wallpaper:3019
太樹(タイキ)と大樹(ヒロキ)は、一卵性の双子だ。
兄弟仲は良い。
片方が怪我をしたら、片方も同じ所を……なんていう、双子特有のシンクロニティも、2人にとっては珍しい事ではない。
wallpaper:1073
まだ2人が高校生の頃。
何気無い雑談の中で、大樹(ヒロキ)が良く見る夢の話を語り始めた。
wallpaper:3020
separator
大樹(ヒロキ)は知らない家の前に立っている。
洋風の大きな家だ。
所謂シンメトリー……左右対称の造りで、人の気配は無い。
玄関の扉は、閉まっていて開かない。
ふと辺りを見回すと、建物の左と右の端に、上へと続く外階段がある。
外観から判断して、3階に繋がっている様だ。
大樹(ヒロキ)は左端の階段から3階に上がった。
wallpaper:629
外階段を上がった先に、家屋内に入る扉がある。
ドアノブを回すと、カチャリという軽い音と共に、扉が開いた。
wallpaper:580
扉を開けてすぐ、長い廊下が奥へと延びている。
左側に扉が3つ、右側には窓が並び、大樹(ヒロキ)が立っていた庭先が見えた。
wallpaper:69
窓は大きく外も明るいのに、何故か廊下は薄暗い。
とは言っても廊下の照明自体が暗めなので、大樹(ヒロキ)にはモダンな空間を作り出す、演出に思えたという。
大樹(ヒロキ)は、一番手前の部屋から順番に見ていく事にした。
wallpaper:5
バスルーム……
wallpaper:3021
寝室……
wallpaper:23
リビングルーム……
3つの部屋が、内扉で繋がっている。
どうやら、3階はゲストの宿泊用の部屋らしい。
どの部屋も今しがた清掃した様に、清潔で整っていた。
wallpaper:1102
再び廊下に出て奥に進むと、廊下の突き当たりに、もう1つ扉を見付けた。
扉の左手には、階下へと続く階段がある。
中央に位置する扉に手を掛けるが……開かない。
鍵が掛かっている様だ。
1夜目は、ここで目を覚ました。
・・・・・
wallpaper:3022
separator
2夜目……
大樹(ヒロキ)は階段を見下ろしている。
どうやら、前に見た夢の続きらしい……そう理解出来た時には階段を下りていた。
wallpaper:1102
階段を下り終えると、3階で見たのと同じ扉が目に入る。
基本の造りは同じ様だ。
一応、この扉も引いたり押したりしてみたが、上の階と同様に開く気配は無い。
wallpaper:580
前回とは逆に、家の中央から2階の廊下を見渡す。
左に窓、右に3つドアが並んでいる。
違うのは、突き当たりに外階段へと出る、扉が無い事だ。
手前から中を見ていく。
wallpaper:36
女性の部屋……
wallpaper:556
男性の部屋……
wallpaper:1906
………………何も無い部屋……
他の部屋と違い、この部屋には何も無い。
……ああ…子供が生まれたら、子供部屋になるんだ……
大樹(ヒロキ)は漠然と、そう思ったという。
長居しても仕方ない……
部屋を出ようと、踵を返した。
wallpaper:116
ジリリリリッ……ジリリリリッ……
nextpage
突然、室内にけたたましい音が鳴り響く。
まるで大樹(ヒロキ)を呼び止めるかの様だ。
ビクリと体を跳ね上がらせて、反射的に辺りを見回す。
wallpaper:247
ジリリリリッ……ジリリリリッ……
nextpage
何も無いと思っていた部屋の片隅で、時代遅れの黒電話が鳴っている。
大樹(ヒロキ)の中で、動揺と不安が膨らんでいく。
wallpaper:33
……何だよ、これ……怖い夢なのかよ…………
可笑しな話だが、大樹(ヒロキ)はこの時、本当にそう思ったそうだ。
ただの探索の夢だと思っていたのに……騙されたそんな気分だったらしい。
wallpaper:247
ジリリリリッ……ジリリリリッ……
nextpage
そうこうしている間にも、電話は出ろ!出ろ!と催促している。
躊躇しながらも、大樹(ヒロキ)は受話器へと手を伸ばした。
nextpage
ジリンッ!ガチャッ!!
「…………も…もしもし…?」
上擦る声で受話器に話し掛ける。
耳許でサーッと雨の降る様な音が聴こえた。
…………何も…言わない…?
少しだけ、心臓の動悸が治まり掛けた。
nextpage
『………次…会え……』
受話器の向こうで、小さな声が聴こえる。
心臓が再びドクドク…ドクドク…と音を上げ始めた。
「え?何?!聞こえない!」
叫ぶ様に話し掛ける。
丸っきり、空元気だ。
nextpage
『怖いよ』
nextpage
今度はハッキリと聴こえた。
……というより、直接耳許で呟かれた。
その声は…………双子の兄である太樹(タイキ)のものだったそうだ。
夢はそこで終わった。
・・・・・
wallpaper:580
separator
3度目の夢を見た時、大樹(ヒロキ)は心の底から後悔した。
太樹(タイキ)に夢の話をしておけば良かった……そう思ったのだ。
wallpaper:1889
2度目の夢から目覚めた後、まだ時間に余裕があったので遂、2度寝した。
その時に巨大生物に押し潰される夢を見て、屋敷の夢を忘れてしまったのだ。
wallpaper:69
だが、大樹(ヒロキ)は確信していた。
太樹(タイキ)もこの夢を見ている。
双子特有の、あのシンクロしている感覚が、ハッキリと感じられるのだ。
太樹(タイキ)はこの建物の何処かに居る。
少しワクワクしてきた。
夢で会うのは、初めてだ。
自分の意識がこんなにハッキリしているという事は、太樹(タイキ)も夢だと自覚しているだろう。
……さて、会ったら何を話そうか…そんな事を考えながら、辺りに目をやる。
wallpaper:580
いつもの廊下だ。
左に扉が3つ、右に窓……突き当たりに、扉が見える。
後方は壁……という事は、外階段側の部屋の前だ。
wallpaper:84
前回の続きかと思ったが、窓から見える景色が違う。
大地が近い事から、ここが1階なのだと悟った。
目の前の扉を開ける。
wallpaper:3023
飾り気の無い、棚の並ぶだけの部屋だった。
棚の中を確認すると、どうやら食料庫らしい。
林檎が赤々として旨そうに見えたが、“ヨモツヘグイ”なんて言葉を思い出し、手を出すのは止めた。
wallpaper:580
次の部屋へ進もうと、廊下に出た時、『ゴトンッ』という音を聞いた。
体が強張り、動きを止める。
音の出所を探ろうと、廊下の奥に目を向ける。
…………突き当たりの扉から聴こえた……気がした。
wallpaper:1102
扉の前まで進む。
……ガタッ…………ゴトッ…
微かだが、扉の向こうから聴こえてくる様だ。
nextpage
「……太樹(タイキ)…?」
扉に向かって、声を掛けた。
……返事は無い……だが、気配は感じる。
産まれた時から隣にあった、太樹(タイキ)の気配だ。
nextpage
「太樹(タイキ)だろ?ココ、開けてくれよ?」
ドアノブを、ガチャガチャと回してみる。
…………駄目だ、開かない。
ドンドンと叩いてみると、向こう側からもドンドンと返ってくる。
少し安心した。
nextpage
「どっかに鍵が無いか探してくるわ、どっちが開けるか、競争しようぜ!」
叫ぶ様に話し掛けると、一際大きく『ドン!!』と、返ってきた。
俄然やる気が出てくる。
扉に背中を向け、いざ!探索再開……と意気込んだ所で、夢は幕を降ろした。
・・・・・
wallpaper:1073
separator
・
・
・
「……って、所までなんだけど。」
語り終えた大樹(ヒロキ)は、お茶を啜る。
大樹(ヒロキ)の中では、太樹(タイキ)も分かっている事が前提だ。
シンクロのあの感覚が、間違っていた事は無い。
nextpage
「俺が思うにさ、あの建物って左右対称じゃん?」
「俺が左側にいて、お前が右側……あの真ん中の扉が、家の中心って事じゃね?」
自信満々に言って、双子の意見を求める大樹(ヒロキ)。
だが、太樹(タイキ)の反応は、予想を裏切るモノだった。
wallpaper:116
太樹(タイキ)は大樹(ヒロキ)に背を向けて、ガクガクと体を震わせている。
不審に思った大樹(ヒロキ)が、顔を覗き込むと、顔面蒼白にして歯の間から、ウーウーと唸り声を上げていた。
「ちょっ、どうしたんだよ?太(タイ)……ッ!!」
声を掛けた瞬間、ガッツリ肩を掴まれた。
太樹(タイキ)の怯えた瞳が、大樹(ヒロキ)を捉える。
nextpage
「何で“開けて”ないんだよッッ!!」
太樹(タイキ)が怒声を放つ。
大樹(ヒロキ)は意味が分からず、ただひたすら呆然としていた。
太樹(タイキ)は肩で息をしながら、「クソッ」とか「何で…!」と独り言を吐き捨てている。
その様子にビビリ捲っていた大樹(ヒロキ)だが、余りの意味の分からなさに、段々と腹が立ってきた。
wallpaper:1073
nextpage
「何なんだよ!ちゃんと話せよッ!!」
今度は逆に、大樹(ヒロキ)が怒鳴る。
しかし怒鳴った瞬間に、こんなに怒鳴り合いの喧嘩なんて、何年ぶりだろう……という考えが過り、少しだけ冷静さが戻ってきた。
wallpaper:3024
幸いな事に、その感情は太樹(タイキ)も伝わった様だ。
とても小さな声ではあるが、すまん…と呟いた太樹(タイキ)は、ズルズルとその場にしゃがみ込み、ポツリポツリと語り始めた。
nextpage
・
・
・
続く……
作者怪談師Lv.1
長い駄文にお付き合い頂き、有り難うございます。
思った以上に、長くなってしまいました。