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事件は婆さんひとりのバラバラ殺人から、
複数の被害者が想定される連続バラバラ殺人・死体遺棄事件に変わった。
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だがな、俺たちが頭切り替えて事件に臨もうとしていた矢先、事態は唐突に行き詰っちまった。
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新たな腕、足が発見された日の深夜、ゴミ屋敷は火事になって全焼しちまったんだ。
火元は、佐々木老人の家だった。そっちも全焼、きれいさっぱり焼けちまった。
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佐々木老人の家、俺たちが聞き込みの時に通された応接間の隣の部屋、仏壇のあった部屋から、佐々木老人と思われる遺体と、死後40年ほど経過した成人男性の骨が見つかったよ。
そうだ、大庭の婆さんの失踪した旦那の骨だったんだ。
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後で町内の古くからの住人に話を聞くことがあったんだが、
妻を亡くした佐々木は、どうやら大庭夫人――若い頃のあの婆さん、にご執心だったことがあるらしい。
大庭の旦那の失踪は浮気の上のことではなく、佐々木の犯行だったんだろう。
しつこく迫っても自分になびかない夫人を、無理やり自分のモノにするために。
――これは証言と状況からの推測だがな。
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連続バラバラはどうなったかって?
それはまあ、うやむやになったよ。
なぜって?言ったろ?世の中にはたまに、気味の悪いことが起こるって。
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最初に見つかった「右足」。
風呂場で見つかった「左腕」。
山崎が見つけた「頭部」
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後から新たに見つかったのが
「左腕」2本。
「右足」1本。
「左足」2本。
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今ほどじゃないが、指紋や血液なんかの鑑定は当時もやったさ。
結果は
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すべて「同一人物のモノ」だった。
そういえば、「胸部」や「腹部」はついに見つからなかったな。
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祖父はそういって長い話を終えた。
お銚子はすっかり空になっていた。
私は祖父の話を聞いてすっかり混乱していた。
その様子を見て、祖父は苦笑した。
「気味の悪い話さ」
そう繰り返した。
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「結局、どう決着したのかは下っ端の俺にはわからねえ。
ただ2本も3本も出た足やら腕やらが、すべて同一人物のものでした、なんて怪しげな報告できないってんで、上もうやむやにしちまったんだろう。
だがな、あの日、あの時、俺たちの目の前で確かに起こった事件なんだ」
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「俺は今でも時々思うよ。最愛の亭主が突然失踪して、ゆっくり心が壊れていったあの婆さんが――」
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ゴミ屋敷の玄関にあった大量の靴――
婆さんがいつも着ていたトレンチコートの下――
佐々木老人の家で聞いた、ゴミ屋敷のあの這いずるような家鳴り――
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「一体、なにに『成っちまっていた』のかってな」
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なにか言わなくては、そう思っている私の背後、
網戸を見つめて祖父が顔をしかめた。
「その時から、俺はどうもソイツが苦手だ」
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振り返るとそこには、
大きな百足(ムカデ)が一匹、こちらに腹を見せながらずるずると這っていた。
作者綿貫一
こんばんは。
これにて完結、お付き合いありがとうございました。
また、別の話で。