短編2
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恐怖合宿

子供の頃、誰しもが何かしらの不思議な経験をしたことがあると思うのですが、例に漏れず私にも、そういった経験があります。

その体験の中からひとつ、お話させて頂きます。

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私が子供の頃、家の近所に子供たちが自由に出入りでき遊ぶことの出来る施設がありました。

そこでは定期的に色んなイベントや催し物を行っていたのですが、その中でも毎年私が楽しみにしていたのは夏休みになると行われる『恐怖合宿』です。

施設に来る子供たちと事務室に常駐する大人数名で、恐怖映画を観たり、大人ひとりひとりが話す怖い話を子供は声を上げずに聞かなければならなかったり…そんなことを朝が来るまで行うイベントなのですが、合宿後の疲労くるなんともいえない浮遊感がとにかく大好きでした。

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その年も妹と恐怖合宿へ参加し、いつものように恐怖映画をみんなで見終えひと段落したとき

「紗世ちゃん」

名前を呼ばれました。

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声のした右隣には妹がいますが、私と目が合った妹は不思議そうに目をぱちくりさせ

「お姉ちゃん、どうかしたの」

と、私の顔をのぞき込むように聞いてきました。

「さっき、紗世ちゃんって呼んだ?」

妹は首をかしげ、

「ううん、呼んでない」

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確かに妹の声ではなかったような気がします。合宿に参加しているのはほぼ顔見知りなので、もし名前を呼ばれればすぐに相手が分かるはずです。

しかし、不思議なことに名前を呼んだその声がどんな声だったか、思い出せませんでした。

その後すぐ大人たちが語る怖い話が始まり、すっかりその声のことは忘れて話に聞き入っていたのですが、また

「紗世ちゃん」

右隣から、耳元で名前を呼ぶ声が聞こえました。

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大人の話が怖いから、誰かが私にちょっかいをかけてきてるんだ、と思い返事をしないでいると

「紗世ちゃん」

また、次は左隣で声がします。

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途端に寒気がしました。

誰もその場から動いていないからです。

それに、低音の男性とも女性とも取れる声、こんな声は知りません。

子供ではないことは確かです。でも、今ここにいる大人の声でないことも確かでした。

周りのみんなは大人たちの話に夢中です。話をする大人たちにも、声は聞こえていないようでした。

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「お姉ちゃん、こわいの?」

右隣、妹の声が聞こえ、震える手で妹の手を握った

『『 紗世ちゃん 』』

shake

頭の中に、知らないひとの声が、周りの音もかき消してしまうほどの大音量で響きました。

その後のことは覚えていません。

気付いたら朝になっていて、施設の玄関で解散式を行い、いつも通りの浮遊感を連れて家に帰り死んだように眠りました。

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あの声は一体なんだったのか、今でもよくわかりません。

ただ、妹だと思い握った手がぐにゃりと潰れたあの感触だけは、今でも時々思い出します。

Concrete
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