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私は友人と賭けをしている。
賭けと言っても二束三文の安値だ。
明日の夜、今日の事を肴に友人と呑めば終わる程度である。
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内容は至って簡単。
明日の朝、友人が取りに来るまで預かっている箱を開けない事。
立方体の箱は意外と大きく、ホールケーキ2つ分以上はある。
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先ほど友人と飲み屋で別れ、自宅まで少し重いこの箱を持って帰ったのが深夜0時過ぎ。
風呂に入って軽く酔いを醒まし、酒を飲もうか水を飲もうかと考えている今が1時前。
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テレビの深夜番組をボーっと見ていると、友人からメールが来ていた。
『箱は開けてないよな?』
あぁ、もちろんだ。なんなら今まで忘れていた。
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テーブルに置くと邪魔なので、部屋の隅に置かれている。
黒い箱は蓋がガムテープでしっかりと固定されており、一度でも開ければ跡が残ってバレてしまうだろう。
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それにしても、結局これはなんなのだ?
ヤバい物じゃないか再度確認するも、友人はのらりくらりと返事を濁す。
これも作戦なのだろう。
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まあ開けてしまっても良いのだが、せっかくなのでこの遊びを楽しもうと思った。
テレビを消して箱をテーブルの上に持ってくる。
やはり少し重い。
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傾けると中身が軽く移動する。
箱ギリギリの大きさでは無いらしい。
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箱には特になにも書いておらず、臭いもしない。
ううん、まったく見当が付かない。
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それにしても今日は冷えるな。
春だというのに部屋はうすら寒く、出しっぱなしだったヒーターを点けたくなる。
コップの水が無くなったので冷蔵庫に取りに行くと、キッチンの小窓が開いていた。
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いつ開けたんだ?
いつも開ける事が無いその窓は、少しの隙間から冷たい風を送り込んでいる。
気持ち悪くなってすぐに窓を閉め、冷蔵庫から出した水を一気に飲み干した。
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『そろそろなにかあった頃か?』
ついでにトイレを済まし出て来た時、また友人からのメールが来た。
面白がりやがって。
窓の事を話そうかと思ったが、馬鹿にされるのがオチなので止めておく。
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「なっ……」
リビングに帰って来た時、箱がテーブルの下に落ちていた。
確かに机の上に置いたはずだ。
落ちる程端には置いていない。
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まさかあいつ生き物を入れてるのか?
いや、それにしては静かすぎる。
遠隔操作?
そこまでするような奴か?
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落ちた箱をテーブルに戻し、テレビの電源を入れる。
怖くなったわけでは無い。
ただ、少し気分を変えたかった。
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…………
………
……
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チャイムの音で目が覚める。
テレビを見ていたらいつの間にか寝ていたようだ。
もうあいつが来たのか。
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目を開けて時計を見ると、時刻は2時半。
昼の訳はない、まだ窓の外は真っ暗だ。
こんな時間に誰だ?あいつの嫌がらせか?
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まあそんな所だろうと玄関へ向かう。
あいつのせいで変な妄想をしてしまう所だった。
一言文句を言ってやらねば。
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扉を開けようとした時、もう一度チャイムが鳴る。
せっかちな奴だ、少しぐらい待てないのか。
「はいはい、今出るよ」
私は眠い目を擦りながら扉を開けた。
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…………
………
……いない。
誰もいない。
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チャイムを押して逃げた?
しかしここは古いアパートの2階だ。
階段を降りればその音はここまで響く。
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私はすぐに扉を閉め、妙な視線を感じて後ろを振り向く。
もちろん誰もいない。
リビングのテーブルの上にはちゃんとあの箱がある。
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その時、付きっぱなしのテレビから速報の音が鳴る。
地震でもあったのかと思い目をやると、小さな文字で事件の情報が流れていた。
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そう言えば昨日、この辺りで殺人事件があったのだ。
男が殺され、身体をバラバラにされたらしい。
今の速報は身体の一部が見つかったとの情報だった。
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嫌な想像が頭から離れない。
まさかとは思うがこの箱の中身は……。
そう思ってから溜息と共に笑いを吐き出した。
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馬鹿らしい、そんな訳があるはずない。
そうだとしたら、今頃酷い臭いで耐えられなくなっているはずだ。
私は友人にメールを送る。
この箱はどこで手に入れたんだ?それくらい教えろと。
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返事は3文字だけ。
しかしそれは私の強がりを壊すのには充分だった。
『拾った』
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嘘だろ?私にこの箱を開けさせたくて言っているんだ。
あんな事件があった事も知っていて、私をミスリードしている。
頭では分かっていても、可能性がある限り安心は出来なくなった。
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そもそも死体は本当に臭いのか?
私は実際に嗅いだ事がある訳じゃ無い。
なにか臭いのしない方法があるのかも知れない。
頭、だとしたら丁度それぐらいの重さだ。
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考え始めればキリがない。
今自宅のテーブルの上にある箱の中には、もしかしたら知らない男の生首が入っているかも知れないのだ。
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時計が3時を指したころ、私は耐えられなくなって友人に電話した。
コールが1度、2度、3度と鳴る。
出ない、あいつこのタイミングで寝ちまったのか?
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呼吸荒くイライラと足踏みをする。
チラチラと目線を箱にやり、動きはしないかと監視する。
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動く?生首なら動きはしない。
いや、さっき動いたじゃないか。
違う、違う違う。動いたんじゃない、落ちただけだ。
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電話が留守電に繋がり、私は苛立ちと共に携帯をベッドに投げる。
何度も時計を見るが、時間は一向に進まない。
朝まであと何時間だ?あいつは何時に来る?
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…………
………
……開けてしまおうか?
箱が乗ったテーブルの周りを何度も回っていると、ふとそんな考えに行きついた。
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別に賭けなんてどうでもいい。
負けてしまってもどうせはした金だ、くれてやればいい。
こんな気分になるぐらいなら、いっそ今楽になってしまおう。
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どうせ中身は下らない物だろう。
そこそこの重さの有る何かと、私へのメッセージ。
そんな所だ。
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箱のテープに手を置き、端から捲っていく。
しかしその時、頭の中が嫌なイメージでいっぱいになった。
この箱を開けた瞬間、中にある生首がこっちを睨んでいるのだ。
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「うわっ!」
箱を放して後ろに飛び跳ねる。
怨むような目でこっちを睨む目が、頭から離れない。
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「おい!私はなんにもしてないぞ!?この箱を預かっただけだ!」
箱に向かって大きな声で叫ぶ。
もちろん、箱が動く事も、ましてや返事をする訳も無い。
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落ち着け、冷静になれ。
水でも飲もうと冷蔵庫へ向かう。
先ほど使ったコップが流しにあるので、それを手に取って冷蔵庫を開ける。
冷蔵庫から漏れた光がコップを照らし、ベッタリと付いた赤い血を映し出す。
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「うわああああ!」
私はコップを床へ投げ捨てて後ずさった。
なんで血が?なんでコップに……。
気が付くと私の両手は血で染まっていた。
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「あ、あぁぁ……」
急いで手を洗おうと流しの水を出す。
乱暴に手を擦り合わせ、近くにあったタオルで手を拭う。
その時、台所の下の収納棚が少し開いている事に気付く。
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見てはいけない、そんな気がするのだ。
しかし、本当に見ないままこの場を離れる事は出来なかった。
ゆっくりと目だけを動かしていく。
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不意に思考が停止した。
開いた扉の間から、青白い手が生えて手招きしていたのだ。
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「ひいいい!あっ!ああああ!」
パニックになり、後ろの食器棚にぶつかりながら転んでしまう。
駄目だ、あれは本物なんだ。
このままじゃ私は……。
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気付いた時には身体が動いていた。
玄関に駆け寄った私は、靴も履かずにドアノブに手を掛ける。
ガチャガチャとノブを回すも開かない。
クソ、鍵が掛かっている。
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「速く!速くしないと!開け!開けよおおお!」
「おいおい、俺を置いて行くなよ」
後ろから聞こえた声に反射的に顔を向けてしまう。
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私の足元には、血で染まったどす黒い箱が置いてあった。
蓋は開いており、あいつの生首が恨みの籠った目で私を睨んでいる。
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「ああああああああ!」
「あの部屋です!」
「拙い!錯乱状態だぞ!」
「おい!警察だ!大人しくしろ!」
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私は大勢の警官に取り押さえられた。
作者R-13
自分なら持って帰って来て家の外に置きますね。車の中とか。