はじめまして。自衛官やってます。だいぶ前になりますが、僕が自衛隊に入隊した頃に体験した話を書きます。
僕が新隊員教育を終えて、初めて配属された某駐屯地での出来事です。
この駐屯地は田舎にあってわりと小さい規模の部隊でした。人数も少ないので、配属になって数週間で警衛勤務につくことになったんです。
警衛というのは24時間、駐屯地内の見回りや門番をしたりするんですね。まあ仮眠もあるし、次の日は休務で一日休みなんですけど、初めてだったんで妙に不安でした。
10人くらいで上番するんですけど、基本は二人一組で行動します。で、僕と組んだのがO2曹という人でした。
O2曹は30代後半くらいで、いろいろ親切に教えてくれました。朝10時に上番してから何事もなく過ぎていき夜になったんですが…。
駐屯地内の巡察ルートに「器材庫」というのがあるんですよ。器材庫といっても廃材とか木材とか駐屯地のお祭りで使う看板とかしか置いてなくて、ガラクタ倉庫みたいなかんじの小さい建物なんですけど、電気を点けても中は薄暗くてジメジメしてて、なんか不気味なんですよね。
それでO2曹と夜の1時くらいだったか巡察で歩いてたときなんですけど、器材庫の点検が終わったとき突然O2曹が、「Tくん(僕の名前)、肝試しやらねえか?」って言ってきたんです。O2曹は年のわりに子供っぽいというか、いたずら好きなところがある人みたいでした。その時は冬だったし、内心肝試しなんて嫌だったけど、当時新米陸士だった僕は逆らえませんでした。
聞けば、肝試しといっても自分らがやるのではなく、S1曹を脅かすというのです。S1曹というのは同じ日に上番してた40歳くらいの人で痩せて背の高い暗いかんじの人でした。「あの人ビビリだから絶対おもしれーよ。」O2曹はそう言って僕に計画を話し始めました。
その計画というのは、まあ単純なんですが、次の組と交代したら、例の器材庫に先回りして中で待ち伏せして脅かす、というものでした。 正直気が進みませんでしたが…
いよいよ交代になり、S1曹はもうひとりの陸士(僕の同期でした)と巡察に出て行きました。僕とO2曹は、仮眠の時間だったので仮眠室に行くふりをして警衛所の外に出ました。見るとO2曹は仮眠用の白いシーツを持ってきています。「これをさ、頭からかぶってウォーッって…」そう言って笑いを噛み殺してました。どうも脅かすのはO2曹の役目で、僕は何もしなくていいようです。実際何もしませんでしたが…
S1曹組が巡察ルートを回っている間に、僕たちは近道して器材庫に付きました。「Tくん、外にいてS1曹たちが見えたらドア叩いて教えてよ。」そう言ってO2曹は器材庫の中に入って行きました。
ほどなくして、遠くに懐中電灯の光と2人組の人影が近づいてくるのが見えました。器材庫の辺りは電灯もなく暗いのでまだ向こうから僕は見えないはずです。僕は急いでドアをノックして、器材庫の裏手に隠れました。
しばらくしてS1曹と僕の同期の話し声が近づいてきて、器材庫のドアが開く音がしました。
中の点検簿に記入するのは階級が上の人間なので中に入ったのはS1曹のはずです。
すると中でウオーというようなO2曹のくぐもった声が聞こえました。そして次に聞こえた声は今でも忘れられないのですが、金切り声のようなS1曹の絶叫でした。その声は途切れながら何度も続き、バタバタと何かが倒れる音まで聞こえてきました。
マズイと思って慌てて表に出て行くと、半狂乱になったS1曹が器材庫から飛び出して行くところでした。(一緒にいたはずの同期はいなくなってました)
僕はあまりのことに呆然としてましたが、O2曹のことが心配になって薄暗い蛍光灯に照らされた器材庫の中を覗き込みました。すると散乱した木材の上にO2曹が仰向けに倒れていました。頭からシーツをかぶり、半長靴(ブーツ)を履いた足だけがだらりと見えていました。そしてシーツに血が数箇所滲んでいました。
今はないんですが、当時は警衛勤務者は小銃と一緒に銃剣を携帯していました。恐怖で半狂乱になったS1曹は着剣(小銃の先に銃剣をつけること)して、O2曹をメッタ刺しにしてしまったらしいです。
僕はあの後、走って警衛司令のところまで報告に行きました。何を言ったか、その日その後何をしたか、ほとんど覚えてません。その後、O2曹は搬送先の病院で亡くなり(即死に近かったそうですが)、S1曹はどういう処分が下ったのかよく知りませんが、いつの間にか退職してました。
そして僕については(今思うと不思議なのですが)あまりそのことについて追求されませんでした。
これで終わりです。あの後2年くらいして他の部隊に移動になりました。
余談ですけど、今あの時のことを思いだそうとすると、シーツについた真っ赤な血よりも下の方から見えていた茶色の半長靴がなぜか浮かぶんですよ。つま先が蛍光灯の光を反射してすごく光っていて…。それが一番強い記憶なんです。なぜなんでしょうね。
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作者怖話