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二組の石井君は人間じゃない。
これは噂なんかじゃなく、誰もが知っている事。
先生も生徒もみんなそう言っている。
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転校してから一ヶ月。新しい学校にようやく慣れてきた頃、私はその石井君に興味を持った。
人間じゃないなら、なんなのだろう。
単純な興味から、彼がいる隣のクラスに見に行った。
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そこには誰からも相手にされない、孤独な少年がいただけだった。
いじめだ、私は涙が出そうになりながらそう思った。
私にも覚えがある。ちょっとした事で無視され、仲間外れになるのだ。
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少しだけ勇気を出して友達に聞いてみた。
「なんで石井君はいじめられてるの?」
その問いに対して返された言葉は、私が予想もしていなかったものだった。
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「だって人間じゃないのよ?」
目の前にいる友達が知らない子に見えた。
さも当たり前だという顔で、それが理由だと、他になにがあると困惑している。
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誤解の無い様に言っておくが、その友達は普段はとても良い子なのだ。
転校したばかりの私に親切にしてくれた。
毎日一緒に遊んで、お泊りだってした。
だからこそ、ショックだった。
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でも私はなにも言えない。
そんな勇気は無い。
だって彼を庇えば、今度は私がいじめられるのだ。
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家に帰ってママに相談してみる。
「石井君って子がいてね?いじめられてるみたいなの」
ママの表情は見た事がない程に冷たかった。
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「その子は人間じゃないから関わっては駄目よ」
まるで怒られている様な感覚だ。石井君の話をした事自体が駄目だとでもいうのか。
その日のご飯は全然美味しくなかった。
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お風呂に入っている時、思い出して少し涙が出た。
悲しくて悔しい。だって私も、石井君だって悪くない。なのになんで?
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意地になっていたのだ。
でないと私が自分から男の子に話し掛けるなんてするわけが無い。
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「い、一緒に帰らない?」
次の日の放課後、私の震えた声は一人の少年を呼び止めた。
黒いランドセルに目深に被った白い帽子。背は私の方が少しだけ高い。
真っ直ぐに私を見つめる彼の目は、驚きと同時に私を値踏みしている様でもあった。
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「君は......」
少し困った顔をした彼が、次の言葉を紡ぐ前に、私は恥ずかしくて泣いてしまった。
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「ご、ごめん。泣かないで?」
そう言った石井君の声は優しくて、そのせいでまた涙が出た。
校門を出てまだ少し歩いただけ。
チラッと石井君を見ると、恥ずかしそうに笑いながら、じゃあ一緒に帰ろうかと言ってくれた。
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結局それから一言も会話はなかったけど、私の家に着いた時、またねって言ってくれた。
名前も言えなかった。
だけど少しだけ、誇らしい気持ちになった。
勇気を出せたから。
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家に入ると、ママが鬼の様な顔で私に詰め寄った。
窓から石井君と帰っていたのが見えたらしい。
凄く怒られて、初めて叩かれた。
痛くて、悲しくて、悔しい。昨日よりももっと最悪な夜だった。
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一晩寝て、気持ちが落ち着いた頃。未だ機嫌の悪そうなママを見て、無性に腹が立った。
私は間違ってない。
だから今日も......。
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放課後、私は石井君と二人でお話をした。
ボロボロのお家。人が住んでいないらしいここは、石井君の秘密の場所だ。
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学校でこっそり渡した手紙の返事。
一緒には帰れないけど、ここで話そう。そんな言葉と一緒に地図が描かれていたのだ。
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色んな話をした。
何時もはあまり話さない私だけど、何故か石井君にはスラスラと話せた。
好きなテレビや漫画の話。石井君はずっとニコニコしながら聴いてくれた。
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それからというもの、私達は放課後になると毎日の様にオンボロな秘密の場所でお喋りをした。
石井君はあまり自分の事は話さないが、私が話すと楽しそうに笑う。
多分私は、彼の事が好きだった。
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会えば会うほど、何故石井君がいじめられているのか分からなくなる。
一緒にいてここまで心地良い人は他にはいなかった。
あんなに好きなママより、新しく出来た友達より、誰よりも隣にいてしっくりくる。
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だからこそ聞いてしまった。今まで聞けなかった一言を。
「なんで石井君はいじめられてるの?」
聞いてから後悔したが、石井君は思ったよりも淡々と答えた。
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「だって人間じゃないから」
私は悲しくなって、石井君は人間だよって泣いた。
そしたら石井君は私の頭を撫でながら、そうだねって言った。
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その次の日。石井君は学校に来なかった。
先生が言うには、転校したらしい。
学校のみんなが喜んでいた。
私はそれが怖くて仕方なかった。
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授業を抜け出し、石井君の、二人の秘密の場所へ向かう。
そこにはやっぱり石井君はいない。けど代わりに手紙が置いてあった。
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ぼくは人間じゃない
この世界の人達の事を人間と言うのなら
ぼくは人間じゃない
ぼくはぼくの世界に帰りたかった
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そして今、やっと帰ることが出来る
帰り方を教える事は出来ないけど
君にもいつか帰ってきて欲しいと思ってる
ありがとう、友達になってくれて
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本当に石井君が行ってしまった悲しさと、周りの全てのものが異質に見える恐怖で頭が割れそうになった。
石井君は人間じゃない。
そして私も......。
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学校に戻った私に対し、先生は怒らなかった。
授業をサボって学校から出たのにだ。
友達も私と目を合わせない。
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その日からこの世界に私の居場所は無くなった。
人間じゃない私は、人間であるこの世界の人達とは違うから。
ママも友達も、先生も。
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いつか彼に、石井君に会いに行く。
それが私の生きる理由だ。
作者R-13
初投稿です。まだ全然空気読めてないので、場違いだったらすいません。