取り囲んでいた。
お父さんの声がした。「申し訳ありません。魚の骨が在ったのは認めます。しかし
骨を取り除けば済む事です。どうして怒鳴り込んでくるのか判りません。」
そう言うと父は人盛りの中で一人頭を下げた。すると怒鳴った男は
「親分の喉に骨が刺さったんだよ。どう落とし前を着けるんだ。」
そう言うと店の中のテーブルをひっくり返した。皿や料理が店先まで散らばった。
お婆さんは人ごみを掻き分けると叫んだ。「警察じゃ。警察じゃ。警察じゃ」
すると、その声を聞いた男は「この落とし前は付けて貰うから」と捨て台詞を残して立ち去った。
お婆さんは「気持ちの小さな奴じゃのう。あれじゃ親分になれん」 そう言うと
人ごみの方を見て大声で笑った。野次馬はすごすごと消えていった。
お父さんは「お婆さん助かりました。店の中はこの有様です。私にもう少し力があれば」そう言うと下を向いた。お婆さんはすかさず「聡さん良く我慢したね。あんたが、強いのは、私は知っている。店を守る為に。ありがとう」 そう言うと父の手を握った。お婆さんは居直ると「文、文子何処行ってるんだ。店の中を片付けなさい。」
そう言うと奥に引き上げていった.
お婆さんは夕ご飯の席で、みんなが揃うと話し始めた。
「文子お前、どうして婿殿について一緒に戦わないんだ。一人より二人だよ。
お前は小さい時から危ない物には近づかないと言う性格だった。これを期に改めなさい。」そう言うと母を睨み付けた。
母は「性格ってこの歳になると変える事できるのかしら?」そういった。
お婆さんは「お前は何時になっても判らん娘じゃ。」そう言うと深いため息を点いた。
夜来る朝。
店を何時ものように開くと温泉街のあちこちに、異様なフン意気が立ち込めていた。
やくざの宴会らしく温泉街のいたるところで、やくざ風の若い主がたむろしていた。
すると、内で仕出しを出している大手の旅館でやくざの集会が開かれていると
内にも連絡があった。内ではその旅館の他にも3軒ばかり仕出しを出している
旅館があり、そこにもやくざが泊まっているらしいことを連絡してきた。
親たちは小学校に行くのに心配して居た。父が付き添い他の子も一緒に登校した。
出掛けにお婆さんは「進。やくざなんて少しも怖くないよ。同じ人間だからね。
お前と私が今まで遭ってきた事の方がよっぽど怖い」そう言うとしわだらけの顔で笑って送り出してくれた。
夕方、学校から帰ると昨日のチンピラが来ていた。
今度はおばあさんが相手をしていた。
「ばばあ、昨日は邪魔が入ったが、今日は昨日の事も含めて落としまいをつけてもらうからな?親分は昨日の夜、病院で魚の骨を抜いてもらった。その金の含めて
払ってもらおうか?」そう言うとお婆さんや母、私まで睨み付けた。
お婆さんはチンピラに向かい話した。
「お前、何処の組の者ダイ。お前の親分とんでもない子供だね。魚の骨で医者行ったって。笑いものだよ、子供だって親から魚の骨ぐらいとってもう。大体魚に骨が無かったら魚じゃない。気をつけて食べるのが常識じゃ。わははと大声で笑った。」
やくざは「何だとーこの糞婆。」そう言うとお婆さん胸倉を掴んだその時、
父が飛び出し、やくざの手をとり捻じ曲げて、外に引きずり出すと一気に投げ飛ばした。やくざは1mほど先に飛び腰をぶつと起き上がり、「覚えてやがれ」と捨てセリフを残すと大きな旅館の方に走り去って行った。
お婆さんは「ありがとう、聡さんあんたヤッパリ強かったんだね。」そう言うとにこやかに微笑んだ。
私は父の腕につかまると「お父さん本当に強いね。」と言うと「進。父さん
生まれて初めて人を投げ飛ばしたんだよ。柔道は高校で習ったきりだ。怖かった。」
と言うと私に手のひらを見せた。指の先まで震えていた。
父は旅館の方に戻る道を見ると「これから仕返しがあるかもしれない。」そう言うと家に引いていった。
夜来る朝。
やくざの宴会が終わり無事帰るのかと思っていた。
家の庭先に真っ黒な外車が止まった。その中からスーツ姿の太った男が現れた。
店先で構えると大声で言った。「昨日の子分の落とし前に来た、出さらせー」
そう言うと5人ぐらい次々と子分が親分を取り巻いた。
父がまず、玄関に出向くと親分が「お前か、若い主を投げ飛ばしたのは?」
そう言うと一歩前に出た。父は小さな声で「そうだ。投げ飛ばした。」と答えた。
親分は「わははははは、良い度胸だ。かたぎにして置くのはもったいない。」そう言うと父の脇を抜けて、店の中に入って行った。すかさず、父の周りには5人ほど手下が取り巻いた。しかし、親分が手を上げると取り囲んでいた輪を引いた。
今度は私が親分の前に立ちはだかった。下を見た親分は「元気のいい坊主だな」と
私の頭に手を置いた。私は置かれた手から電気のようにしびれる流れを感じて体が動かなくなった。今度は家の母が出てきた。
「まだ子供ですよ何をするんですか?」と言って親分の顔を睨み付けたとたん
イキナリ「雅さんですか?」と話しかけた。
私は驚いた。「お母さんがやくざの親分を知っている。」父もそれを見ると驚いた。
「子分から「ます屋」と聞いて昔のおばあさんの名前を思い出し懐かしくなり来ました。おばあさんはお元気ですか?」と親分の口調はごく普通の男に戻っていた。
お母さんは「お婆さん、雅さんですよ。雅さんが来ましたよ」と言うと家の中に
走って行った。
お婆さんが奥からノソノソと出てくると、親分は深々とお婆さんにお辞儀をした。
「お婆さん懐かしいです。雅です。覚えてますか?」そう言うとお婆さんの手を握った。お婆さんは最初きょとんとしていたが、手を握られて
私と同じように電気が走ったのか、イキナリ「ゴズか」と言うと「そうです」と答えた。
お婆さんは「2日前寺の前を通ったのはお前の車だったのか、私にお前の守護霊が挨拶したのでおかしいと思っていた。」そう言うと「ま、上がれ」と奥に案内した。
母はお茶を入れに台所に向かった。私はお婆さんの後について行った。
広間に案内すると、お婆さんを正面にまた親分は正座をして深々と挨拶した。
「お婆さん懐かしいです。もう18年ぐらいになりますね。」
お婆さんは「もうそんなになるか?駆け出しのお前に良く教えたがお前がやくざに
なったと風の噂で聞いて、恐ろしくなった。お前の守護霊が暴れだしたらやくざなど目ではない。国も危ないわ。」そう言うと親分の後ろを見つめた。
「お婆さん相変わらず威勢いいですね。こんな田舎にほっておくのがもったいない。」そう言うと笑った。
親分は聞いた「御家族は?」
「今は文子の家族と一緒に暮らしておる。後の娘はみんな嫁いだ」
そう言うとお婆さんはまた親分の後ろを見た。
「お前のその守護霊劣ってないな。私は危なくて近づけない。お前の脇に居る孫も
お前と同じぐらい凄いぞ。」そう言うと親分は私を見た。
親分は「名前は?」「進です。」と答えると私の後ろを見た。
親分は「進君の守護霊も凄いのが居ますね」そう言うと笑った。
「笑い事ではない、雅。お前危ないぞ。この調子で行くとお前の体が守護霊に
乗っ取られる。そうなった時は、お前はおろか、お前の組やお前の家族,
お前の身内全てに被害が及びお前を中心に破壊する。」お婆さんはそう言うと
下目使いになり、今までに見たときも無い恐ろしい顔になって行った。
親分は「お婆さんの言う通りかも知れません。やくざやってると、本当に俺にあっているのかなと思うときがあります。しかし、自分の守護霊を考えると怖くなって、普通の人には戻れないような気になります。お払いをしてもどんな祈祷しても、私の守護霊は離れない。それどころか、祈祷や徐霊をすると、その人まで取り込んでしまう、恐ろしい守護霊です。」
「雅お前の守護霊は牛頭(ごず。頭が牛で首から下は鬼)じゃ。地獄の使者じゃ。そのような神の次の位の物を倒す奴などこの世に居らん。悪いが帰れ。」 お婆さんは雅さんの後ろを見ながらお経を拝み手を合わせた。
「それでは失礼します。つい懐かしくなった物で」そう言うとふところから封筒を出すと「此間組の者が店を壊した代金です」と言うと母に渡した。
お婆さんは今回だけは自分でもどうする事も出来ない自分が、悔しいのか
下を向いて握りこぶしを作って畳をたたいた。
母が突然話した。「お母さん、私の意見聞いてくれますか?」申し訳なさそうに
お婆さんを見つめた。「文子、話せ」そう言うと雅さんも立ち止まった。
「あのお母さん、私は霊感など0人間ですけど、心がその悪魔に通じれば離れてくれると思います。もし、雅さんが今の状態を辞めれば、改心すれば、神様なのだから徐霊無しに解決するのでは無いですか?」
そう言うとお婆さんを見た。
お婆さんは相槌を打った。「文子、たまにはいいこと言うな。さすがはわしの娘じゃ。」
お婆さんは話しを続けた。「雅、やくざ辞めろ。普通のかたぎにもどれ。そうすれば、お前の牛頭は、悪から善に変わる。それが一番じゃ。その為には清めの儀式が居るな。お前やる気あるか?」そう言うとヤクザの親分雅の目を見つめた。
雅さんは少し考えると「戻りましょう。昔に。今すぐ辞めるわけには行かないが
時機を見て辞めたらきっとこの上山温泉に戻ります。」そう言い残すと
黒い外車に乗り去って行った。
そして2年。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
刑務所に1年。組を解散して1年姿を見せなかった。
ようやく姿を現したのは、2年半後。蔵王の紅葉が真っ赤に色ずくころだった。
奥さんと子供を連れて町に戻ってきた。
お婆さんの所に顔を出すと自分の息子が着たように歓迎した。
その姿を見た父と母も一緒に喜んで出迎えた。
お婆さんは雅さんの手を見ると叫んだ。
「お前指どうした。小指が無いじゃないか?」そう言うと雅さんは
「けじめのためにツメました。」そう言うとお婆さんは「お前は馬鹿じゃ。指など詰めなくても、お前の守護霊が暴れだしたら、組など吹き飛んでしまうわい。」そう言うと二人で笑った。
何日か家に泊まると
家の母屋に住んで、仕事を覚えて店を出すと言う目標に向けて歩み始めた。
そして、守護霊を改善する儀式が行われた。
お婆さんの友達の祈祷し、寺の住職、それに東京からわざわざ徐霊師の友達も呼び
家の中はお盆が着たようににぎやかになった。
そして、2日目。
近くの寺で儀式が行われた。
祈祷師。徐霊師、住職、お婆さん、私、それに雅さんが白装束になり
本堂の広い床に整列した。祭壇や仏像に白い布が掛けられた。
本堂も垂れ幕が敷かれ、まるでお寺ではなく祈祷師の部屋のようになった。
お婆さんが先頭になって、その右後ろに祈祷師、左後ろに徐霊師、
正面後ろに和尚様、その後ろに私、
そして最後にその陣をなした中心に雅さんが座った。
雅さんの周りには、百目ロウソクが十二支の方角で並べられ火がつけられた。
五人のお経の合唱の中、雅さんがお経をはじめた。
すると風も無いのに12本の百目ロウソクが一ぺんに消えた。
本堂の中は暗くなった。ひたすらろうそくが消えたことなど気にも留めず拝み続けた。すると、不思議な事が置き始めた。私の後ろが熱くなり始めると
他の人5人の背中に湯気のような煙が立ち始めた。
最初にお婆さん、次に祈祷師、その次に和尚様、その次に徐霊師、そして私そして最後は雅さん背中に煙が出始めた。
お婆さんの背中を見ると頭の上の方に、十二一重の女性が座っていた。祈祷師の後ろには、同じような白装束の人が、徐霊師も祈祷師と同じような人、和尚様は三人のお坊様が横に並んでいた。その姿を見ながら私は拝んだ。拝みがいつの間にか激しい勢いになるとこんどは雅さんの背中に大きな肩をした真っ黒な頭の牛の人が現れた。私は、あまりの怖さでお経が止ってしまった。すかさず、お婆さんがお経の合間に、「進、なぜお経を辞めた。後には引けないんだ。」そう言うと私は我に返りお経の声に力を入れた。
15分。。。。。。。。。。。。。。。。。。
20分。。。。。。。。。。。。。。。。。。
お経を続けるうちに、雅さんの後ろのゴズの色が段々白くなってきた。
それを見た四人はお経に力が加わった。
そして、30分牛頭は消えた。お経が静かに終わりを告げると、雅さんを取り囲んでいた人が一斉に疲れた表情を見せた。お婆さんは「これで雅は浄化された。」と言うと周りの人に笑みが沸いた。
お婆さんは「みんなご苦労様、旅館に戻り温泉でも漬かり英気を養ってください。」
と言って立ち上がろうとした時、お婆さんがよろけた。和尚様が支えると「一番疲れているのは、隠居ですね。」そう言うと本堂に笑いが還った。
私はみんなの守護霊を見ることになり、本当に驚きと敬意がわいてきた。
お婆さんと家に向かう時、私は聞いた。
「お婆さんの守護霊は紫式部?」そう言うとお婆さんは「そんなに綺麗な人じゃないよ。御先祖様だからね。」そう言うと夕日を浴びたお婆さんの顔が赤くなって見えた。
雅さんは後に店を起こし社長になった。店も順調に行き、守護霊のお陰と何時も回向を忘れない毎日だった。
お婆さんは相変わらず、自分の娘たちに振り回される日を送っていた。
家や旅館には、父や母、私を怒鳴り散らす声が響いていた。
今日も電話の前ではお婆さんが「利江、お前の商売が大変だって。わしゃ知らん。都合の良い時だけ呼び追って。もう歳じゃ行くわけ無いじゃろ」元気な声が飛び交っていた。
まだまだつづくお婆さんシリーズです。
作者退会会員
土曜日ですね。
お婆さんシリーズです。
また、新しい問題に取り組みます。
よろしくお願いします。
鏡水花さん
お婆さんのイメージに合う写真
見つかりませんので、また使わせてください。
お願いします。