別段怖い話ではないのだが、これも心霊体験だからここに書いておくことにする。
寒い冬の日だった。
仕事の同期の姿を丸一日見ていないことに気付き、同期を探した。
当時の俺は自衛官で、寮生活。
その同期とも、一日中合わないなんてことはこれまでになかったので、少し不安になったからだった。
俺とその同期はよく廃墟や心霊スポットの類に行く中で、思い返せば、その同期は頭のネジが数十本飛んでるんじゃないか?
と思うほどの変人だったように思う。
それはさておき、彼の姿を探す。
時刻は夜の8時を過ぎており、その日は土曜日で外出でもしているんだろうか?
とも思ったが、そいつが外出することなど稀で、でる前日には必ず俺に報告する奴だった。
SNSで連絡を取ってみたが未だに返答は無し。
各部屋や、他の同期や先輩にも聞いたが誰も見ていないとのことだった。
捜索も一旦止めてタバコでも吸いに行こう…
そう思い屋上へと伸びる階段に足を向けた。
愛用のジッポで有害物質に日をつけ煙を肺まで吸い込み吐く。
白い煙が中へと舞い、そして消えた。
彼もこの煙のように消えてしまったのだろうか…。
匂いがする、俺のタバコの臭いではない。
俺の鼻腔に染み付いた、「アメリカンな魂」の匂いだ。
目をこらすと、屋上の端に見慣れた後ろ姿があった。
雪も降っていたから、みんなタバコを吸うときは屋根のある軒で吸うのだが、彼は舞う雪の下に1人佇んでいた。
チリン…
どこからか鈴の音が聞こえたような気がした。
遠目に声をかける。
「何しとん?そんなとこで?」
反応はない。
近づいて初めて気づいたのだが、彼の肩と頭には雪が積もっていた。
いつからここにいたのだろうか?
横から顔を覗き込む。
彼は泣いていた。
これが初めて見る彼の涙だった。
自称涙もろいとは言っていたが、彼が泣いている所は初めてみて驚く。
「…ああ、お前か」
心ない声で呟いた。
そう言うと彼はまた沈黙した。
彼はかなりの愛猫家で、それはわざわざペットショップやホームセンターで猫を眺めては可愛い可愛いと愛でていた。
彼自身も実家で猫を飼っているとは聞いていた。
そうか…死んだのか。
そう思った。
俺は無言で彼に背を向けた。
作者NEKO ARUKU
あの時の同期の顔は今でも忘れられません。