俺は紅茶が好きだ。
毎日外をみながらゆっくり紅茶をすする。
お気に入りの喫茶店でマスターの食器を磨く音を聞きながら俺は最後の時間を過ごす。
*
「マスターごちそうさま」
そう言ってお代をテーブルに置いた。
マスターはいつものごとく寡黙だ。
今日もそのまま店を出ようとしたその時、初めてマスターが口を開いた。
「未練が消えたようですね、どうぞゆっくり眠って下さい」
俺は店を出た後、喫茶店にうつった自分の姿を見た。そこには誰も居なかった。
俺は居なかった。
道行く人が俺をすり抜けていく。
「ありがとうマスター」
作者犬