この会社に就職して1年が過ぎたころでした。
私はメンテナンスとして
金型のメンテナンスに従事してました.
金型が古いこともあり損傷が激しく
おまけにオーダーが追いつかなくなり
毎日毎日、帰宅は9時を過ぎるのが日常でした。
その日常が重なり
疲労は極端にひどくなりました。
休み時間は食事の時だけ。
後は帰宅後の8時間だけでした。
その日も金型を直しホット一息着く為
工場の外の休憩所に向かいました。
時計を見るともう夜8時を回ってました。
工場の休憩所は各課事にあり
空き地の片隅に屋根がついていて
ベンチシートが5つほど置いてあるだけのものです。
夜は寂しく街灯はその付近には1箇所しかなく
薄暗い中での休憩です。
私は休憩所の自動販売機にお金を入れ
コーヒーを買おうとした時です。
休憩所の上のほうで人の気配がしました。
休憩所の後ろは2.5mの塀があり
塀の向こうには住宅があります。
しかし塀の上には住宅から上がることが出来ないように
壁の間にフェンスが張り巡らされていて
有刺鉄線がフェンスの上にあり
工場の中には入ることが出来ません。
私は休憩所を出て塀の上の周りを覗きました。
すると
ひとつある街頭の下に老婆が立ってこちらを見てました。
私はこんな夜にどうしてあの塀の上に居るのか
不思議でなりませんでした。
そうこうしてる内に
私を呼ぶ従業員の声がして私の気がそれて、
その場から工場の中に行くことで
私はその老婆のことなど忘れてました。
それから一週間。
相変わらず忙しく残業の毎日でした。
私は何時しか老婆のことなど忘れて
また休憩所で一腹着けてる時でした。
何気なくボーとコーヒー缶を口に運ぶ時でした。
休憩所の外に長い人の影が出来てました。
その時私は思い出しました。
塀の上に居た老婆のことを。
私は、缶コーヒーを急いで飲み干すと、
その影の出来てる方に歩いてゆきました。
するとやはり、老婆が薄暗い街頭の下に
立ってました。
老婆は、私のほうをジーと見てました。
私は此間と同じところに立っている
あの老婆は「この世の人では無いのでは?」
と心の中で思いました。
腰の後ろに手を回しジーとこちらを見る姿は、
何か因縁を感じさせるものがありました。
私は怖くなりその場から逃げ出して
工場の仕事に戻りました。
夜9時を回ったころ。
もう居ないだろうと思い工場の出口から覗くと
街頭の下には老婆が先ほどと同じように立ってました。
私は工場の門から老婆に向けて手を合わせて拝みました。
すると拝むと同時に目を瞑って瞬きするうちに、
私の視界から老婆が消えました。
私は祈りが通じたと思い、
その場を後にして帰宅するべく車に向かい
車に乗ろうとドアを開けたとき
後ろの座席にあの老婆が乗ってるではありませんか
驚きと恐怖で棒立ちになり、私は車のドアの前にたたずんでました。
私は、いつも持っている数珠を出し、老婆に向けました。
老婆はその場から消えました。
急いで車に乗ると、5分ほどお経を唱えました。
私はその日依頼、あの場所には近づかないようにしました。
そして1ヶ月。
何事もなく過ごす毎日。
残業の日あの場所に今度は作業員3名と行くことになり
私はちゅうちょしました。
工場のシャッターの前まで行き
作業員が販売機でコーヒーを買うのを待ちました。
何気なく除くとマタ、あの老婆が同じ場所に居ました。
私はどうしてあの場所に立っているのか気になり
工場が建った時から居る従業員に聞くことにしました。
その従業員は怖くて話したがりませんでしたが
私が熱心に頼むと話し始めました。
15年ほど前。
工場の周りは雑木林だった。
その中にボロ屋を建てて住んでいたのがあの老婆だった。
老婆は、一人暮らしで身寄りがなく
生活は自給自足で現金収入はごみの中から
プラスチックや缶を拾い出してそれを売り細々と暮らしていた。
しかしその場所を含めこの辺の一帯は工業団地になると言うことで、
その老婆の家も立ち退かなくてはいけなくなり
老婆は身を寄せるところがなく
当時の行政も施設もないことから
うやむやにしたまま、老婆の居場所を撤去した。
老婆は行くところがなく
10日ほどこの界隈をうろうろしていたが
ある日道の脇でうずくまるように死んでいた。
その霊が今になっても成仏できないまま、
自分の居場所だったところから離れる事が出来ないで居るようだ。
それを聞くと私はかわいそうになりました。
あの「霊を成仏させてやりたい」と思うようになりました。
「どうすれば居なくなれるか?」考えました。
今、あの老婆が見えるのは、私だけです。
しかし「私に捕り付かれるのは困る。」難しい問題でした。
話を聞いてから1週間。
私は車に居た時の老婆の
笑い顔を忘れられないほど怖く
憎しみが強すぎて私の力ではだめなことも悟り
近づかないようにすることしかないと考えました。
ですので今も、午後7時を過ぎて街頭が点く時刻
あの老婆は工場の方向を眺め、たたずんでいます。
作者退会会員