「中村クンは家が無いんだよ…公園で暮らしてるみたい…」
「中村は靴を履いていないんだ…だから足はいつも真っ黒で凄く臭い」
「中村クンは…」
その頃、僕らの中で流行っていた遊びだったんだ…
【中村】…僕らは彼の噂話に夢中になっていた
【中村】は架空の人物
実際にはいない…
誰がいつから言い始めたかは定かではない
彼の特徴、生い立ち、好きな食べ物…etc
その全てを僕達が造り上げ、そして噂していた
【中村】はいつも汚れた黒いTシャツを着ている、靴は履かない、足が臭い、公園に住んでる、お菓子しか食べない、盗みをする、遊びに来る…
最後の噂…遊びに来るを言ってしまったのは僕だった…
公園で中村にお菓子を一つ持って行って、水場に置く
公園の出口付近まで走り振り返る
そして…
「中村ク~ン、あ~そ~ぼ!!」と大きな声で公園に向かい叫ぶ
「これで【中村】と遊べるんだ!」と鼻高々に僕は言ってみせた
仲間の好奇の眼差しがたまらなかった
一人が呟く
「ねぇ…やってみてよ?」
「え!?」
ギクリとした
まさか自分がやるなんて思ってもみなかった
そして、心の何処かでやってはいけない…と感じつつ僕は仲間の手前やらない分けにはいかないと思い【中村】を呼んだ
来なかった…当たり前の話だこれは作り話だし、【中村】なんていない…と思いつつホッとしていた
その夜…夢を見た…
公園が見える…これは…水場?お菓子が置いてある
ん?誰か来た…
黒いTシャツ…素足……公園…お菓子…あ…
【中村】だ…
小麦色の肌、ボサボサ頭、擦りきれたジーンズ…僕の想像の中の彼そのものだった…
後ろ姿のアングルからゆっくりと振り返る【中村】
夢はそこで終わった
何かが始まった気がした…
次の日の夜、また夢を見た…昨日の続きだ
【中村】の顔が見えた…ニィ…と大きく開いた口から黄色い歯が見え、眉は薄く、鼻は平たく、目は酷く濁っていた
そこで夢は終わった
もうこの夢は見ちゃいけない気がした…
眠るのが怖くなった
寝たら…ヤツが来る…遊びに来る
友達に相談した…しかし冗談で受け流されてしまう…
母さんに話した…夕飯の支度に夢中だ…
一人だと感じた…
そして…また…夜が来る………
深夜…暗い部屋の中で布団をかぶりガクガクと震えていた
噂から全ては始まった…僕は噂の中で彼をイジメ過ぎた…
後悔の念に刈られながらその夜を何とか眠らずに過ごす
次の日…
学校で授業を受ける
大勢の人、教室、昼間、安心感からついウトウトとして眠りに着いてしまった…
夢を…見た…
公園の水場で【中村】が笑いながら何か喋っている……
「今…夜…おま…と……わ……って………る」
…目が覚めた…昼間の教室…大勢人はいるが、恐怖感と妙な孤独感が胸を締め付ける…
今夜…来る…そう思った
部屋でずっと考えていた…どうしたら助かるかを…
一つ妙案が浮かんだ
公園に行って遊ぶのをやめにすれば来ないんじゃないか?
安易な考えだったがすがらずにはいられなかった…
僕は矢の如く家を出て走り出していた
靴を履くのも忘れて…
5分程で公園に着き
僕はなりふり構わず叫び散らした…
「中村ク~ン、ごめんなさい、ごめんなさい、もう二度と噂話なんかしないから…遊びに来ない…で…」
「もう二度と中村クンの事は話さないから…ごめんなさい、ごめんなさい…」
何時間叫び続けただろうか…僕は公園の真ん中で気を失っていた
夢は…
見なかった
目が覚めると太陽の日が眩しく、僕は顔をしかめる…
起き上がり深呼吸…助かった…全てが終わった…そう思った
一晩中叫んでいたせいで喉がカラカラ、土の上で眠っていたから黒のTシャツはドロドロ、靴も履かずに家を出たから足は真っ黒
オマケにジーンズの裾は擦りきれていた…
「…ぷっ」と笑い声を上げつつ水場へ向かう
?
お菓子が置いてある…あまりの空腹感からそれを手に取る…
後ろで声が聞こえた
「どうだい?」
振り返るとそこに【僕】がいた…
「え!?」
【僕】が続ける「昨日…言った通りにしたから…またな…」そう言い残し【僕】は去っていった…
訳がわからず昨日の事を思い返す…
【中村】が言った事…
「今…夜…おま…と……わ……って………る」
「今夜?…お前…とかわ…って…る」
!!
「今夜お前とかわってやる…」
呆然として…自分の姿をもう一度見る…
薄汚れた黒いTシャツ…擦りきれたジーンズ…ボサボサの頭…真っ黒な素足…
水場の水溜まりに顔をやる…黄色い歯に…濁った瞳……
…
………
……………あっ
………【中村】だ……
怖い話投稿:ホラーテラー 独りさん
作者怖話