《前置き》
前回の『結婚披露宴の怪』のお話に出てきた、新郎の友人が10の怖い体験や話をDVDにまとめたものが【十物語】になります。
披露宴では抜粋して3話ほど流していましたが、後日、新郎からDVDを借りれたので1話ずつ紹介していこうと思います。
それでは、始まり始まり…。
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それは、すっかり肌寒くなった10月も終わり頃のことだった。
翌日が仕事休みでバイクで一人ツーリングに出かけることもあり、俺は仕事から帰ってくると夕飯と風呂を早々に済ませて寝ることにした。
だが、どういうわけか、そういう時に限ってなかなか寝付けない。
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何度寝返りを打ったか分からないが、そのうち諦めて布団から這い出ると、会社の先輩から借りていたアダルトビデオのことを思い出してベッド脇にあるサイドテーブルからそれを引っ張り出した。
少し年季の入ったDVDは、ケースに細かいヒビなんかが入っていたがディスクは綺麗なものだった。
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DVDをプレイヤーにセットして再生する。
すぐに、製作会社の名前が出てきたが、あまり聞いたことのない製作会社だった。
それから女優が映し出される。
質素な部屋に白ずくめのベッド、ベッドに座るパンティー姿の女優。
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彼女はベッドの端に腰を下ろしていて、おもむろに足を開くと左手で自分の豊満な胸を揉みしだき、右手はパンティーの中へ潜り込ませて自慰を始めた。
吐息はやがて小さな喘ぎに変わり、そうこうするうちに彼女はパンティーを脱いでしまった。
現れる薄いモザイク。
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それを邪魔だと思っていると男優が現れ、彼女の濡れた秘所を下品な音を立てて舐め始めた。
…ヤバい、己のムスコが窮屈になってきた。
寝間着のズボンごと下着を脱いでムスコを解放。
テレビ画面の中では、女優が男優に舌テクだけでイかされてしまっていた。
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イかされてしまった女優は、今度は男優の大きくそそり立ったモノを口にくわえる。
「…あれって、オエッとならんのかな…?」などと思いつつも、気付けば自分も手を動かして自慰行為に耽っていた。
画面の中は本番へと進んでいる。
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正常位で一気に貫かれ、腰を打ち付ける銃声のような派手な音が部屋に木霊していた。
嬌声を上げる女優。
クライマックスに向けて、自分の手の動きも次第に激しくなる。
女優の嬌声が苦痛めいたものに変わり、俺もそろそろヤバい…となった時。
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ガシャッ!
台所の方から何かが割れる音がして、嫌が応にもビクッ!となった。
画面の中では、すでに行為は終了していて完全に俺は置いてきぼりをくらっていたが、台所を確認しなくてはと思って、下着も着けずに上だけトレーナーという妙な姿で台所へ。
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電気を点けてみると、床でマグカップが割れている。
夕飯のあと、確かに洗ってシンクの上に乗せておいたはずなのに。
すでにムスコはシオシオになっていたので、仕方なく片付けを始めた。
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割れたマグカップの破片を拾い、片付けているうちに台所にある小さな庭へ出ることができる窓の方から視線を感じた。
俺の家は小さなアパートの一階で、狭いながらも庭があり、コンクリートやレンガで出来た塀ではなくて生け垣で通りから目隠しされている。
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なので、犬猫が庭に入ってきてもカサカサと生け垣の枝葉に擦れる音がするものなのだが、そんな音は聞いてない。
視線に顔を上げると、カーテンの隙間から髪の長い女がこちらを見ているのが見えた。
思いきりビビって、その場で俺は固まる。
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「まさか…」と思いつつ、ビビりながらソロソロと窓へ近くと女の姿はない。
「なんだ、見間違いか」とホッとして部屋の時計を見れば、夜中の1時近く。
「早く寝ないと」と、カーテンを閉めようとした時、窓越しに庭の隅に立っている先ほどと同じ女の姿を見た。
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まるで貞子のような風貌の女の、こちらをグワッと睨みつける凶々しい目を見てしまった瞬間、俺はその場で気絶してしまった。
ただ…。
…ただ、その女の容姿がアダルトビデオに出てきた女優に似ていると、薄れゆく意識の中で思っていた。
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「お兄ちゃん!ちょっと!なんで窓際でフリチン姿で寝てんの!?」
妹の怒号のような声と激しい揺さぶりに目を覚ました俺は、朝の寒さにブルッと震えた。
…そういえば穿いてないんだった。
「ほら、パンツ!」
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寝間着のズボンと一体化したパンツを顔に投げ付けられ、俺はいそいそとそれを穿いてから、その場に座る。
妹は近所に住んでいて、時折、一人暮らしの俺を心配して様子を見に来る。
朝食も作ってくれるので、ありがたい存在だ。
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「なんで、あんなところで倒れてたの?」
妹の問いかけに、俺は昨夜の出来事をなるべく詳しく話して聞かせた。
アダルトビデオ云々のくだりは、妹からの呆れたような半眼の視線がグサグサと突き刺さったが、窓辺で見た女の話になると妹は顔をしかめた。
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「借りた先輩に詳しく話を聞いて、然るべく処分した方がいいと思う」
というのが、妹の見解だった。
俺も妹も霊感はないが、なんとなく、そのDVDがヤバいっぽいというのは感じていた。
1人ツーリングは諦め、その日はゆっくり過ごして翌日にDVDを先輩に返すことに。
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「解体が決まったボロアパートから失敬してきたんだよ」
「このDVD買ったんですか?」という俺からの問いに、先輩はこう答えた。
俺の仕事は清掃業で、解体する家の片付けの仕事なんかもよく請け負っている。
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だから、家主が置いていった使えそうなものを貰うというのはよくあるが、今回はさすがに…と思ったので先輩に俺が体験したことを包み隠さず話した。
先輩は「マジか…」と呟いて、DVDの中身をまだ観てないのが残念だが、然るべく処分した方がいいな、と言ってくれた。
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自分でDVD観ないで後輩に貸して感想を聞いてから観るつもりだった、という先輩の話に俺は思わずため息をついたが、仕事帰りに神社に寄ってDVDをお焚き上げしてもらった。
…この上なく行きづらかったのは、言うまでもないが…。
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しかも、お焚き上げするDVDを確認してくれたのが可愛い巫女さんだったので、俺も先輩も羞恥に耐えきれず穴があったら入りたい気分だった。
このことがあってから俺と先輩は、取り壊し予定の家から物を貰うことをやめた。
[おわり]
作者ゼロ
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
十物語、第一夜、いかがでしたでしょうか?
アダルトビデオで怖い体験、なんてあるんですね。
それにしても、誰が住んでいたのかも分からない取り壊し予定の家から物を失敬、って、私ならできません…。