wallpaper:70
ひとつ、
ふたつ、
淡く照らし始めた、仄かな灯り。
何処か儚く暖かい『色』は、それを厳かに照らしだしていた。
nextpage
wallpaper:70
さびれた田舎町。すれ違う人もまばらなこの街に、私は戻ってきた。
都会に夢を追いかけてはみたものの、芽が生えることもなく、朽ちて消えた。
結局、夢は夢と割り切るほかなかった。
nextpage
暫くぶりの地元は、どこが変わるという事もなく、私を受け入れてくれた。
空気の匂いも、遠くで聞こえる鴿の声も、緑しか見えないこの景色でさえ。
変化がない。そう、これが私の、ココを出た理由
nextpage
wallpaper:70
懐かしいなぁと感慨にふけっている時だった。
その景色の中、ところどころに見える薄桃色に目が奪われたのは。
nextpage
自然とそちらに足がむいていた。川沿いの道、アスファルトの上をコツコツと音を立てるハイヒール。
この街を出るときは持ってすらいなかったのに、都会を離れた今、この街に不似合いなものを持って帰っている。
(皮肉だねぇ。)
こぼした言葉は誰が聞くでもなく、風と戯れ、霧散した。
nextpage
水の音が強くなるに連れ、足元は舗装のされていない土道に変わった。少しぬかるんでいるのか、歩き辛い。油断したら、転んでしまうだろう。
それなのに、歩を進める足は止まることはなかった。
nextpage
wallpaper:70
空が次第に青みがかる。
山の裾がオレンジへと変化するのを横目に、眼前の光景に息を飲んだ。
nextpage
水音激しく落ちる湖面を背景に、こちらも変わらぬままの少々手狭な広場があった。ここは幼い頃、友人たちと走り回って、夢を語り合った思い出の場所。
やはりここにも人の痕跡は見当たらなかった。
nextpage
そばには匂い立つが如く咲き誇る桜の大樹。
風が吹く度にハラリ、ヒラリと舞う花弁は木が流す涙のようだった。
nextpage
(再会の涙、てか?)
柄にもない。
浮かんだ言葉を鼻で笑いながら、ポケットの中の煙草を手繰りよせ、そのうちの一本に火を灯す。
なぜか吸う気にもなれず、ただただ上る煙を眺めれば、目の前の桜さえ青に染まって見えた。
nextpage
wallpaper:70
ふわりと風が動いた。
自分の姿さえ暗い色に変わっていたというのに、如何だろう。
ひとつ、
ふたつ、
ポツポツと空(くう)に明かりが灯る。
nextpage
人っ子ひとりいないこの場所で。
明かりを灯すものなど何もないのに。
数えているわけではないけれど優に20以上の光源がふわりふわりと空を舞う。
nextpage
あれは橙、これは水色、あっちにあるのは紫に見える。個々によって色合いが違い目を楽しませてくれた。
nextpage
その一つに指先で触れると、手元は一段と明るく、温かみさえ感じた。そして、風と滝の水しぶきの音に混ざって聞こえる、老若男女様々な、小さな笑い声。
とても優しく、暖かで…少しの切なさをもたらした。
nextpage
wallpaper:70
ジジッ
shake
「あっづ!」
時間を忘れて眺めていたからどれくらい経ったか分からないが、手慰みに弄んでいた煙草が熱とともに地面へと落ちた。
nextpage
同時に辺りを彷徨っていた仄かな灯りもまた、蠟燭の火を吹き消したように消え去り、残ったのは地を這うような水の音のみだった。
nextpage
私はあの夜起きたことが何だったのか…今でもわからない。
ただ、思うのだ。
久方ぶりに戻った私に、
おかえり、と言ってくれたのではないかと。
ナニが、って?
さあ?何だろうね。
あなたは何だと思う?
作者まこと-4
処女作。何故か和製マッチ売りの少女(アダルト)に…怖い話ではないですね。怖くないので、お嫌な方がいましたら申し訳ない。