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【十物語】第八夜 母の起こした奇跡

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【十物語】第八夜 母の起こした奇跡

怖い話のお鉢が回ってくるなんて、これも何かの縁なのかなぁ?

実は昨年末、母ちゃんが亡くなりました。

享年72。

亡くなる前日までピンシャンしてたから、今でも全然、亡くなった実感がない。

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病気とも無縁の人で、生まれてからこのかた寝込んだことがないのが自慢の人だった。

俺には二つ歳の離れた妹がいて、妹は毎月の生理が重くて、ひどい時は貧血起こして寝込むタチだったから、母ちゃんによく「なんだい、生理くらいで!情けないね!」なんて言われて、そんな母ちゃんを妹は恨めしそうにしてたよ。

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家族に対しては、まったくKY。

病気だろうが怪我だろうが「ツバつけときゃ治る!」とか平気で言う人だから、父ちゃんも俺も妹も呆れるを通り越して母ちゃんをまともに相手するのは避けてたトコがあった。

けど、明るい性格だから外には茶飲友達とか多くて。

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葬式の時も「友達だけで何人いるんだ!?」ってくらい、長い参列ができてたよ。

まぁ、そんな母ちゃんだったけど、亡くなってすぐに不思議なことがあった。

俺は結婚5年目になるんだけど、なかなか子宝に恵まれなくて半分は諦めてたんだよな。

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…っていうのも、カミさんが生まれつき子宮が小さくて「子供ができにくい身体」だというのを、医者に言われたから。

女の人って、まぁ、俺は男だからよく分からないけど、早いと四十後半には生理が上がっちゃう人もいるとかって聞いたからさ。

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俺も焦ってたトコあったかも。

だってやっぱり、好きな女と一緒になれたなら、その人との子供が欲しいと思うのは自然な欲求だと思うんだよね。

母ちゃんも「孫はまだかい?」なんてせっつくもんだから、報告がてら相談したこともあった。

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けど、やっぱあの性格だから「大丈夫!大丈夫!心配しなくても、できる時はポン!とできるもんなんだから!」なんて言って、ガハハ!って笑ってたなー。

俺の方は真剣に悩んでるのに、母ちゃんには呆れてものも言えなかった。

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そんで、母ちゃんが昨年末に亡くなって、葬式が終わった翌々日くらいだったかな?

亡くなった母ちゃんから荷物が届いたんだ。

スゴいデッカいダンボール。

中身は野菜だった。

…とはいえ、いつも送ってはくれてたんだ。

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母ちゃん、農家の手伝いしてたから。

「野菜も高くなったと嫁が愚痴ってる」なんて話をしたら、農家の手伝いでお裾分けしてもらった野菜が父ちゃんと2人だけでは食べきれんから、って送ってくれるようになったんだよ。

人参とか大根とか、ほうれん草とかトマト、キュウリにキャベツ、ピーマン。

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規格外で市場には出せないものを貰うせいか、形の悪いのや極端にデカく育ったものとか、いろいろあったけど、でも美味かった。

やっぱ田舎で採れたばかりの野菜は違うなー、ってカミさんとよく話してたよ。

嫁に行った妹の方にも送ってたみたいだけど。

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まぁ、そんなんで、亡くなる直前に送ってくれたんだろうなー、なんて思って、野菜と一緒に入ってた手紙を開いて読んだんだ。

そこには、俺やカミさんの多忙な生活を心配するような一文と「子供なら大丈夫。すぐできるさ」なんてノンキな文章が書かれていた。

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まったく、最期まで「らしい」人だったよ、母ちゃんは。

ため息をつきつつ、野菜を片付けているところに出掛けてたカミさんが帰ってきて、いきなりこう言ったんだ。

「子供ができてた!」

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思わず「は?」って、首を捻っちゃったよ。

馬鹿みたいに口を開けてポカンとする俺に、カミさんは「私達の赤ちゃん!三ヶ月目に入ったところだって!」って告げた。

…突然のことで頭が回らなくなるって、本当にあるんだな。

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「子供なら大丈夫。すぐできるさ」

母ちゃんの一文が頭の中に蘇って、持ってた手紙をまた開いてカミさんに見せたんだ。

いや、なんかもう、それしかできなかった。

本来なら、まずはカミさんに「よくやった!ありがとう!」と言うべきなんだろうけど…。

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母ちゃんの手紙を読んだカミさんは驚いてた。

「このタイミングで読むと、なんだかお義母さんからの贈りものみたいだね」って。

それから、野菜の片付けもそこそこに二人で実家にすぐ行ったよ。

四十九日までは墓に納めず、母ちゃんの骨は実家の居間にあるからって父ちゃんが言ってたんだ。

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いきなり帰ってきた俺たちに、父ちゃんは驚いてたけど、事情を話したら喜んでたよ。

ただ、母ちゃんが生きてるうちに孫を抱かせてやれなかったのは残念だと言ってた。

俺とカミさんは、母ちゃんにお礼を言って手を合わせた。

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なんか、すぐにでもその辺からヒョッコリ出てきて、「ほら、大丈夫だって言っただろう?」とか軽口叩きそうな気がして、少し泣けた。

泣けたのは、子供ができた嬉しさもあったけど、親孝行あまりしてやれなかったから、その後悔もあったのかもしれない。

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明るくて豪快でKYな母ちゃんだったけど、いなくなると、生きてた時のありがたさが身にしみる。

母ちゃんはいつもの調子で「大丈夫」って手紙に書いたんだろうけど、俺とカミさんにとっては大きな奇跡だったんだと今でも思うよ。

親って生きてる時はウザいとか思ったりもするけど、やっぱりありがたいね。

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親がいたから自分が生まれて結婚できて子供を授かって、そうやって一つの大きな繋がりができる。

これも一つの「奇跡」だよね。

親が欠けても自分が欠けても、現在っていう幸せは存在しないんだからさ。

あ、ちなみに子供は順調です。

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夏にはみんなに、お披露目できるかな。

母ちゃん、ホントありがとう。

俺の大事な友人の結婚式も、温かく天国から見守ってると思います。

二人とも、末永く幸せにな!

[おわり]

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浜田 様

コメントありがとうございます。

「いいね」が欲しくて投稿してるわけではありませんし、感じ方は人それぞれだと思います。
読んでいただけただけでも、ありがたいです。

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怖話に投稿されたものでなければ素晴らしいお話でした。これは、怖い話ではないです。普通のジャンルの投稿でしたら間違いなく「いいね」を押していました。残念です。

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