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中編4
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うかぶことなく

皆さんこんにちは、毎日暑いですねぇ。

私は毎年思うのですが、クラゲの出る海はともかくプールって少し閉めるの早いですよね。

私が知ってる場所はほとんど8月31日で閉園です。まだ暑いのに……。

でも別に泳げる場所は海とプールだけじゃないですからね♪今回はそんなお話です。

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私が子供の頃暮らしていた場所から車で一時間半程行った所に、とてもとても大きな湖がありました。

その湖はもちろん遊泳もできて、モーターボートやアヒルのボートまで乗ることの出来る、子供にとっては夢のような遊び場でした。

私は幼稚園の頃からスイミングスクールに通わされていたので、泳ぎは比較的得意でした。

しかしそれはあくまで人工的な場所でのこと、その湖の遊泳場は水が濁りすぎていて深いのか浅いのかも分かりません。

小学生になったばかりの私には少し怖かったのです。

いえ、本当は今も怖いのです。なぜなら私はこの世の何よりも一番サメが怖い……

もちろんこの湖にはいませんよ、湖ですからね。

でも祖父が漕ぐボートに乗せられて湖を漂っていると、どうしてもサメの映画を思い出して怖くなるのです。だってもしかしたら湖にも一匹くらい……。

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祖父は泳げるくせにボートから飛び込まずに怯えている私に腹を立てたのでしょう。

“せっかく混んでいる波打ち際より奥にある遊泳場所までボートを漕いで連れてきてやったのに”

その想いは視線で感じてましたよ、でも恐怖って理屈ではないんです。私は泣きそうな顔でボートの上から、いるはずのないサメの影を追っていました。

そして私は空中を軽く舞うと、頭から湖に放り込まれました。先に言っておくと祖父は決して悪いひとではありません、ただちょっと調子に乗ってしまう事が多かっただけです。

祖父の手で湖に放り込まれた私は何が起きたのか全く分からず、泳ぐどころかただもがいていましたが「死ぬなこれ」と感じた瞬間から冷静になり、一度足の着くところまで沈んで地面を蹴り、反動で水面に浮上しました。

この一件は後に家族会議にもなったのですが、開き直った祖父の態度で私が悪いという結果になりました。理不尽……

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そしてその湖にはなんだかんだで毎年行っていました。バカな私は一年も経つと恐怖なんてわすれてしまいます。毎年その湖で楽しく泳いでいました。

ある年に私は子供たちだけでその湖に行きました。

中学生くらいの時だったでしょうか、はっきりした時期は覚えていません。

私達は泳ぐのに飽きた頃、友達と一艘ずつボートを借りてレースをしていました。

そして知りました。この湖は私達が考えているよりもずっとずっと広かったのです、私達は湖の中心付近はとても水が綺麗で澄んでいる事に驚きました。

友達は皆、身体を焼くためにボートを止めてそのまま寝そべりました。

私は一人初めて見る湖底に心を奪われていて、以外と湖の中心部は浅いんだなぁとか考えてました。

だって湖底の何もかもがはっきり見えて、すぐ手が届きそうなんです。

湖にもほんの少し波はあるのですが、そこは本当に静かで穏やかでした。そんなときグラングランとボートが横に揺れました。

私は誰かにぶつかったかなと周りを見渡しましたが、友達みんなは50~60mくらいの間隔を開けてのんびり身体を焼いています。

岩にでも……と体を乗りだし湖底を覗いた時に彼女と目が合いました。

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湖の中に少しぶよっと膨らんだ女性が立っていました。その女性は顔を上に向けたまま両手を上へ、つまり私の方へ向けて目を見開いていました。

生きてない。感覚で私はそう感じました。

でもその女性は今にもボートに乗って来そうな気配で水面ギリギリのところまで来ています、顔も手もボートに届きそうな程に。

私は思いきってオールを漕ぎました。

三回くらいオールを漕いだあたりで左手に違和感を感じ、もう一度さっきの場所を振り返りました。

女性はまだそこに浮いていました、たださっきよりも随分と深くの水底にいます。戻っていったのでしょうか。

あれは水死体なのだろうとみんなを呼び、警察に連絡しました。私達はすぐに警察からは解放されましたが、最後にこんなことを言われました。

あの場所は毎年のように水死体が見つかるようです。あの付近の水深は5~6mもあり、水温は真夏でも12度以上にはならないそうです。

死亡する方はみんな自殺など考えておらず、軽い気持ちで水に浸かり、そのまま2度とボートに帰れなくなるようです。水底には海藻がたくさん生えており、足をとられてしまうのかもとも言っておられました。

私は心底怖いと思いました。腰まで浸かるくらいの気持ちで水に飛び込んだら、ボートは遥か上に。

澄んだ水というのがレンズのように距離感を狂わせ湖を浅く見せるのでしょうか。

だから私がオールを漕いで逃げようとしたときにも、左側にいるはずの彼女にぶつからなかった……

あの左手の違和感の正体は距離でした。

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しかし私は警察から話を聞いてもうひとつの違和感を感じました。

彼女と私は5mも離れていたのに一体誰が私のボートを揺らしたんでしょうか、ぶつかるはずのない距離なのに。

それに……誰にどう説明されても、やっぱり彼女は私のすぐ近くにいた気がするんです。

吐息を感じそうな程に近く、這い上がれないほどに遠くにいる彼女の眼球のない目は、はっきりと私を見ていました。やっと届いた私のボートに彼女は乗ろうとしたのではと今でも考えてしまいます。

怒りや憎しみを持った霊は強いとよく聞きます。

でも私はほんの少しの間違いで、あと一歩届かない。

そんな霊の方が執着は強いんじゃないかなぁと考えております。

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