中編6
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箱の中身

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私は友人と賭けをしている。

賭けと言っても二束三文の安値だ。

明日の夜、今日の事を肴に友人と呑めば終わる程度である。

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内容は至って簡単。

明日の朝、友人が取りに来るまで預かっている箱を開けない事。

立方体の箱は意外と大きく、ホールケーキ2つ分以上はある。

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先ほど友人と飲み屋で別れ、自宅まで少し重いこの箱を持って帰ったのが深夜0時過ぎ。

風呂に入って軽く酔いを醒まし、酒を飲もうか水を飲もうかと考えている今が1時前。

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テレビの深夜番組をボーっと見ていると、友人からメールが来ていた。

『箱は開けてないよな?』

あぁ、もちろんだ。なんなら今まで忘れていた。

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テーブルに置くと邪魔なので、部屋の隅に置かれている。

黒い箱は蓋がガムテープでしっかりと固定されており、一度でも開ければ跡が残ってバレてしまうだろう。

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それにしても、結局これはなんなのだ?

ヤバい物じゃないか再度確認するも、友人はのらりくらりと返事を濁す。

これも作戦なのだろう。

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まあ開けてしまっても良いのだが、せっかくなのでこの遊びを楽しもうと思った。

テレビを消して箱をテーブルの上に持ってくる。

やはり少し重い。

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傾けると中身が軽く移動する。

箱ギリギリの大きさでは無いらしい。

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箱には特になにも書いておらず、臭いもしない。

ううん、まったく見当が付かない。

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それにしても今日は冷えるな。

春だというのに部屋はうすら寒く、出しっぱなしだったヒーターを点けたくなる。

コップの水が無くなったので冷蔵庫に取りに行くと、キッチンの小窓が開いていた。

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いつ開けたんだ?

いつも開ける事が無いその窓は、少しの隙間から冷たい風を送り込んでいる。

気持ち悪くなってすぐに窓を閉め、冷蔵庫から出した水を一気に飲み干した。

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『そろそろなにかあった頃か?』

ついでにトイレを済まし出て来た時、また友人からのメールが来た。

面白がりやがって。

窓の事を話そうかと思ったが、馬鹿にされるのがオチなので止めておく。

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「なっ……」

リビングに帰って来た時、箱がテーブルの下に落ちていた。

確かに机の上に置いたはずだ。

落ちる程端には置いていない。

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まさかあいつ生き物を入れてるのか?

いや、それにしては静かすぎる。

遠隔操作?

そこまでするような奴か?

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落ちた箱をテーブルに戻し、テレビの電源を入れる。

怖くなったわけでは無い。

ただ、少し気分を変えたかった。

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…………

………

……

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チャイムの音で目が覚める。

テレビを見ていたらいつの間にか寝ていたようだ。

もうあいつが来たのか。

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目を開けて時計を見ると、時刻は2時半。

昼の訳はない、まだ窓の外は真っ暗だ。

こんな時間に誰だ?あいつの嫌がらせか?

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まあそんな所だろうと玄関へ向かう。

あいつのせいで変な妄想をしてしまう所だった。

一言文句を言ってやらねば。

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扉を開けようとした時、もう一度チャイムが鳴る。

せっかちな奴だ、少しぐらい待てないのか。

「はいはい、今出るよ」

私は眠い目を擦りながら扉を開けた。

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…………

………

……いない。

誰もいない。

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チャイムを押して逃げた?

しかしここは古いアパートの2階だ。

階段を降りればその音はここまで響く。

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私はすぐに扉を閉め、妙な視線を感じて後ろを振り向く。

もちろん誰もいない。

リビングのテーブルの上にはちゃんとあの箱がある。

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その時、付きっぱなしのテレビから速報の音が鳴る。

地震でもあったのかと思い目をやると、小さな文字で事件の情報が流れていた。

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そう言えば昨日、この辺りで殺人事件があったのだ。

男が殺され、身体をバラバラにされたらしい。

今の速報は身体の一部が見つかったとの情報だった。

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嫌な想像が頭から離れない。

まさかとは思うがこの箱の中身は……。

そう思ってから溜息と共に笑いを吐き出した。

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馬鹿らしい、そんな訳があるはずない。

そうだとしたら、今頃酷い臭いで耐えられなくなっているはずだ。

私は友人にメールを送る。

この箱はどこで手に入れたんだ?それくらい教えろと。

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返事は3文字だけ。

しかしそれは私の強がりを壊すのには充分だった。

『拾った』

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嘘だろ?私にこの箱を開けさせたくて言っているんだ。

あんな事件があった事も知っていて、私をミスリードしている。

頭では分かっていても、可能性がある限り安心は出来なくなった。

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そもそも死体は本当に臭いのか?

私は実際に嗅いだ事がある訳じゃ無い。

なにか臭いのしない方法があるのかも知れない。

頭、だとしたら丁度それぐらいの重さだ。

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考え始めればキリがない。

今自宅のテーブルの上にある箱の中には、もしかしたら知らない男の生首が入っているかも知れないのだ。

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時計が3時を指したころ、私は耐えられなくなって友人に電話した。

コールが1度、2度、3度と鳴る。

出ない、あいつこのタイミングで寝ちまったのか?

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呼吸荒くイライラと足踏みをする。

チラチラと目線を箱にやり、動きはしないかと監視する。

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動く?生首なら動きはしない。

いや、さっき動いたじゃないか。

違う、違う違う。動いたんじゃない、落ちただけだ。

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電話が留守電に繋がり、私は苛立ちと共に携帯をベッドに投げる。

何度も時計を見るが、時間は一向に進まない。

朝まであと何時間だ?あいつは何時に来る?

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…………

………

……開けてしまおうか?

箱が乗ったテーブルの周りを何度も回っていると、ふとそんな考えに行きついた。

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別に賭けなんてどうでもいい。

負けてしまってもどうせはした金だ、くれてやればいい。

こんな気分になるぐらいなら、いっそ今楽になってしまおう。

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どうせ中身は下らない物だろう。

そこそこの重さの有る何かと、私へのメッセージ。

そんな所だ。

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箱のテープに手を置き、端から捲っていく。

しかしその時、頭の中が嫌なイメージでいっぱいになった。

この箱を開けた瞬間、中にある生首がこっちを睨んでいるのだ。

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「うわっ!」

箱を放して後ろに飛び跳ねる。

怨むような目でこっちを睨む目が、頭から離れない。

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「おい!私はなんにもしてないぞ!?この箱を預かっただけだ!」

箱に向かって大きな声で叫ぶ。

もちろん、箱が動く事も、ましてや返事をする訳も無い。

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落ち着け、冷静になれ。

水でも飲もうと冷蔵庫へ向かう。

先ほど使ったコップが流しにあるので、それを手に取って冷蔵庫を開ける。

冷蔵庫から漏れた光がコップを照らし、ベッタリと付いた赤い血を映し出す。

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「うわああああ!」

私はコップを床へ投げ捨てて後ずさった。

なんで血が?なんでコップに……。

気が付くと私の両手は血で染まっていた。

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「あ、あぁぁ……」

急いで手を洗おうと流しの水を出す。

乱暴に手を擦り合わせ、近くにあったタオルで手を拭う。

その時、台所の下の収納棚が少し開いている事に気付く。

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見てはいけない、そんな気がするのだ。

しかし、本当に見ないままこの場を離れる事は出来なかった。

ゆっくりと目だけを動かしていく。

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不意に思考が停止した。

開いた扉の間から、青白い手が生えて手招きしていたのだ。

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「ひいいい!あっ!ああああ!」

パニックになり、後ろの食器棚にぶつかりながら転んでしまう。

駄目だ、あれは本物なんだ。

このままじゃ私は……。

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気付いた時には身体が動いていた。

玄関に駆け寄った私は、靴も履かずにドアノブに手を掛ける。

ガチャガチャとノブを回すも開かない。

クソ、鍵が掛かっている。

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「速く!速くしないと!開け!開けよおおお!」

「おいおい、俺を置いて行くなよ」

後ろから聞こえた声に反射的に顔を向けてしまう。

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私の足元には、血で染まったどす黒い箱が置いてあった。

蓋は開いており、あいつの生首が恨みの籠った目で私を睨んでいる。

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「ああああああああ!」

「あの部屋です!」

「拙い!錯乱状態だぞ!」

「おい!警察だ!大人しくしろ!」

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私は大勢の警官に取り押さえられた。

Concrete
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はなさん、コメントありがとうございます。
お返事遅れてすいません。
褒めて頂けて嬉しいです。
これからもちょいちょい投稿させて貰いますね。

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いや~ほかの作品といい、上手いですね(≧▽≦)
発想力が素晴らしい!!ドキドキさせていただきました******♬♪

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