趣味の廃墟撮影から戻って数日が過ぎた頃から、体の調子がおかしくなった。
始終腹が重苦しく、違和感がおさまらない。吐く息は、胃の中のものがそのまま腐っているのではないかと思うほど、生臭くなっている。
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心配になり、会社を休んで近所の病院を訪れた。そこには口は悪いが腕は確かな、私のかかりつけの老医師がいる。
症状を話すと、彼は「レントゲンとってみるか」と言い、病院内にあるレントゲン撮影室に行くよう私に指示を出した。
若い男性のレントゲン医師は実に短時間で撮影を終え、元の診察室の待合室で待つよう告げた。
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しばらく待つと名前を呼ばれ、診察室に入るようアナウンスがあった。
ドアを開け中に入ると、机の前に貼り出したレントゲン写真をじっと見つめていた老医師はちらりと私の方を見、「座りなさい」と言ってまた写真に視線を戻した。
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彼の表情に不安を覚えた私は「どうでしたか」と問うたが、老医師はそれには答えず、逆に「最近変なもの食べたか?」と私に問いかけてきた。
「覚えはない」と答えると、「そうか」と言って小さく溜め息をついてから私の方へ向き直った。
そして彼は私にこう告げた。
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「見てごらん、このレントゲン写真。アンタの腹の中に、人の頭がある。頭蓋骨の感じから見るに若い女かな。アンタがもし、人の頭をまるまる飲み込んだ覚えがないんであれば、悪いことは言わん、すぐに寺にでも行ってお払いでもしてもらうんだな」
作者綿貫一
こんな噺を。