俺は心霊の類を全く信じない人間だった
友人達がよく俺を怖がらせたら勝ち、という企画の下怖い話をしたりしたものだ
そんなある日俺は帰宅の為に夜道を歩いていた
人気の無い駅、人気の無い道、周りは田畑があるだけのド田舎だ
普段なら例の友人達と共に帰るのだが寄るところがあるとかでその日は俺一人だった
友人達について行けばよかったのかもしれないがバイトの疲れで早く帰りたかった
堤防を登り池沿いの歩行者専用の道を歩いていた
すると前方に人が倒れていた
ホームレスや釣りに来て酒飲んで酔い倒れてるおっさんが行き倒れてる事がたまにあるので
「またか…」
と考え関わらないように遣り過ごそうとしたが通りすぎさまに
「待ってくれよ…」
と力無い声で話しかけられた
面倒だが声をかけられた以上無視する訳にはいかない、仕方無く助けることにした
近づいていく内に気付いたがこの男(?)下半身がない、辺りに血はないが確かに下半身がない
街灯が少なくよく見えなかったがこれがテケテケという奴なのだろうか?
友人達がたまに話す幽霊だか妖怪だか、上半身だけなのにものすごいスピードで追いかけてくるらしい、いくつか話があったが共通して上半身だけで追いかけてくるというもの
下半身がちょんぎれて生きてられる訳がない、流石にゾッとしたので逃げる事にした
不意に走りだした俺を見て
「ちょっと待てよっ助けろよっ!」
と叫んでいる、どうやら追いかけてこないようだ
「なんだ…テケテケじゃないのか…?」
橋を渡る途中で足を止めて安堵していた
すると来た道にある数少ない街灯の光に照らされて猛スピードて匍匐前進で近づいていくるモノが見えた
先程ヤツだ
暑いだけじゃない汗が顔を濡らす
ヤバい!第六感が激しく危険を察知している
俺は走りだした、さっきよりも必死でひたすら走った
踏み切りを渡る途中調度真ん中辺りで背後から抱き締められた
上半身だけの筈なのにガッシリと
「捕まえた…もう逃がさない…」
振り返ると薄ら笑いをしている上半身だけの人間、今なら分かる、男だろうか?と考えていたがコイツは女だ
どうすればいいか?パニックになりながら考える、普段ここまで真剣に使わない脳をフル回転させ考える、その刹那――
…―――カンカンカンカン
踏み切りが鳴り始めた、少し間が空いて遮断機も降り始めた
もうなりふり構っている場合ではない、必死にジタバタし振りほどこうとするが振りほどけない
ヤツは気味悪く薄ら笑いをしている
電車が近づいてくる
肘でヤツの顔を殴ろうとした、しかし肘は宙を切る
ヤツが居なくなっていた、電車はもう目前まで迫っている
逃げようと走り出す
――――が
派手に転倒する、振り返るとヤツが薄ら笑いを浮かべながら俺の足首を握っていた
俺の腰の位置は調度車輪が通過する地点
俺は気を失った
気が付いた時、俺は病院のベッドの上だった
俺を見た友人達や母親が涙を浮かべながら喜んでいる
俺は助かったようだ
友人達が先生を呼びに、母親は着替えを取りに帰ると言い残し病室を出た
俺はホッとした、幽霊ってのは本当に存在するんだな、などとしみじみ考えたりしている時、不意に足に違和感を感じた
よくあるパターンだ、足首に手の形をした痣があったりするのだろう
友人達がする話のオチとしてよく聞く
ましてや今は昼過ぎ、幽霊など出やしない、心に余裕ができた俺は布団の中を覗いた
俺はベッドの周りを見渡した
俺の足首を青白い手が掴んでいた
ベッドの周りには人の気配がない
落ち着いて布団の中を再び覗いた
そこには青白い女の顔が薄ら笑いを浮かべながら俺を見ていた
俺はまた気を失った
後日同じ病室に居た老人から聞かされた話だが、昔あの堤防の踏み切りの近くで殺人事件があったらしい
美人だと評判の女性がストーカーにチェーンソーで胴体を切断されたそうだ
しかしそんな事件は聞いた事がない、作り話ではないかと老人に訪ねると老人は溜め息をつき
「本当に残忍な事件は報道規制されるものなんだよ…ワシはたまたま事件当時現場の近所で将棋を打っていただけじゃ…」
リアリティーをあまり感じられないが納得してしまった
余談だがその踏み切りにはまだ別な噂がある
遮断機も降りずサイレンも鳴っていないのだが踏み切りの中間地点まで来ると突然電車が現れ事故が起きると言うもの
近くにある地蔵はそれが原因で設置されたとか
今でも俺はあまり幽霊は信じない
しかし俺が体験したのは紛れもない現実
今でも足首にはうっすらと痣が残っている
皆さん、N県にある堤防の踏み切り周辺にはお気をつけを…
怖い話投稿:ホラーテラー 奈須さん
作者怖話