会社の同僚と一杯やっていた。店外から微かに祭囃子が聞こえていた夏の夜のこと。
うたた寝を始めた同僚を起こすと、彼は、なぜか「しまった」という顔をした。
「今、狐に一緒に祭りに行こうと誘われてた。起きて、誘いに乗らなかったので、たたりがあるかもしれない。」
「夢じゃ、狐も人の言葉をしゃべるのか。」
「女に化けてた。で、自分で狐だと言っていた。」
「尻尾はあったかい。狐なら化けても尻尾があるって言うぜ。」
すると、同僚は「尻尾は無かった」と言い、彼の田舎の話を始めた。
彼の田舎には狐の伝説がある。
狐がついた家は、狐の要求に従うことで、その霊力により栄える。
しかし、繁栄するにつれ、狐の要求はどんどん大きくなる。
もし、狐の要求に応えることができなくなれば、あっという間に今までの全てを失ってしまうという。
「どこかで聞いたような話だ」と返すと、
「故郷の方じゃ、その狐には尻尾が無いと言われてるんだ」と彼は呟いた。
その後、しばらくして彼は会社に出てこなくなった。
一日中部屋に閉じこもり、パソコンと向き合っているらしかった。
まもなく、彼が会社を辞めるらしいと噂されるようになった。
何かで儲けたのか、宝くじが当たったのか、会社勤めで稼げる以上の金を手にしたらしい。
しかし、彼は会社を辞めなかった。
正確に言えば、その前に自殺したのだ。
遺書のように「もう出せるものがない」と殴り書きされたメモが残されていた。
それを聞いたとき、私は狐の話を思い出した。
要求に応えなければ、全てを失う・・・と。
作者退会会員
賢明な皆さんは、彼を殺した尾(o)の無い狐(fox)の正体にお気付きのことでしょう。
#gp2015