昔悪い鬼を懲らしめるために、仏があらわれ鬼を一掃するために、
仏様が渓谷の底に鬼を連れて行き鬼を踏み潰したという言い伝えがあります。
その場所は蔵王山の仙人沢というところの谷底に
一枚板の足に良く似た石がありました。
そこを仏の足と地元の人は呼んでます。
仏の足は、別名 自殺岩「死体が良く流れ着く岩」と呼ばれて
地元の人もあまり近寄りませでした。
雪解けの春や夏の始まりになると、
この岩の周辺に冬の仙人沢で自殺した人や遭難して死んだ人の死骸や
動物の死骸が流れ着くことで有名でした。
10月も末のある日。
父とキノコ採りに行き
キノコを採るのに夢中になり二人は道に迷ってしまいました。
時間を見るともう夕方の5時でした。
山の天候は変わりやすく曇り始め、今にも雨が降り出しそうでした。
父は慌ててリックやバックいっぱいのきのこを抱えて、
「母さんやおばあさんが喜ぶぞ。さあ帰ろう」というと歩き出しました。
しかし一時間もしないうちに雨になり渓谷の坂は、
雨の影響でヌルヌルになり歩いても滑って戻される状況でした。
父は「もう上に戻るのは辞めて下に行こう」と言い出すと私の手をとり、
谷の底に向けて歩き始めました。
「体力の消耗は、上に行くよりも下に落ちた方が楽で消耗が少ない。」
父は言うと谷底に向かい歩き始めました。
「底には夜露をしのぐところがいっぱいある。
そこで一晩過ごせば明日は助けが来る」と私を励ましました。
2時間ほどつづら状に歩き、ようやく谷底の川のほとりに着きました。
水を水筒にくみ私に飲ませてくれました。それから川づたいに歩き、
15分ほどすると
岩と岩の間にホコラじょうになった場所を見つけました。
私はホコラの中で一息ついてると、父はその間に焚き木を集めてきました。
私も父に見習い、焚き木を集め始めました。
しかし雨に濡れたところでの焚き木は見つかりにくく、
ようやく一晩過ごせるほどの焚き木が集まり、
ライターで火を点けるころには周りは真っ暗でした。
一面、闇が広がり一歩も歩くことが出来ない状態でした。
父は火をつけると、火の周りに濡れたズボンやシャツを脱ぎ乾かしました。
私は「疲れて2時間ほど寝たでしょうか?」
きのこの焼ける匂いで目が覚めました。
父が採ってきたばかりのきのこを焼いてました。
時計を見るとPM10時でした。もうこの場所から動くことは出来ません。
焚き火の火が消えれば真っ暗闇です。
私は怖くなり父のそばによりました。
父は、「明日になれば谷沿いに歩き村に出る。安心して寝なさい」といいました。
そういうと薪の量を増して燃やしました。
こんな谷底でおまけに自殺の名所に居て眠れるわけがありません。
私は尿意がおこり、近くに小便をすることにしました。
焚き火の火を長い枝に点けると外に出て用を足しました。
終ってふと仏の足の方向を見ると、青白い光がユラユラと10以上動いてます。
私は、捜索隊だと思い込み、火の点いたマキを振り上げて、
「ここだーと叫びました。」
父は私が外で騒いでるのでホコラから出てきて私を止めました。
私は父に「どうして止めるの」と聞きました。
父は「目を凝らしてヨーク見ろ」といいました。
ユラユラと動く光が、上に下に動いてます。
あの動きは捜索隊のライトではありません。
父は「ここは谷の底だ。この時間に捜索隊が着たら2重遭難を起こす。
谷の底は入り組んでる。この時間に光ってるものは、獣の目か人魂だ」
というと私の手を取り、急いでホコラに引き返しました。
すると10分もしないうちに、祠の周りにあの青白い火が寄ってきたのです。
その火の中にユラユラと揺れる、真っ白な人影まで見えました。
私はその影を見ると父に抱きつきました。
父は前より増して火をたき始めました。
朝5時ごろ夜が明け始めて明るくなると、私と父は寄り添うように寝てました。
焚き火の火は消えかかってました。
身支度をして仏の足の方向に歩き始めました。
仙人沢の底はもやに包まれてます。仏の足のそばに来たときです。
足のそばには、大きな熊らしきものの、腐った死骸がありました。
岩の上には、小さな骨や死骸の皮が散乱してました。
岩の周りには、もやがうっすらとかかってます。
うわさではなく本当にこの場所は、この世のものではない場所であることが
判りました。
私と父は線香がないので父はタバコに火をつけ供え合掌しました。
その後2時間ほど歩くと、遠くに人影が見えてきました。
捜索隊です。私と父は手を振りました。
捜索隊と合流すると、いろいろな質問を父が受けてました。
父は人魂のことや仏の足のことは一言もしゃべりませんでした。
後で私は「どうして言わないのか?」聞きました。
父は、「誰も信用しないのに言う必要はない。
あそこは入った人でないとわからない。それに言えばまた良からぬ出来事が
起こる。」そう言うと、
私にもしゃべらないように言いました。
そして下山すると父は夜中に起きたことを忘れたかのように
お婆さんや母、みんなに心配を掛けたと誤っていました。
私は忘れていたリックを思い出すと開けました。
二人のリックサックには昨日採ったはずのきのこが一枚も入ってませんでした。
きのこではなく、水を含んだ枯れ葉が山ほど出てきました。
父はそれを見ると仏壇で拝みました。
私はどうしてきのこではなく、枯葉が入ってたのか理解できません。
父に近づき聞くと父はそっとつぶやきました。
「きのこはお前と私の命の代償だ。仕方ない。」と言うと、
また仏壇を前に拝み始めました。
作者退会会員
事実がリクエストされたので
載せます。