暮れも近づいたある日岐阜県に嫁いだ叔母から母に連絡があった。
「岐阜の叔母さんから、進。アルバイトをかねて遊びに来ないか?」
と連絡があったと言う事を母から言われた。
私は叔母さんと別れてからもう10年ぐらい会っていないので返事をするのに少し考えていた。
母にその事を言うと「お前どうせ、家でぶらぶらしているのだから、
家の手伝いはいいから行ってお上げ。」と言われた。
その夜の食事の席で。
お母さんは家族に向かい「進が岐阜の利江のところに1ヶ月アルバイトに行く」と言った。
父は「旅費を出してやるから働いて来い。ガソリンスタンド手伝うのも人生経験だ。」と言った。
しかし、お婆さんは浮かぬ顔をして、もくもくとご飯を食べると直ぐ自分の部屋に引き上げた。
それを見たお母さんは「又お婆さんのズン黙りが始まった。
この後何か起きると直ぐ私が怒鳴られるのよね。困ったもんだねー」と言うと洗い物をはじめた。
私はお婆さんの部屋に向った。「お婆さん」障子越しに声を掛けた。
お婆さんは浮かない声で「お入り」と言うと私は入り座った。
お婆さんは私を見ると言い出した。「お前本当に利江のところに行くのかい。
あれも悦子と同じで調子がいいから、気をつけて掛からないと痛いめに会うよ。」
そう言うと私に赤い布に包まれた腕輪をよこした。
お婆さんは「これは、お前の先祖も居る、身延山の高名の有るお坊様から授かった腕輪だ。
東は青龍、西は白虎、南は朱雀、北は玄武と守護神様が守ってくれる腕輪じゃ。
これを着けていれば対外の事は恐れるに足らん。」
そう言うと私の左腕にはめてくれた。私は眺めると「幾らしたのおばあさん」
と聞いたとたん家中に響く声で
「馬鹿もん!!」と怒鳴られた。「お前は何も考えず値段だの、
何に効くだの聞いて来る。価値では無い。そのくれた人の心じゃ。判るか?」
そう言うと「利江の奴、タダでお前を呼びだしたのではない。
何かある。わしに直接いえない何かが。」そう言うと、お婆さんは鋭い目を私に向けて来た。
私はお婆さんが怖いので、「ジャ、明日行って来るからね。」そう言うとお婆さんの部屋を後にした。
次の日の午前中、岐阜に向けて、列車に乗り込んだ。
時々おばあさんが腕にはめてくれたブレスレットを見ると私は何だか、
霊力が強くなったような気がした。
岐阜駅に着くと叔母さんがホームで待っていた。叔母さんの顔は一番母に似ていた。
挨拶も早々車で、高山の近くのガソリンスタンド兼自宅に案内された。
叔母さんには子供が居たが、小さな時に亡くなり、今は叔父さんと二人でガソリンスタンドを経営していた。
ガソリンスタンド内に家が隣接していて、何か有ると直ぐ出て対応できるようになっていた。
家の二階の部屋を私の部屋にしてくれた。死んだ娘の部屋の隣だった。
娘さんは私と同じ年で、生きていれば21歳と花盛りの歳だった。
私のことを見ると(私は母似の顔)でしたので叔母さんは娘の顔を私に重ねて見てしまい、
時々思い出したように泣いていた。
そして1週間。ようやくガソリンスタンドの客にもなれて来たころでした。
その日は忙しく、叔父はタイヤのパンクを直しに街のはずれにトラックを向けてました。
私と叔母は店で、灯油を、缶に詰める作業を行っておりました。
クリスマスや年の瀬が近づいてるせいか、毎日忙しく、
灯油ののタンクが毎日空になるくらい配達や切り売りに精を出しました。
そして、クリスマスの近づく21日、もう高山には雪が降り始め、
吐く息が真っ白くなりました。叔母さんと叔父さんは残業で、
灯油の配達で二人は留守になり,家に戻るのは夜9時ごろでした。
叔父と叔母が戻ると遅い食事が始まります。私は先に風呂の用意をして、
叔父が先に入るのを待ってました。
叔母は「何時も遅くなりごめんね。」と何時も誤りました。
叔父が風呂に入ると私に、「今日は留守に誰か来なかった?」と口癖のように言いました。
もう10日もその繰り返しです。
私は叔母さんに「どうして毎日、誰か来なかったかと聞くの?」と聞きました。
すると顔色が変わり、伯父が風呂から上がらない様子を見ると話し始めました。
「お父さんが来ても黙っていてね。
そう言うと9時過ぎに、幽霊が毎日訪ねて来るんだよ。ガソリン給油機のところに立ってるんだ。
その事を旦那に話すと縁起でもないと怒り散らすんだ。だから見えても黙ってるんだ。」
そう言うと私の顔を見た。
私は「へー叔母さんも見えるんだ。」そう言うと叔母は
「普段はぜんぜんそういうものには縁が無いのにこの場所で、あの幽霊だけは見えるんだよ。
近寄る事もできないし、遠くから見てるだけだけどね。」そう言うと叔父が風呂から上がってきた。
叔母は、急に話を変えた。
私は「これで、叔母が私を呼んだのか」と思った。
あくる日の夜。
何時ものように、灯油の配達に夕方出かけてゆく、叔父と叔母を見送ると一息つくために、
自販機からコーヒーを出すと、自販機の脇の腰掛に座りボーと雪のちらつく、
飛騨の空を眺めていた。もう日が短くなり辺りは真っ暗になっていた。
「もう時期師走も近づいてきたなー」と思い、ふと雪のちらつく空から目を下に移した。
すると、ガソリン給油機の前に女の人が一人こちらを見て、立っていた。
私は「またガソリンの切り売りか?」と思うと、足早に給油機の前に急いだ。
そして、その女性に声を掛けた。「何リッター切り売りしますか?」
しかし私の言葉に対して反応が無い。どうしてかと思いもう一度声をかけると
「進君ですか?と私の心に話しかけてきた。」
私は「どうして俺の名前は知っているんだ。こいつ幽霊か?」と思うと体が緊張した。
そ知らぬふりをして「そうですが、何か用事ですか?」と切り出すと黙って、私の手を握ってきた。
私を驚き手を振り切ろうとしたが振り切る事ができなかった。
そして、沈黙の時が流れた。1分、2分。。。。。。その時間は私にとって、
1時間、2時間もの長い時間に思えた。しかし、手を握られても、幽霊の違和感が無い。
不思議な気持ちで居ると、いきなり女性の顔が真っ黒になり、白目が黄色になり瞳が小さく光った。
私は顔を見ると金縛りになり、動けなくなった。
すると、私の体の中に女性が入ってきた。そしてすり抜けた。
私の背に向かい、その女が話した。「進の体を借りようとしたのに。」
そう言うと私の後ろで消えた。私は消えると同時に倒れた。
気がつくと、叔父さんと叔母さんの顔が目の前にあった。
私は行き成り起き上がると叫んだ「あの女の幽霊は?」叔父がまづ、
給油機の前で倒れていたことを言うと、次に叔母が「幽霊を見たのかい?」と訪ねてきた。
私は叔母の顔を見ながらうなづいた。」すると叔父は「幽霊など居やしない。進の勘違いだ。」と言った.
私は手首に痛みを感じたので見ると手首には紫色の指の痕が5本両腕に残っていた。
そして、お婆さんがよこした水晶の腕輪を見ると、
輝くほどきらめいていた水晶が4神の彫り物のある箇所の他は真っ黒に変色していた。
私はそれを見ると驚き恐ろしさのあまり起き上がると、
叔父や叔母の見てる前で震える声で「お婆さんに電話してください。」と叫んでいた。
そういう事を信用しない叔父は「お前と同じで今度はお化けか?」と言うと外に出て行った。
叔母はすぐ側にある電話で私の家に連絡した。母が出ると「お婆さんを早く出して。」
と言うと私に電話を変わった。
私が変わって一分、お婆さんが電話口に出た。
「何だ!!進。高山は楽しいかい。そう言い笑った。」しかし私の震える声を聞くと声の口調が変わった。
「どうした進。何があった。声が震えてるじゃないか?」そう言うとお婆さんはすかさず、
「何かお前の怖がるような事がおきたのかい。」そう言った。
私は女の幽霊に手を握られたこと、私の体をすり抜けた事、
お婆さんから貰った腕輪が真っ黒になった事を話した。するとお婆さんは
「怨念を持った女がいえの近くに居て、何時も叔母や叔父を見て祟ろうとしている。」
そう言うと私にお婆さん「進。結界を張るのじゃ。よいかその場所もじゃが、
家も全てじゃ。結界霊符も忘れるな。」そう言うと電話を切った。
私は「寝ている場合じゃない。」と思うと、
その日の内に粗塩を買ってきて、皿に盛るとそれをスタンドの入り口の隅に4箇所。
自宅の前に4箇所盛り塩を施した。そして、自宅の玄関の上には,お婆さんから教わった、
結界霊符を書いた物を張った。叔父さんは呆れていたが、
電話で指示を受けた私が直ぐやる態度を見て、ただ事ではない事を悟ったようでした。
お婆さんが山形から来ると言う事だった。
それに従妹が死んで葬式に出てから2回目の高山入りをするということで、
叔父の気持ちも本気になって行った。
次の日の夕方。中部国際空港「セントレア」に私の運転する車で叔母と二人迎えに出た。
お婆さんは初めて飛行機を乗り継いで愛知県まで着た。付き添いは母でした。
タラップに見えた母とお婆さんの顔は引きつったように私には見えました。
挨拶もそこそこ、直ぐ車に乗ると叔父の待つ高山のガソリンスタンドに出向いた。
着くとすぐ、お婆さんは私の体を確かめた。足先から手先、
頭まで確かめると「無事なようだね。」と一言つぶやくと、
私の左腕にはめていた数珠を取ると見据えた。
お婆さんは「ものすごい怨気じゃ。進、お前この数珠が無かったらとっくにあの世行きじゃ」そう言うと、
苦笑いをした。家に着くと、とこ冷えのする外に出て結界を確かめると
「進。完璧じゃ」と言うと、従妹の仏壇に向かい祈りをささげた。
叔母は10年ぶり会うお婆さんに涙を流した。母ももらい泣きをしていた。
しかし、お婆さんは次のことに頭が行っていた。
目を向くように二階から見える店の広場を眺めていた。
お婆さんは私に向かい霊の事を聞いた。霊の特徴や年齢、顔立ち、
の他しぐさなどを聞くと考え出した。もう時計は12時を回っていた。
お婆さんは「この場所に来る霊の怨念がものすごく強い。進。
お前に対決は無理じゃ獲り付かれて、お前がおかしくなる。」 と外をながめて、居間に戻った。
次の朝。私が起きるとお母さんや叔母さん叔父さんお婆さんは起きて家の周りや店の周りを回っていた。
お婆さんの元気な声が響いた。「利江。お前15年もこの家に居て、
どうして方角も何も確かめん。ばか者が。」朝の通勤客が振り向くほどの声で怒鳴った。
「お前は悦子と同じじゃ。旦那も同じじゃ。良く見ろ。」そう言うと裏の川を指差した。
「川に沿ってどうして塀を作らん。水の流れに乗ってあの世の霊がわんさか来るわい。」
そう言うとお婆さんは叔父と叔母を睨み付けた。
しかし、私は違うと思った。今回の霊は外、つまり道路の方角から来てるように私は思った。
朝ごはんを5人で食べると、仕事を休み従妹の眠るお寺に向かった。お寺に着くと
墓参りも早々、1時間ほどお婆さんは住職と話しこんでいた。
そして帰り際、従妹の眠る墓にもう一度お参りにする事になった。
お婆さんは墓石に向かい、なにやら難しいお経を唱え終わると、家に向かった。
周りの山々は雪に覆われていた。
家に着くと、お婆さんは私を呼び話した。
「進。今日の夜が勝負じゃ。判るか?お前が張った結界の一部を取り除く。
霊が入ってきたら私に教えろ。お前はそれまで外で待っていろ。」
そう言うと私に、お婆さんが短冊に文字を書き
「良いか、霊が着たらこの札を霊の胸に貼れそうすれば動けなくなる。」
そう言い札を渡すとまた仏壇に向かい拝みだした。
私はお婆さんに言われた通り結界の盛り塩の一部を取り除くと外で待った。
もう夕日が山の陰に落ち始めた。1時間。。。。。2時間。。。。。3時間。。。。
時々お母さんが差し入れに持ってくる甘酒を飲み、体を温めながら待った。
9時を過ぎたころ、私は霊気を感じ始めた。もう雪が音も無く降り始めて居た。
確実に足跡は私目指して近づいて来ていた。そして足跡は
私の立っている,すぐ側で止った。私の耳の側で
「怖くないよ。今日はあの数珠が無いから、私があなたの体に入ったらあなた死ぬわよ。」
私の耳の奥深く響く声が聞こえた。
「しかし、姿が見えない。どうしてだ?」 私は見渡すが見えない「何処だ。」
と叫ぶと目の前にフーと白い顔が現れては消え、また現れては消えた。
私はすかさず、お婆さんのお札を出すとその見え隠れする女めがけて張った。
「ギャー」と一声私の耳の鼓膜が痛くなるのを覚えると叫んだ、「お婆さん早く来て。」
その声を聞いたお婆さんが現れた。お札の側まで寄ると呪文を唱え始めた。
その側で私は金縛りに合い動けない。その金縛りは,
今までに体験したどの金縛りより強力で、体が段々麻痺して行くのが判った。
霊はお婆さんが近づき、呪文を唱えるたびに、「ギャー」と悲鳴を上げた。
そして、お婆さんは「これでお前の最後だよ」と言うと
私が張ったお札の上にお婆さんが新たに用意した真っ赤なお札を貼ろうとした時
。。。。。。。。。。。。。。。お婆さんの手から御札がひらりと
舞い上がるように風で飛ばされた。というよりもお婆さんがお札を貼るのを辞めた。
私は金縛りの中「お婆さん、どうして、どうして張らないの????」と叫んでいた。
するとお婆さんは私の張ったお札まで剥がして、その女の霊を逃がしてしまった。
と同時に私の金縛りも解けて楽なると、へなへなと私は地面にひざから落ちて
座り込んでしまった。
お母さん、叔母さん、叔父さんが,お婆さんと私の周りに駆けつけた。
母が叫んだ。「どうして、どうして、あそこまで追い込んで、辞めたの?」
叔母さんも「お母さん、成仏させてやればよかったのに。また私の前に現れる。
どうすればいいの?お母さん、もういやだ。!!」そう言うと叔父に泣き付いた.
お婆さんは私の脇でひざを突いて下を向いて居た。私が下の雪を見ると、
一粒、二粒、三粒、お婆さんの顔のしたの粉雪が点になり解けて行った。
私は恐々お婆さんの顔を下から覗くとお婆さんは、泣いていた。
私は驚いた。なぜなら、お婆さんの泣き顔を生まれて初めて見たからだ。
叔母さんがガンで亡くなったときも、おじいさんが死んだときも、
お婆さんは涙ひとつ流さず、ひたすら拝んでいた。その人が泣いて居る。
私は大きな衝撃を受けたように、お婆さんを見ていた。
お婆さんはお母さんや叔母さんに見られないように、
ふところから手ぬぐいを出すと、目に当てぬぐい
その場を立ち去った。そして、私の前には2枚の札が残されていた。
お母さんも叔母さんも「どうしたの?お母さん。」と言うばかりで、
後の言葉が見つからなかった。
私は二枚の札を握りながら呆然と雪の積もる給油機の前で立ちすくんでいた。
霊は私をすり抜け立ち去った後だった。
私は叔父さんから肩をたたかれると、正気に戻りお婆さんの後を追って家の中に駆け込むと、
二階の仏壇のある部屋に入ろうと戸を開けた。
その途端「お婆さんの大きな泣き声が聞こえた。」
「ワーーーーーン。ワーーーーーン」誰はばかることなく、仏壇の前で泣くお婆さんが居た。
私はお婆さんに言葉を掛けられなかった。
後からお母さんと叔母さんが来て、部屋の前で私の肩を抱くと静かに下の居間に引き上げた。
叔母さんもお母さんもなぜ泣いているか判らず、雪が深々と積もる外を眺めていた。
次の日。私が居間で叔母さんや叔父さんやお母さんとコタツでごろ寝していると
目を真っ赤に腫らしたおばあさんが現れた。みんなは驚き起き上がった。
お婆さんはみなに向かい悲しい顔で話し始めた。
「良くお聞き、利江。お前、何時からあの霊が見えるようになった。」
叔母は「もうかれこれ、15年になりますね。毎日のように現れては消えました。
その事をこの人に話すと、何時も怒られるので何時からか話さなくなりました。」
お婆さんは今度、叔父さんに話しかけた。
「恒夫さん、どうして霊が出た事を伏せていたのじゃ?どうして、利江が言うと怒るのじゃ。」
そう言うと叔父さんは「非科学的な事や霊とかは私は信じないからです。」そうきっぱり言った。
お婆さんは「昨日来た霊が自分の娘でもかい?」と言うと
叔父と叔母は顔を合わせた。お婆さんは「私があの御札を貼ろうとした時、
あの霊の顔が見えたのじゃ。その顔は、恒夫さんあんたにそっくりじゃった。
私は私の血の通った孫が霊になったとその時直感したのじゃ。生きてれば歳は進と同じ。
その恵子の祖母が孫を殺そうとしたのじゃ。判るか?わしには、
もう同じ孫を殺す力は無い。あきらめろ。」
そう言うとお婆さんはまた二階の仏壇のある部屋に入ると拝みだした。
下に残された叔母と叔父は抱き合い泣き出した。母も泣いていた。
外の雪は私たちの悲しみを知ってるかのように、深々と積もっていた。
私はどうしてよいかわからなくなり山形の父に電話した。
訳を聞いた父は「お前とお婆さんが何時も行く、
お寺の和尚様に聞いてみるのが一番良い。」そう言うと電話を切った。
私は直ぐ和尚様に電話した。和尚様にいきさつを話すと電話の前でもらい泣きをしていた。
そして答えた。「進。よく聞け。今回のお婆さんはもう霊を収める事は出来ない。
霊の素性を知って肉親とわかってしまった以上もうお婆さんはその霊を倒すことは出来ない。
進。お前が成仏させるのだ。」そう言うと電話を切った。
私はどうしてよいかわからず、仏壇で拝むお婆さんに話しかけた。
「お婆さん、和尚様は私が恵子の霊を成仏させる他ないと言ってました。
どうすればいいの?」と言うとお婆さんはお経を辞めて答えた。
「お前一人では、恵子の霊は無理じゃ。恵子は15年と言う歳月でものすごい怨念が膨れ上がり、
その影響で成長したのじゃ。それを15年前の死んだときと同じに戻すのは無理じゃ。
利江が15年前に連絡してくれていたら。。。。。」そう言うと黙ってしまった。
私はどうしてよいか、わからないまま時間が過ぎた。
もう日付はクリスマス。12月25日だった。
私は叔父とスタンドの周りの除雪をしながら考えていた。
叔父に「叔父さん、クリスマスですね。恵子に上げるケーキを買ってきます。」
何の考えも無いまま町に出た。町はクリスマスや師走に向けてにぎやかだった。
私はケーキ屋で一番小さなケーキを買い、持ち帰った。叔父が少し微笑み迎えてくれた。
二階に行き、お婆さんが拝む仏壇にケーキの箱を上げた。
お婆さんは「少し不機嫌そうに、何じゃこの箱は?」私はすかさず、
「お婆さん今日は何の日か知らないの?」と訪ねると「師走じゃろ」
その答えを聞き思わず私は吹いてしまった。
「今日はクリスマスだよ。キリストの誕生日なんだよ。」と言うと
お婆さんは「そんな、外国の神様の誕生日は知らん。わしが知っているのは2月16日じゃ。
日蓮大聖人様の生まれた日じゃ。」そう言うとまた仏壇に向かい拝みだした。
母や叔母は、食事も取らないお婆さんを心配して、チョコチョコ仏壇の前に現れた。
もう夕方になろうとしていた。山形の和尚様からの電話が鳴った。
「進か。喜べ。方法はあった。私の師匠で総本山の大和尚に連絡した結果、
「二重の数珠」を借りてきて清めれば、元に戻る可能性がある事がわかった。
私は高山に一つだけあるお寺経行寺に急いで借りに行った。もう日はとっくに暮れていた。
和尚様からお寺に連絡が行き、住職が門前で私の来るのは待っててくれました。
私は二重の数珠を受け取ると挨拶も早々引き上げてきました。
そして、お婆さんにその話をすると、また元気が出たのかお婆さんは、叔母さんを呼び出した。
「利江。利江。」と呼ぶと階段を駆け上がる音が家に響いた。
「お母さん何ですか?」お婆さんは「お前が引き起こした難じゃ、お前が解決せい。」と言うと
お婆さんは秘策を授けた。
「よう聞け、利江。お前はこれから来る恵子の霊に進が相手をする。
その後ろに回りこの大きな数珠をソッと恵子の頭から掛けて通せ。
そして、ゆっくり足元まで下ろせ、そうすれば、恵子は退散する。
もう二度と出てこない。」そう言うとお婆さんは
「腹がすいてきた。飯の仕度じゃ。」と言うと二日振りに台所に足を運んで行った。
私はジャンバーを着ると外に出た。そして恵子が来るのを供給機の前で待構えた。
1時間。。。。。。。。2時間。。。。。。。3時間。。。。。
すると店の入り口に影が見えた。私は中に入ってくるのを待った。
5分ほどすると中に入り目の前にスート現れた。真っ黒な影が私の前に居た。
叔父さんは逃げられないように、入り口に、結界「盛り塩」を置いた。次は叔母の番である。
私は恵子に話しかけた。
「恵子ちゃん久しぶり、進だよ。心の中でささやいた。」すると
恵子は「進。そんな男は知らない。」と私の頭の中に何処からともなく話した。
叔母さんは恵子の影だ見えている。後ろで泣いていた。
「恵子、恵子」とそっと言うと数珠を大きく広げ、その輪を恵子の頭から掛けて行った。
恵子は見る見るうちに、数珠が下に降りる度に、
真っ黒な体が白くなって行くと同時に,小さくなっていった。
私は小さくなって行く恵子を見ながらお経を唱えていた。そして、
叔母の数珠が足の下の雪に置かれると恵子は消えた。
私はお婆さんに合図をすると、私は数珠を袋にしまい、高山の寺に向かった。
寺では和尚様が待っていた。本堂に持ち込まれた数珠は御本尊様の前に供えられ、
和尚様の御経が始まった。私はそのお経を聞くと家路に着いた。
家に着くとお婆さんと叔母や叔父や母と一緒に仏壇に向かい拝んだ。
そして夜遅くまでお経は続いた。もう12時を回り、クリスマスは終わっていた。
お婆さんは次の日。仏壇に置かれたケーキの箱を開けるとロウソクを5本立て、
火をつけて仏壇の写真に向かい話しかけていた。
「恵子、ごめんね。クリスマスはもう過ぎたね。
進の買ってきたケーキお上がり。おいしいよー。
今度はおばあちゃんがあの世に行き恵子と遊んであげるからね。
それまではお爺さんと叔母ちゃんとお遊び。」と言うと仏壇に向かい微笑んだ。
雪も上がり、飛騨にはまぶしいほどの銀世界が広がっていた。
それから、二日。山形に向かい私と母とお婆さんは飛騨を後にした。
帰り際。「利江、事は解決した。親父と一緒に帰っておいで。」にこやかに笑う
お婆さんの声が帰りの空に響いていた。
作者退会会員
長い文章になってしまいました。
お婆さんシリーズです。
今回はお婆さんの弱いめんを出してます。
それでは、良いクリスマスをお過ごしください。