僕は、現在大学の講義を受けている真っ最中である。にも関わらず、僕は全く講義とは関係ないことを考えていた。
その考えていることとは、いまこの街で起きている殺人事件のことである。それも連続殺人。
まあ自分の住む街で殺人事件が起こったりすれば誰でも興味を持つだろう。
しかし、その連続殺人事件の犠牲者がでたのはもう三週間も前のことで、いまだ捕まっていない犯人に対し恐怖の感情を持つものがいてもわざわざ話題にだすようなものはいないだろう。
人の興味なんてすぐに他にうつっていくものだ。
しかし、僕はいまだにその事件に興味を持っている。
それはなぜか。
僕がオカルト研究部に入っているからだ。
「ミステリー」ではなく、オカルトである。
なぜオカルト研究部が実際に起こっている事件に興味を持つのかというと、その事件の犠牲者がとても奇妙な死に方をしているとの情報が得られたからだ。
といっても、別に警察が公式に発表したわけではなく、人づてに聞いた話なので信ぴょう性は皆無である。
しかし、我らがオカルト研究部は、その実致命的な「ネタ切れ」に悩まされていた。
そもそもオカルト研究部といっても、別に夜中の2時に集まって魔法陣を囲って怪しい呪文を唱えたりなどせず、ただ単にホラー映画や小説が好きな人間なんかが集まって、「なになにという本が面白い」とか「これこれという面白そうなホラー映画を借りてきたからいっしょに見よう」などと談笑しながらコーラを喉に押し込み、スナックをむさぼっているような平和なもので、他にも実際に起きたと言われる超常現象なんかやオカルトに分類されるような出来事、クトゥルフ神話なんかについて考察を述べたり、適当な理屈をつけたりなんかしているのだ。
しかし、大して真面目に勉強もしない大学生なんて暇なもので、バイトも、ホラー関係いがいにこれといった趣味も持たない人間は、大量に暇な時間を持っている。
その暇を潰すためにオカルトのネタを使い続け、めぼしいホラー映画や小説はあらかた読み終えてしまい、オカルト事件に関する考察も似たような意見ばかりでる始末で、オカルト研究部の部室は、外に「オカルト研究部」という看板を掲げたただのダベり場のようなものになっていた。
そんな状態だったから、我々は例えガセネタであっても、そのガセネタが話題の連続殺人事件がオカルトにつながるようなものであるのなら飛びつかねばならなかった。
僕だって心の底では幽霊など信じていないし、そもそもたいていの漫画や小説、テレビや映画は言ってしまえば「ウソ」の物語で、オカルトもそれと同じものだと考えている。
それでも、僕は「怖い」ものが好きでオカルト研究部なんて傍から見れば陰気臭いだけの部活に入っているのだから、こうして新たなネタが転がってくれば嬉しいものだし、だからこそ三週間もたっているのに講義の時間を潰してまで事件のことを考えている。
って、まだ「奇妙な死に方」について説明してなかったな。
そう、その「奇妙な死に方」というのは、首なし死体だ。
ときたまバラバラ殺人事件があったとか、何年か前に起こった事件が解決したとか報道されるが、その手の事件とは少し違う。
なにせ、その死体は「切断」されたのではないのだ。それで出てくるのはミステリー研究部だ。
発見された死体は、まるで首根っこをつかまれてそのままもの凄い力で引きちぎられたかのような状態で発見されたという。
そして、胴か、もしくは首の方の、どちらかが必ずなくなっているというのだ。
こう来られると、我々オカルト研究部も乗り出さずにはいられない。
人ではない、人では成し得ないことをする、人とは違う何かがその犯行を行ったのだ、と。
不謹慎なのはわかっている。
しかし、どうせ庶民のほうも同じようなものだ。
主婦であれば「怖いですね〜」などとご近所づきあいの際の話題としてだすだけ出して、一、二時間もすればそんな話忘れてのんきに紅茶でも飲んでいて、そうして夜になると帰ってきた夫と子供に夕飯をだしながら、「あの連続殺人事件の犯人、まだ捕まってないんですって」などと話し出すのだ。
どっちも同じようなものだ。
などとゴチャゴチャ考えているうちに講義が終わってしまった。
今日の講義はこれでおしまいだから、もう帰る他にない。今日は部活動も無いし。
バッグの中に、だしてから1度も使わずに置きっぱなしだったペンとノートを詰め込み、バッグを引き上げて講堂をあとにする。
それから駅まで、友達の少ない僕は誰一人知り合いに会わず、電車に揺られて二十分、次は僕の住むアパートまで、歩いて十分。
アパートに着き、鍵を開け、部屋にはいる。ドカッと床に座り込み、いつもどおりテレビの電源をつける。
それから十秒ばかりボーっとしていたがテレビでやっている報道番組のキャスターの発言に僕は耳を疑い、さっと顔をあげてテレビを凝視する。
テロップがでており、その内容は「○○街の連続殺人事件に新たな犠牲者」。
しかし、僕の耳に入ってきた最も重要な情報はそれではない。
約三十秒、テレビから目が離せなかった。
三十秒たってから、壁に寄りかかり、額に手を当てて、僕はつぶやく。
「・・・麗子?」。
三十秒前に、テレビに連続殺人事件の4人目の犠牲者として映し出されていたのは、僕が高校生であった頃、僕の彼女だった女性だった。
作者チェル公
新しく考えた物語がかなり長くなりそうなので連載という形にさせてもらいます。
長編です。
コメディ要素なしのホラーです。