短編2
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無尾の狐

 会社の同僚と一杯やっていた。店外から微かに祭囃子が聞こえていた夏の夜のこと。

 うたた寝を始めた同僚を起こすと、彼は、なぜか「しまった」という顔をした。

 「今、狐に一緒に祭りに行こうと誘われてた。起きて、誘いに乗らなかったので、たたりがあるかもしれない。」

 「夢じゃ、狐も人の言葉をしゃべるのか。」

 「女に化けてた。で、自分で狐だと言っていた。」

 「尻尾はあったかい。狐なら化けても尻尾があるって言うぜ。」

 すると、同僚は「尻尾は無かった」と言い、彼の田舎の話を始めた。

 彼の田舎には狐の伝説がある。

 狐がついた家は、狐の要求に従うことで、その霊力により栄える。

 しかし、繁栄するにつれ、狐の要求はどんどん大きくなる。

 もし、狐の要求に応えることができなくなれば、あっという間に今までの全てを失ってしまうという。

 「どこかで聞いたような話だ」と返すと、

「故郷の方じゃ、その狐には尻尾が無いと言われてるんだ」と彼は呟いた。

 その後、しばらくして彼は会社に出てこなくなった。

 一日中部屋に閉じこもり、パソコンと向き合っているらしかった。

 まもなく、彼が会社を辞めるらしいと噂されるようになった。

 何かで儲けたのか、宝くじが当たったのか、会社勤めで稼げる以上の金を手にしたらしい。

 

 しかし、彼は会社を辞めなかった。

 正確に言えば、その前に自殺したのだ。

 遺書のように「もう出せるものがない」と殴り書きされたメモが残されていた。

 それを聞いたとき、私は狐の話を思い出した。

 要求に応えなければ、全てを失う・・・と。 

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ぼくも先日からやってて…ほんと怖いですよねえ…注意します。

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上手い!この話を読んだ方は解説をお見逃しなく。

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