江戸時代の話となると、「都市」伝説ではない。
その頃は、月夜でなければ夜は真っ暗。 闇の中に百鬼夜行の幻想を見聞きすることができた。 また昼間ですら、狐やら狸やらが怪異を引き起こすことがあったのだ。
さて、そんな江戸の頃、町人たちが堀で釣り糸を垂れたところ、非常によく釣れた。
しかし、気を良くして帰ろうとすると、堀の中から「置いてけエ、置いてけエ」という恐ろしい声が・・・
有名な怪談 「置いてけ堀」 だが、 釣った魚を持って帰ろうとすると危なくとも、置いて逃げれば魚を失うだけで、大したことはない。
では、このような声が聞こえる怪異はすべて大したことがないか、と言えば、そうでもない。 あまり有名ではないが、「やろか水」 という話がある。
現在のA県がまだO藩であったときの話である。
そこを流れるK川は、昔から氾濫を繰り返し、流域の住民の命を奪ってきた。
そのときも、大雨でK川の水かさが増し、今にも水が溢れそうになった。
すると、どんよりした空の下、吹きすさぶ風に乗って不気味な声が聞こえてきた。
「やろかア、やろかア、水やろかア・・・」
その声は、止むことなく、だんだん強くなり、村人の頭に響くまでになった。
「やろかア、やろかア、水やろかア・・・」
ついに耐えかねた村人が、堤防に駆け上り、叫んだ。
「来るなら来てみろ!」
すると、足元から堤防が崩れ、水が一気に流れ出た。
水が引いた時には、村は跡形も無かったという。
作者退会会員