ローソクを嫌う男(Lに捧ぐ)

中編4
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ローソクを嫌う男(Lに捧ぐ)

「百物語ですか。怖い話をするごとにローソクを消していくというあれですね。誘ってくださるのはありがたいのですけど、どうも苦手で。今晩は遠慮するということで。」

「イベントがあれば参加したい、とおっしゃってなかったですか?」

「怪談は好きですよ。聞くのも話すのもね。でも、私はローソクってやつが嫌いで。」

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 確かに話すのが好きなようで、ローソクを嫌うわけを話してくれた。

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 昔、彼が引っ越したアパートの部屋に入ると、煙の臭いが漂ってきたそうだ。

 ここは禁煙のはずだが、と管理人に言うと、

「博士というあだ名の人ですよ。 健康のためとかで、ローソクをずっと灯して、煙草じゃないって。 火事が危ないと言っても、聞く耳持ちません。 追い出せるようなことはしてませんが、付き合いは考えた方が良いですよ。」

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 ところがその後、彼は「博士」と親しくなり、互いの部屋を行き来する間柄になった。

 妙なことに、「博士」は、彼の部屋に来るときもローソクを持ってくる。ローソクを灯したまま、風で火が消えないよう厳重に容器に入れて。

 そんなことをする本当の理由を教えてもらえたのは、「博士」が亡くなる直前のことだったらしい。

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「博士」は、入院していたとき、大部屋の病室で見知らぬ男を見かけることがあった。

 その男は頻繁に出入りしているのに、ほかの患者も、家族も、病院のスタッフさえ、誰も気が付かないようだった。

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 ある日の深夜、誰かが、手にローソクを持って、音もなく病室に入って来た。

 それに気が付いた「博士」だが、声をあげることも動くこともできなかった。

 そして、ローソクで照らされた顔を見て、例の男であること、その男がこの世の者ではないことを悟った。

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 ローソクは今にも消えそうな長さだった。

 その男が、隣のベッドの患者の耳元で何か囁いたとたん、火はふっと消え、辺りは真っ暗になった。

「博士」は、気絶するように深い眠りに落ちた。

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「博士」が目覚めると、隣のベッドは空になっており、病院のスタッフから「朝早く退院されましたよ」と告げられた。

 夜の出来事を思い出し「博士」がベッドで考え込んでいると、いつの間にか、傍らに例の男が座っていた。

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「私が見えますね。あなたは、よくお分かりのようだ。それなら、あなたに選ぶ機会を差し上げましょう。」

 男は、どこからか火の点いたローソクを取り出し、そばの机に置いた。

「あなたのローソクです。今夜消えますので、迎えに参ります。しかし、この火を別なローソクに移していけば、それらの火がすべて消えるまで、あなたが死ぬことはありません。ただし、移した火がすべて消えたときには、あなたは、私の自由にさせていただきますよ。」

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「博士」は、それが18年も前の話で、本当はその時に死んでいたのだと言った。 自分の部屋にある沢山のローソクの火も、持ち歩くローソクの火も、すべてその時のローソクの火から灯し続けているものだと。

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 彼が「博士」からその話を聞いた夜、今でいうゲリラ豪雨だろうか、急に一帯が暴風雨に襲われた。

 彼の部屋は、飛んできた瓦に窓を割られ、横殴りの雨に水浸しにされたが、「博士」の部屋もひどかったらしい。

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 かろうじて火の点いているローソクを持って駆け込んできた。

「助けてくれ! 窓がやられて、ローソクが消えた! ローソクをくれ! 全部消える前に乾いたローソクをくれ!」

 こちらの部屋も水浸し。それを見た「博士」は、狂乱した。

「ローソクをくれ! 乾いたローソクをくれ! ローソクだ! ローソクをくれ!」

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 わめいては、手伝ったところで、他の部屋のドアはなかなか開かない。

 彼がようやく顔を出した隣人とローソクの話をしているときに、持ったローソクが消えそうになった「博士」は、ローソクの再点火に最後の期待をかけて、自室に飛び込んだらしい。

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「博士」の部屋から鋭い悲鳴が聞こえた。

 燃え尽きるローソクは消える前に大きく輝くというが、それどころではなかった。

「博士」が何をしたかわからないが、「博士」の部屋から炎が噴き出したのだ。 それは強風に煽られ、廊下まで燃え広がった。

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 助けるどころではない。彼とほかの住民は、暴風雨のなか死に物狂いで避難したが、その時に彼は見たのだ。

 炎の中に人影が2つあり、1つがもう1つを喰いちぎっているのを。

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「焼死体は、完全に骨だけでした。火事だからと言ってもね。ローソクを見ると、ローソクって絶叫を思い出しますよ。ここまで話せば、どうしてローソクを嫌うか、わかっていただけたでしょう。」

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「わかりますよ。」と、私は言った。

「実は、あなたのを持ってます。今晩消える前に楽しんでいただくつもりでしたが、よくお分かりのようだ。あなたにも、選ぶ機会を差し上げましょう。」

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